『ファイナルファンタジーXI』音楽の歩みーーXIの日を記念して

水田直志の音楽的ライフワークとなった『FFXI』

#4 YMOの音楽に影響を受けた!【水田直志】【SEM TALK】

 青春時代に音楽とビデオゲームの双方にのめりこんだことが、ゲーム音楽家の道へと進むきっかけとなった水田は、幼少期からシンセサイザーに興味を持ち、YMO『イエロー・マジック・オーケストラ』や坂本龍一作品が音楽的な原体験となった。ビデオゲームでは、和風の世界観とバックストーリーがゲーム性と分かちがたく結びついた『源平討魔伝』に大きな衝撃を受けたという。大学卒業後はカプコンに入社し、『ストリートファイター ZERO』(1995年)や『ロックマン&フォルテ』(1998年)の音楽制作に参加した後、当時、大阪に開発部を設けていたスクウェア(現:スクウェア・エニックス)へ移籍。『パラサイト・イヴ2』(1999年12月16日発売)のメインコンポーザーを務め、硬質でサスペンスフルなシンセスコアや、アブストラクトなテクノ/ダークアンビエントを中心とした楽曲をCD2枚組のフルボリュームで制作した。サウンドトラックのブックレットに寄せた「登場人物と、風景、そして物語に、曲を作らせてもらいました。プレイヤーの感情を邪魔しないように気をつけました。プレイヤーの感情を突き動かすよう、努力しました。楽しんでいってください。」という飾らないコメントは、コンポーザー・水田直志のスタンスを端的に伝えている。

#2『FFXI』大変なことになったな...【水田直志】【SEM TALK】

 『パラサイト・イヴ2』制作後、水田は東京のスクウェア本社へ異動。ほどなくして、『FFXI』プロジェクト参加への声がかかることとなる。当時、日本製MMOPRGの前例が数少なかった状況のなかで、「ファイナルファンタジー」シリーズでは初となるMMORPG、その音楽制作に臨むという未知の領域へ乗り出す不安と、フロンティア精神がかきたてられるなかで、水田はヴァナ・ディールという世界に存在する音楽のイメージを育み、冒険者が長時間耳にしても聴き疲れしない、飽きのこない楽曲づくりを妥協なく進めていく。

 また、拡張データディスク第1弾『ジラートの幻影』以降、『FFXI』のBGM制作/プロデュースは水田が単独で担う体制となる。その後は、ヴァナ・ディールの世界観の広がりや、「シンセサイザーでもアコースティック楽器に負けないくらい暖かく血の通った音色をつくり出すことができる」という水田自身の認識の変化もあり、シンセサウンドの使用も徐々に増えていく。ミニマルミュージックの要素を感じさせる「Ro'Maeve」「Tu'Lia」(『ジラートの幻影』)や、濃密なアンビエントサウンドで異空間を演出する「Faded Memories - Promyvion」「The Celestial Capital - Al'Taieu」(『プロマシアの呪縛』)、ポップで清涼感あふれるクロスオーバーサウンドの「Eastward Bound...」(『アトルガンの秘宝』)や、歯切れの良いリズムパートとメロディーアスで骨太なシンセフレーズが好対照を成す「Rapid Onslaught -Assault-」(『アトルガンの秘宝』)など、数々の印象的な楽曲が生み出されていった。

 戦火のさなかにある過去のヴァナ・ディールを舞台とした拡張データディスク第4弾『アルタナの神兵』では、「どちらかというと過去を踏襲するように作ったつもりでも、これだけ変わってしまうこと。自分の感覚も、FFXIのバージョンアップと同じように、どんどん変化していっているのだな、と感じた次第です。」と水田がコメントしている。実際、そのサウンドは初期楽曲の雰囲気を感じさせつつ、一味異なるアプローチも随所に盛り込まれた興味深い内容だ。楽曲制作の指針のひとつとなった「Ronfaure」にひけをとらない曲をつくるという意気込みから生まれた、過去の東ロンフォールのBGM「Autumn Footfalls」や、サンドリア王国を象徴するバグパイプの音色が後半パートで感動的なメロディーを紡ぎ出してゆく、過去の南サンドリアのBGM「Griffons Never Die」などは、ぜひじっくりと聴いてみてほしい。

 「Prelude」のモチーフが織り込まれた初期のタイトル画面BGM「Vana'diel March」(作編曲:水田直志)は、オンラインゲームという地平に立ったファイナルファンタジーの新たなメインテーマを目指して生み出された、いわば水田の“所信表明”ともいえる一曲である。その後も冒険者にワクワク感をもたらす様々なマーチやテーマが生み出され、『プロマシアの呪縛』では「Unity」、『アトルガンの秘宝』では「Vana'diel March #4」、『アルタナの神兵』では「Wings of the Goddess」、『アドゥリンの魔境』では「A New Direction」が導入された。最終章シナリオ『ヴァナ・ディールの星唄』のエンディングテーマ「Rhapsodies of Vana’diel」は、シンガーソングライターユニット・ファンタスマゴリック(RiRiKA & MARiE)をフィーチャーした「Vana'diel March」のボーカルアレンジである。同曲の制作では水田の発案で楽曲のコーラスパートの募集企画が立ちあがり、560人の冒険者から応募された歌声がすべて使用されたことも話題となった。さらに、2022年5月10日のバージョンアップで導入された「We Are Vana'diel」は、それまでのマーチではできなかった生演奏をとりいれ、20周年のメモリアルにふさわしい贈り物となった。

〈参考:「『FFXI』サウンド・コンポーザー水田直志氏インタビュー~冒険者に贈るラプソディ」
【ファミ通.com】(2016年3月24日)
https://www.famitsu.com/news/201603/24102024.html

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