VRChatライブの歴史が塗り替わった日――『CIEL LIVE SHOWCASE at VRChat』レポート
観客もひとつになった、“空”に舞うライブ
開場からほどなくして、夕焼け空が夜空へと移り変わり、ライブ本編がスタートした。
リアリティのある照明の動きに合わせて、CIELがステージの上にあらわれた。逆光の中から浮かび上がる瞬間は、まさに「現実のライブ」を観ているようだった。高音域までのびやかに響くCIEL本人の歌声も相まって、1曲目から観客のテンションは最高潮に達していた。
打って変わって、合間のMCパートからはあどけなさを感じさせる。400人のステージを前にささやかなコールアンドレスポンスを仕掛けるCIELの姿には、少女らしい愛らしさもあった。そして、わずかな息遣いすら響くMCパートには、強烈な“現場らしさ”が宿っていた。
ライブがスタートして気が付いたのは、専用アバターの衣装が曲に合わせて様々な色に発光していたことだ。さながらサイリウムやペンライトのように、ステージに呼応して光る観客は、会場全体の一体感をあざやかに作り出していた。もちろん、その中に筆者も含まれている。いるだけで演出に貢献できるという感覚は心地よいものだ。
1曲目「馥郁の街」に続き、2曲目「空より」では、会場全体が一瞬揺れた後、空に舞った。会場全体が飛行船となって空を行く中で歌うという演出は、バーチャル表現としてはベタではある。しかし、風の表現やシャボン玉の舞う空を駆ける瞬間など、随所に仕込まれた表現によってこれ以上とない躍動感を感じられた。そしてなによりも、この演出はフランス語で「空」を意味する「CIEL」を名に冠するシンガーにふさわしいものだったといえよう。
驚きに身を任せていると、あっという間に時間は過ぎ去っていった。「またきっとすぐ会えますので、楽しみに待っていてください」と告げ、CIEL最初の単独ライブは幕を閉じた。
会場を後にするとき、ふと通路の横を見やると、左右には同じように“帰っていく人”の姿が見えた。「同じ時間を共有した」という事実を、ゆるやかに共有する存在を感じられるのも、現場のよいところだ。入場ゲートを出て、スタッフに「ありがとうございました」と声をかけられるところまで、あらゆる時間に「ライブ会場」らしさが宿る、贅沢な時間だった。
歴史を塗り替えた一夜
わずか2曲。この日限りは「今きたばっかりなのに!」と叫んでも、偽りのない観客の本心としてあつかってくれただろう。
それでも、2曲だけとは思えないほどの密度があるライブだった。CIEL本人の歌唱力、リアリティを感じられる照明演出、躍動感のある非現実的な演出。ライブ本編のクオリティにくわえ、「400人の生きた観客」と「半指定された客席」の存在が、これ以上となく“リアルなライブ会場”の空気を作り出していた。
本ライブにおいて、もっとも驚くべき点をあげるとすれば、やはり「VRChatの収容限界」を擬似的に突破した、という事実は大きいだろう。リッチなバーチャル体験を得られるが、同時体験人数が限られる、というのは『VRChat』のぬぐいがたい欠点でもある。
『CIEL LIVE SHOWCASE at VRChat』は、観客のアバターが制限されるものの、この欠点をうまく解消していた。観客用アバターも世界観に沿ったものにしつつ、ライブの演出にまで組み込むことで、アバターを制限される不満を感じさせない手法は見事だった。
誇張抜きで、『CIEL LIVE SHOWCASE at VRChat』は『VRChat』開催音楽ライブの歴史を塗り替えた、決定的な一夜だったように思う。KAMITSUBAKI STUDIOプロデューサーのPIEDPIPER氏も大きな手応えを感じているようで、「あらためてこの実験は続けていきたい」というコメントを残している。このことからも、次回への期待が高まる。
『CIEL LIVE SHOWCASE at VRChat』は、12月3日23:59までYouTubeにてアーカイブ公開が予定されている。映像越しでもそのクオリティと“現場の空気”の一端が伝わると思うので、気になる方はぜひチェックしていただきたい。
■関連リンク
『CIEL LIVE SHOWCASE at VRChat』アーカイブ
次元と国を越境して展開される“考察の共創” 『神椿市建設中。』序盤に感じた熱狂
V.W.Pとして活動する花譜や理芽、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜を筆頭に、様々なバーチャルアーティストやクリエイターが次元を超えて集…