『ファイナルファンタジーXI』音楽の歩みーーXIの日を記念して

ヴァナ・ディールの音楽世界を豊かに伝えるバンド活動

 『FFXI』ではシンフォニック/民族音楽調の楽曲を数多く手がける水田だが、シンセサイザーサウンドに長け、つねに様々な音楽ジャンルから刺激や影響を受ける懐の広いリスナーでもある。『プロマシアの呪縛』サウンドトラックのライナーノーツでは、制作時に聴いていたアーティストの一例としてフランシスコ・タルレガ(タレガ)、フリッツ・クライスラー、アルトゥール・ルービンシュテイン、シューベルト、アンディ・ウィリアムス、マイケル・ジャクソンを挙げ、スクウェア・エニックス公式サイト内でかつて更新されていた水田のミニコーナー「本日の一枚」では、エリス・レジーナ(ヘジーナ)、メアリー・メアリー、SWV、ヘンリー・マンシーニなど、ジャズ・R&B系アーティストのアルバムや映画音楽作品をいくつも挙げている。それらのエッセンスは、『FFXI』の音楽制作を通じて立ち上げられた「THE STAR ONIONS」や「Nanaa Mihgo's(ナナーミーゴス)」といった、水田がプロデュースを務めるバンドの音楽性にも少なからず反映されている。

 水田と谷岡を中心として結成されたTHE STAR ONIONSは、『プロマシアの呪縛』の発売を記念して2004年9月11日に開催されたファミ通主催のオフラインイベント『ファイナルファンタジーXI プロマシアの呪縛 Special Night』で初めてライヴパフォーマンスを披露した。メンバーは水田直志(ベース)、関戸剛(ギター)、谷岡久美(ピアノ/シンセサイザー)、岩﨑英則(シンセサイザー)。この時の「Gustaberg」のライヴ音源は、『プロマシアの呪縛』サウンドトラックにボーナストラックとして収録された。その後、『FFXI サマーカーニバル2005』(2005年8月27日/主催:ファミ通)、『FINAL FANTASY XI Fan Festival』(2006年3月11日)、『FFXI アルタナ祭りin大阪』(2007年11月3日)でライヴを行い、甲田雅人(シンセサイザー)、マイケル・クリストファー・コージ・フォックス(ドラムス)、羽入田新(ドラムス/ゲスト参加)が名を連ねた。

 2005年8月24日には1stアルバム『THE STAR ONIONS/FINAL FANTASY XI Music from the Other Side of Vana'diel』を発表。サポートミュージシャンとして小池修(サックス)、村上広樹(ドラムス)が数曲に参加した。谷岡のアコースティックピアノソロによる「Vana'diel March」(作曲:水田直志/編曲:谷岡久美)や「The Forgotten City - Tavnazian Safehold」(作編曲:水田直志)、エレクトリックバンドスタイルによるスムースジャズアレンジ「Rolanberry Fields」「Kazham」(作編曲:水田直志)、軽快なコンテンポラリー・ポップスタイルで聴かせる「The Sanctuary of Zi'Tah」(作曲:水田直志/編曲:甲田雅人)、アンドレア・ホプキンスのソウルフルなボーカルをフィーチャーしたゴスペル/R&Bアレンジ「Blessed in Her Glorious Light -The Grand Duchy of Jeuno- 女神の光に包まれて -ジュノ大公国のテーマより-」(作曲:水田直志/編曲:甲田雅人/作詞:マイケル・クリストファー・コージ・フォックス/日本語訳詞:岩尾賢一)など、バラエティに富んだ内容だ。

 2009年5月20日発表の2ndアルバム『Sanctuary/THE STAR ONIONS』は、高桑英世(フルート/ティン・ホイッスル/竹笛)、千代正行(ギター/マンドリン)、榊原長紀(ギター)、加瀬達(ウッドベース)、檜山学(アコーディオン)、真部裕カルテットを迎えてレコーディングされた。楽曲アレンジは甲田雅人、江口貴勅(『バウンサー』『ファイナルファンタジーX-2』など)、杉森雅和(『逆転裁判』『ビューティフル ジョー』)が担当。弦楽四重奏の響きでしっとりと格調高く仕上がった「Flowers on the Battlefield」(作曲:水田直志/編曲:杉森雅和/ストリングス編曲:甲田雅人)や、多井智紀によるヴィオラ・ダ・ガンバ(古楽器・擦弦楽器)の即興演奏をイントロに配した「Xarcabard」(作曲:水田直志/編曲:江口貴勅)、アストル・ピアソラを思わせるアグレッシヴなタンゴアレンジで攻める「Fighters of the Crystal」(作曲:水田直志/編曲:江口貴勅)など、原曲のアコースティックな魅力を深掘りするアレンジを中心に聴かせる。エレクトリックバンドスタイルでは、ワウギターのファンキーなバッキングの上をヴァイオリンとアコーディオンが颯爽と舞うクロスオーバーアレンジ「Rapid Onslaught -Assault-」(作曲:水田直志/編曲:江口貴勅)や、原曲に使用されたものと同じバグパイプの音色/フレーズが泣きのギターと相乗する「Griffons Never Die」(作曲:水田直志/編曲:甲田雅人・水田直志)に思わず胸が熱くなる。

