兼業eスポーツ選手がプロシーン優勝 あぐのむが語る「プレイしていない時間」の重要性

兼業eスポーツ選手は「本当に強くなるための選択」

――兼業選手になるという決断の際には、いろいろな声も届いていたと思います。そのなかで結果を出せたことについてはどうでしょう?

あぐのむ:たしかにネガティブな声ももらうことはありましたが、本当に強くなるための選択だったので、それが証明できてよかったなという気持ちです。だから「見返してやろう」みたいな感情はまったくありません。いろいろ迷った結果での判断でもありましたし、僕も専業で4年戦った経験がなければ、兼業にチャレンジするという考えは全然なかったと思います。だから、専業での経験も無駄ではなかったんです。それまでずっとやってきたからこそ、たどり着いた考え方ですし、大事にしていきたいなと思いますね。

――さまざまな仮説を立てて、検証しながら正しい方法を探すというのは、専業選手時代から変わらないあぐのむ選手の軸のように感じます。

あぐのむ:それはプロになったときから、ずっとそうですね。常に「なんでこれをやるのか」と考えながら生きてきましたし、そこに挑戦した結果について、これまで全く後悔したことがないですね。「とりあえず、したほうがいいか」みたいに、自分で考えずに取り組んだことは、結構後悔がありますが……。自分で考えて、自分で行動するというのが、僕が人生において一番、大事にしていることですね。決断するときは、とことん考え抜きます。

――YouTubeでの発信などもされているなかで、兼業選手ならではの発信方法などは考えていますか?

あぐのむ:まず、仕事をしながらでもゲームは上手くなれると発信したいですし、社会で働いている方々に「頑張ろう」と思われるきっかけになりたいなと、ずっと思っています。兼業のプロゲーマーはあまり多くないと思いますが、そういった形があってもいいとずっと思っているんです。まだまだeスポーツ選手だけでやっていくのは不安定な面もありますし、もし兼業という形が確立されていけば、さらに「eスポーツを頑張ろう」と思える方も増えていくと思いますし、eスポーツ業界も発展していくと思うんです。「仕事もゲームもバリバリ」みたいなスタイルの、ひとつの広告塔みたいな形になりたいというのが夢ですね。

――特にシャドウバースは、就職をきっかけに辞めてしまう人が多いイメージもあります。すごくもったいないと感じているんですが……。

あぐのむ:わかります。僕も大学生のころにシャドウバースを始めて、友達が社会人になったとき、みんなシャドウバースを辞めて疎遠になってしまったという経験があります。シャドウバースに本気で取り組むなら膨大な時間が必要というわけではないですし、4th Seasonの優勝で僕がそれを証明できたとも思います。シャドウバースに限らず、ゲームを競技的にプレイする人口がどんどん増えてほしいですね。

――いまはeスポーツ専門学校で講師をされていますが、そのなかで「社会人になってもゲームをプレイしてほしい」という思いが強くなる面はありますか?

あぐのむ:僕が所属しているeスポーツ専門課は、兼業プロゲーマーを目指すカリキュラムになっているんです。僕は自らその体現者となっているんですが(笑)、実際に兼業プロゲーマーという形はいまの時代にマッチしているとも思います。プロゲーマーになれなかったときのリスクヘッジとしても、一度就職することは大事だと思いますし、生徒に話すこともあります。eスポーツの本当のトップ層だけを見ていると「リスク承知でやらないと強くならない」と思う方もいらっしゃるとは思うんですが、誰もがそこに行けるわけではありません。生活の安定があった方が成績を出せるタイプも、僕のようにいるわけですしね。

 なにより、ゲームを逃げ場にはしてほしくないんです。もちろん、トップにいるのがすべてをゲームにコミットするプロゲーマーというのは事実ですが、順番として「ゲームにすべてを捧げたからトップになれた」ではなく、「プロゲーマーになるという選択肢が生まれたから、そこに向かって頑張った」という形が本来の姿だと思うんです。トップ層を言い訳にして最低限の行動をせず、ゲームに逃げる形にだけはなってほしくありません。もちろん、プロゲーマーを目指すために練習するのはいいんですが、最低限でも就職は保証してあげたいなという気持ちで、資格勉強などの授業もして、生徒に対しても話したりしています。

――たしかに、実際にうまくいかなくなったとき、ゲームのせいにしてしまうのは悲しいですよね。

あぐのむ:はい。だからこそ、ポジティブな形で「兼業プロゲーマー」が増えればいいなと思っています。

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