ネットミーム専門家が振り返る“2023年の流行とその傾向” 「オタクをいじる側のミームが増えた」
「良いサムネとタイトル」の誕生秘話
ーーミームが生まれる背景について語っていただきましたが、大久保さんは以前「良いサムネとタイトル」というXアカウントを運営しており、当時は自らミームを見つける発掘者的な活動をしていたんですよね?
大久保:そうですね。もともとXの一部界隈には、YouTubeのサムネイルとタイトルの組み合わせが面白いものをポストするという文化があったんです。僕もそういうのを探すのが好きで、よくYouTubeでランダムな言葉を検索して、面白いと思ったサムネイルをポストしたりしていました。
アカウントをはじめたころの、いまみたいにYouTuberという職業での稼ぎ方が形式化されていない時代に投稿している人は収益を意識するというよりかは、「自分が動画を投稿したいから上げてる」というスタンスの人が多くて。サムネイルと動画のつくりかたもよくわからないから、自分の持っているセンスのなかで1番いいと思ったものを投稿していました。
その結果、絶妙なチープさがあるサムネイルとタイトルになっていて、それがすごく好きでいいなと思っていたんです。まさしく、先ほど紹介した「サカバンバスピス」のような、一般の人が生み出した民芸品のようなものですよね。そういうラインにあるサムネイルとタイトルの取り合わせを選んで投稿していたんです。もうアカウントは別の人に譲ってしまったので、運営はしていないのですが。
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— 良いサムネとタイトル (@nice_thumb_nail) January 8, 2022
ーー「良いサムネとタイトル」は、当時のYouTubeだからこそ生まれた産物ですね。
大久保:ネットミームって、けっこう奇跡的な偶然性によって生まれたものが多いんです。たとえば先ほど紹介した「てんどんまんソロ」も、あの場所でてんどんまんが踊っていたからこそここまで話題になったと思います。あれがアンパンマンで、歓声も入っている動画だったらミームにはなっていなかったんじゃないでしょうか。
ネットミームは人とつながるための救済アイテム
ーーネットミームの世界について語っていただきましたが、改めて大久保さんはネットミームのどこに魅力を感じているのでしょうか?
大久保:ネットミームの良さって、ひとりぼっちになる人が少ないことだと思うんです。人とコミュニケーションをとるときに助けてくれるアイテムというか、会話で盛り上がるのが苦手な人にとっての救済のような存在じゃないかと思います。
僕自身、ミームに詳しくなったきっかけはコミュニケーションを取るためでした。高校時代にクイズ研究会に所属していたんですけど、僕がいたクイズ研究部の人たちって、知識欲求があってめっちゃオタクというか、ナード気質なとこあったんです。そういう人たちとコミュニケーションを取るために、2ちゃんねるから生まれた「なんJ語」を履修しておこうとしていたときもあって。
お互いに知っているミームがあると、打ち解けやすいじゃないですか。それにそもそもミームって、誰にでも模倣ができるから拡散されていると思うので、とっつきやすいんです。そういったところが、ミームの良さなんじゃないですかね。
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