メタバースで人類は進化する? 本郷 峻×バーチャル美少女ねむが霊長類の社会から考える“人類の未来”
美少女同士なら、よりスキンシップがとりやすい?
ねむ:メタバース内のコミュニケーションに着目してデータを集めた結果、個人同士の距離感に特徴がありました。約7割の方が、現実と比べて、かなり近い距離感で話しているんですよね。
また、現実のホモサピエンスは、恋人や家族以外の人とはあまりスキンシップを取らないと思うんですけど、メタバースではかなりスキンシップの機会が多いです。
本郷:そこについて質問なんですが、海外の方でも距離感は近くなるんですか? たとえばフランス人は、性別関係なく挨拶として頬を合わせますよね。この前行ったコロンビアでも、女性の方とハグで挨拶していました。日本人の私からすると、今でもちょっとドキドキしますね(笑)。フィールドワークに何度行っても、こればかりは慣れません。
ねむ:そうおっしゃると思って分析してみたのですが、日本以外のユーザー間でも距離感が現実よりも近くなる、という結果が出ました。元々距離感が近めの文化圏でも、アバターを介するとより近くなる傾向があります。
本郷:やはり、アバターの存在がコミュニケーションに影響しているんでしょうか。美少女のアバターになったから、行動も美少女に寄っていくと。
ねむ:実は私も、はじめの頃はソーシャルVRで起こりがちな触り合うコミュニケーションに戸惑いがありました。でも、気づいたら近距離でベタベタ触り合うのが当たり前になってしまったんです。もちろん、ハラスメントにならないようには気をつけないといけませんが。
いざ触るにしても、目の前にいる相手も美少女だし、なんなら自分も美少女、というシチュエーションが多いことも影響していると思います。メタバースだと可愛いアバターが多いんですよね。
本郷:アバターだとお互いの性別を意識しないから、触り合うのに抵抗がなくなっていくんでしょうか。たとえば現実世界の若い女性でも、メタバース内では同じ美少女アバターを着られるんですか?
ねむ:性が分化する前の子ども同士のような感覚で、ベタベタ触り合っても違和感を覚えづらいというのはあると思います。女性の場合も可愛い美少女アバターを使っている方が多いですね。
本郷:美少女同士なら近づいても違和感や忌避感がないんでしょうか?もしかすると、自分がアニメの世界に入った感覚になっているのかも……。
ねむ:そうですね。現実の女性になっているというよりは、アニメのような架空の世界でキャラクターになっている感覚、といった方が近いかもしれません。可愛さや、性別に加えて、姿かたちが抽象化されたことにより人間の生々しさが薄まったから、ソーシャルディスタンスの必要性がなくなっているというのもあると思います。
メタバースの文化はどこから来た?
本郷:先ほどの距離感の話を聞くうちに、ある仮説が浮かびました。現在のメタバース内におけるコミュニケーション方法って、最初にメタバース世界に来た人たちのやり取りが広まったものだったりしませんか?
小規模なコミュニティに見られる現象に、「先にいた人たちのマネをする」というものがあるんです。たとえば、最初にメタバースに来た人たちが、たまたま物理的距離が近い国の人たちで、距離感の近いコミュニケーションを取っていた。後から来た人たちは最初の人たちの行動を学習して、「メタバースではこういうものだ」という文化が作られたんじゃないでしょうか。
ねむ:その可能性はあると思います。メタバースの人口が急激に増えたのはここ3年くらいなんですが、もっと初期の頃は今以上にサブカル色が強く、「美少女キャラクター同士でイチャイチャしたい」という人が多かったと思います。そのカルチャーが引き継がれているのかもしれませんね。
本郷:今後人口が増えたら、その伝統がどうなるのか気になりますね。今回はclusterを体験しましたが、メタバースのサービスが違ったら、コミュニケーションにも違いが生まれるのか、とか。
ねむ:実は私達の調査では、今後定点観測をして、それぞれのサービスにおけるコミュニケーションの文化が経年でどう変化していくかを探っていく予定です。どんな結果が出るか楽しみですね。