 THE STAR ONIONSの経験を踏まえつつ、次なるアプローチを目指して水田が結成したユニットが、水田(ベース/エフェクト)、伊賀拓郎(ピアノ/シンセサイザー)、岡部磨知(ヴァイオリン)の3人による「Nanaa Mihgo's(ナナーミーゴス)」だ。

 2012年6月23日・24日にパシフィコ横浜で開催された『A DECADE OF FINAL FANTASY XI VANA★FEST2012(ヴァナ★フェス2012)』のメインステージで初めてライヴパフォーマンスを披露すると、予想をはるかに上回る反響を受けて2012年7月30日には池尻大橋2.5Dにて単独ライヴを急遽開催。その後、2012年9月1日・2日に渋谷ヒカリエで開催された『FINAL FANTASY展』(9月1日のステージイベントに出演)、2012年11月11日に横浜で行われたクルージングライヴ『FINAL FANTASY XI Presents Music Live ~Voyager 2012.11.11~』、2012年12月13日に渋谷JZ Bratで行われた対バンライヴ『☆岡部まち×"Nanaa Mihgo’s" winter party!!☆』、2013年6月29日・30日にZepp Tokyoで開催された『JAPAN Game Music Festival 2013』(6月30日に出演)など、精力的に活動をおこなう。

 数多くのパフォーマンスを経て、2013年9月11日に1stアルバム『FINAL FANTASY XI The Nanaa Mihgo's - Stolen Hearts』を発表することとなる。「ポップでキャッチでリズミカル」というユニットのキャッチフレーズをスタイリッシュに体現した「カザム」(作曲:水田直志/編曲:水田直志・伊賀拓郎)や「バッスル オブ ザ キャピタル」(作曲:水田直志/編曲:伊賀拓郎・水田直志)を皮切りに、ビートの効いた軽快なリズムトラックにのせた情熱的な演奏が没入感をもたらす10分超の長尺アレンジ「ファイターズ オブ ザ クリスタル」(作編曲:水田直志)や、純粋なアコースティック・デュオの演奏で情感豊かな響きをしたためた「ディスタントワールド」(作曲:植松伸夫/編曲:伊賀拓郎)と「ザ グランド ダッチー オブ ジュノ」(作曲:水田直志/編曲:伊賀拓郎)、都会的なイメージとアダルトコンテンポラリーな装いの「ロンフォーレ」(作曲:植松伸夫/編曲:水田直志)など、ヴァナ・ディールを彩った名曲をリアレンジして収録。2013年11月11日には赤坂BLITZでレコ発ライブ『FINAL FANTASY XI:XI YEARS -Stolen Hearts- 2013.11.11』を開催し、大盛況のうちに幕を閉じた。

 ここまで紹介した水田の活動は、ゲーム本編にもふたたび還元されることとなる。2013年3月27日に発売され、2014年11月10日に完結を迎えた拡張データディスク『アドゥリンの魔境』の物語。水田は冒険者たちへの“感謝の想いを込めた贈り物”として、『プロマシアの呪縛』の「Distant Worlds」以来となるエンディングテーマの制作を思い立つ。シンガーソングライター・小林未郁をボーカルに迎えたシンフォニックバラード「Forever Today」(作曲:水田直志/編曲:伊賀拓郎・水田直志/作詞:佐藤弥詠子)は、先述したナナーミーゴス、今野均ストリングス、吉田太郎(ドラムス)、石成正人(ギター)による豪華アンサンブルでレコーディングされ、同年11月11日に配信リリースされた『Forever Today: FINAL FANTASY XI アドゥリンの魔境 Original Soundtrack PLUS』に収められた。

「アドゥリンの魔境」エンディングテーマ 『Forever Today』 PVバージョン

音楽で甦る『FFグランドマスターズ』&『FFXI』サントラ最新作

 2023年8月9日、新たな特設サイト「FINAL FANTASY XI MUSIC PORTAL」がオープン。オリジナル・サウンドトラックやアレンジアルバムなど、これまでに発売された『FFXI』の音楽作品情報が一挙にまとめられ、『FFXI』歴代プロデューサーと、水田直志、植松伸夫、谷岡久美からのメッセージも寄せられた。そして8月18日には『FINAL FANTASY GRANDMASTERS Original Soundtrack』『FINAL FANTASY XI Gifts from Vana’diel: Prime Memorie's Soundtrack』が同時配信され、シリーズのカタログはさらなる充実をみせる。

