6年半の歴史に幕を下ろす『シノアリス』 異例の“終わり方”が持つ意味を考える

『シノアリス』異例の“終わり方”が持つ意味を考える

異例のエンディングアップデート。公式の対応が取り巻く経済にもたらしたもの

【重要なお知らせ】『SINoALICE(シノアリス)』12月20日より、最終エピソード ヨクボウ篇公開が決定。

 長くサービスを続けることで継続的な売上を得ようとする基本プレイ無料・アイテム課金型のビジネスモデル。特にシナリオへの比重が大きいRPGジャンルでは、物語を完結させずに運営を維持していく手法が一般的だ。(コストに対して)収益の目処が立たなくなり、サービスを終了するケースでも、物語は完結させず(「コストに見合わないため、完結させられない」が正しいかもしれない)、フェードアウトのように幕を閉じるパターンが少なくない。ユーザーからしてみると、尻切れとんぼのような体験となってしまう欠点がある。

 その前提に立つと、今回の『シノアリス』公式の対応は、極めて異例だと言える。ビジネスモデルやジャンルの前例にならうならば、そのままフェードアウトという選択肢もあった。にもかかわらず、エンディングアップデートを行い、花道を飾るという判断に至った背景には、どのような意図があるのか。

 もちろんそこには、「さらに売上が低調となり、首が回らなくなる前にサービスを終了する」という早めの判断もあるのだろう。今回の発表を聞いたとき、「まだ終わらせなければならないようなタイトルじゃないのに」という感想を抱いたフリークは少なくないはず。ビジネスとして得られる利益を最大化するにあたり、シナリオの追加を含んだ最終アップデートの実施が、“最善かつ無難な選択”であったとは考えにくい。だからこそ、その裏には、開発・運営の並々ならぬ想いを感じずにはいられない。物語をきちんと完結させることは、こだわりや、ユーザーに対する恩返しのひとつなのではないか。

 異例の発表を受け、SNS上には、突然の“終幕”を好意的に受け止める声が相次いだ。ユーザーとしては、大量の時間、場合によっては大量のお金を費やしたゲームが二度と遊べなくなることに虚無感を覚えるもの。これはライブサービスゲームの宿命とも言える。その意味において、今回の公式の発表・対応は、サービスの終了という公式・ファンのどちらもが望まない結末ではあるものの、プレイに心血を注いできたユーザーの多くが心の置所を得られる展開となったに違いない。

 発表と同日の10月26日には、『シノアリスの死に様を拡散スルのデス!キャンペーン』もスタート。『シノアリス』公式Xの対象となる投稿をリポストすることで、「リポスト数×魔晶石1個(※1)」をもらえるこのイベントは、約12時間という短い開催期間ながら、大きな盛り上がりを見せた。最終的には、4万に迫るリポスト数に到達。約1,300回分のガチャの権利が無償で提供されることとなった。こうした施策にも、ユーザーに対する開発・運営の感謝の姿勢がうかがえる。

 こうした動きは巡り巡って、『シノアリス』とファンを取り巻く経済に好循環を生んでいく可能性がある。SNS上での動向を見るかぎり、サービス終了に向けてさらに課金したいと考えるユーザーもいるのではないか(※2)。そこにあるのは、支払いの対象となる物・サービスから相応の価値が得られなかったとしても、想いを表現したり、先に広がる未来に投資したりする「推し」「お布施」の考え方だ。開発・運営による恩返し、それに対するファンの反応、付随するキャンペーンの盛り上がり、サービス終了に至るまでのプレイヤー数の増加といった要素によって構成された(または構成されていくであろう)このムーブメントは、まだ見ぬ新たなコンテンツを生んでいく可能性さえある。

 結果として、ユーザーとの結びつきを強めた今回の発表と対応。昨今、下火となりつつあるモバイルゲーム市場だが、この段階となって初めて、サービス終了を迎えるにあたっての、公式とユーザーの関係性の最適解が見えたような気もする。「状況が変わらないこと」という前提付きではあるが、続編の誕生もあり得ない未来ではないのかもしれない。このポジティブなエネルギーによって、サービス終了後にもまた、両者に接点が生まれていくことを期待したい。

※1…ガチャを回すために使う素材。30個で一度、ガチャを回すことができる。
※2…10月26日をもって、すべてのプラットフォームで有償魔晶石の販売は停止済み。

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