AIによる"ニセモノの声"が氾濫 日本やハリウッドの俳優たちが表明する危機感

世界で議論される「生成AIと人間の権利」

 海外の状況に目を向けると、アメリカでは今年7月、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)がストライキを敢行した。組合は全米映画テレビ制作者協会(AMPTP)に対して「労働条件の改善」や「利益の衡平な分配」を要求したが、この中には「俳優の代わりに人工知能(AI)やコンピューターで生成された顔や声などを使わないこと」も含まれていた。組合の主張によれば、

「人工知能はメンバーの声、肖像、パフォーマンスを模倣することができます。私たちは、許容可能な用途について合意を得ること、そしてAIシステムを訓練し、新しいパフォーマンスを作成するための使用(機械学習のソースに俳優を利用すること)に対する同意と、公正な補償を確保する必要があります」

 としている。映画のなかで俳優がAIに「取って代わられる」可能性があり、協会はこうした状況に非常に強い危機感を持っているということだ。

 また、今年6月にはEUの欧州議会本会議でAIの規制法案が採択された。ここではAIの技術が多くの利点を生み出すことを認めつつも、その「容認できない使い方」を禁止する方針が述べられている。生成AIの規制については「コンテンツがAIによって生成されたことの開示」「違法コンテンツの生成を防ぐモデルの設計」「トレーニングに使用される著作権で保護された情報の公開」などが盛り込まれており、草案は6月末に可決された。

 なお日本の俳優が所属する組合、日本俳優連合もEUの法案採択と同時期に「生成系AI技術の活用に関する提言」を行なっており、EUの採択したAI規制法の理念に賛同するとともに「人間の代替としてのAIによる“表現”の禁止」「声の肖像権の設立」を認めて欲しいとしている。

「日本俳優連合」公式WEBサイトより

 個人的には、前段で取り上げた高山みなみ氏の権利が認められるような、つまり日本俳優連合が掲げる「声の肖像権」のような新しい権利の創出には期待している。「声」や「演技」というものが無形の資産であることに間違いはなく、それを模倣できるような世界でその権利が認められないことは歪だと感じる。

 しかし同時に、こうして広く伝播した技術を根本的に規制することは不可能で、たとえ規制を敷いても社会の状況と規制の内容が伴わない場合、新たに歪な構造が生まれてしまうことへの不安もある。創作物や表現者の権利を守りつつ、健康的に技術の発展を支援できるような、柔軟な規制や業界ルールの策定が求められている。

〈Photo by Pixabay〉

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