 ヴァナ・ディールを舞台に、最強の冒険者を目指すプレイヤーと仲間たちの物語を描いた『FINAL FANTASY GRANDMASTERS』は、スクウェア・エニックスがクルーズと共同開発し、2015年10月から2019年4月にかけて運営されたスマートフォン向けオンラインRPG。水田はプロデューサーの渕上貴史からのオファーでプロジェクトに加わり、フレッシュな空気感を重視した新曲を書き下ろした。「Vana'diel March」のモチーフも織り込まれた三部構成の「オープニングテーマ」は、四部構成の「FFXI Opening Theme」を彷彿とさせつつ、もうひとつのヴァナ・ディールの物語のイメージを鮮やかに打ち出している。

 本作オリジナル曲の作曲を進めていくうちに、ピアノとヴァイオリンを取り入れたアレンジがマッチすると直感した水田は、伊賀拓郎と岡部まちに声をかけ、ナナーミーゴスとして「ぶつかる闘志」「突き抜けろ好奇心!」「ようこそ冒険者!」「ホームポイント」をレコーディングした。YouTubeでスタジオレコーディング風景が公開されたバトルBGM「ぶつかる闘志」は冒頭からフック満載であり、激しく弾き倒す姿が思わず目に浮かぶかのような中盤のソリッドなシンセソロがヴァイオリン顔負けの存在感を示している。ウォーキングベースにのせて伸び伸びと、そして歯切れよく展開してゆく「ようこそ冒険者!」は、ユニットの「ポップでキャッチでリズミカル」な魅力に改めて気づかせてくれる面目躍如の一曲といえよう。ゲームアプリのサービス終了から4年あまりを経て、こうして楽曲がアーカイブされたことは誠に喜ばしい。時を経て届けられた「ナナーミーゴスのミニアルバム」としても注目したい。

FFグラマス BattleBGM NanaaMihgo’s(ナナーミーゴス)
〈参考「『FFグランドマスターズ』音楽担当“ナナーミーゴス”を直撃」【ファミ通app】(2015年5月25日)https://app.famitsu.com/20150525_523768/
 
 『FINAL FANTASY XI Gifts from Vana’diel: Prime Memorie's Soundtrack』は、2020年8月配信開始の追加シナリオ『蝕世のエンブリオ』で実装された楽曲を収録した最新サウンドトラック。2022年5月10日のバージョンアップで導入された「We Are Vana'diel」は、『アドゥリンの魔境』の「A New Direction」以来、約9年ぶりのリニューアルとなったタイトル画面BGM。それまでの「Vana'diel March」ではできなかった生演奏をとりいれ、大作映画を思わせるスペクタクルなオーケストラサウンドで仕上げられた。積み重ねてきた20年の歴史を想起させるメモリアルなテーマだ。
 
 2018年12月2日によみうりランドで開催された「FINAL FANTASY XI FAN EVENT 2018 #FF11メッセージ」のステージイベントでライヴパフォーマンスを行なった後、しばらく表立った活動のなかったナナーミーゴスだが、2022年8月10日のバージョンアップで実装されたバトルコンテンツ「ソーティ」のBGM「Goddesspeed」のレコーディングで再集結した。高みへと昇りつめ、突き抜けていくかのような疾走感にあふれ、ピアノ&ヴァイオリンのスリリングな駆け引きが繰り広げられる。気心の知れたメンバー同士の化学反応が生み出す醍醐味はもちろん、冒険の楽しさと生命の息吹を爽やかに感じさせるシンフォニック・クロスオーバーの名曲が新たに誕生した。
 
Nanaa Mihgo’s - Goddesspeed (Official Video)
 イベントBGM「The Voracious Resurgence」(曲名は『蝕世のエンブリオ』の海外版タイトルである)は、「Griffons Never Die」を彷彿とさせるフォーキーな味わいを湛えた一曲。弦楽器のゆるやかな響きとティン・ホイッスルの旋律がしみじみと郷愁を誘い、中盤の静かな盛り上がりが胸を打つ。コンフロント形式のバトルで流れる「The Devoured」や、バトルコンテンツ「オデシー」の追加コンテンツ「シェオル ジェール」(2021年1月12日実装)のボスバトルBGM「Sojourner」は、威圧感・緊張感と壮麗さを併せ持ったシンフォニック・アレンジをダイナミックに聴かせる。2020年10月のハロウィンイベントで登場した「Devils' Delight」はマヌーシュ・ジャズ・スタイルによる、妖しくも楽しいスウィンギングな一曲。同曲のヴァイオリン演奏は岡部、ピアノ演奏は伊賀だが、ナナーミーゴスとして制作した楽曲とは明確に線引きがなされている点も興味深い。
 
〈参考:「水田直志/ナナーミーゴス インタビュー 前編」(2022年8月24日)
https://we-are-vanadiel.finalfantasyxi.com/post/?id=469

〈参考:「水田直志/ナナーミーゴス インタビュー 後編」(2022年8月31日)
https://we-are-vanadiel.finalfantasyxi.com/post/?id=474

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