連載:作り方の作り方(第六回)
「漫画を読んでもらうことが優先」放送作家・白武ときお×『少年ジャンプ+』編集長・細野修平が考える“プラットフォームとしての戦略”
「『少年ジャンプ+』っぽさ」を意識したことはない
白武:『少年ジャンプ+』では各作品の閲覧数がユーザーに対してもオープンになっていていいですよね。一方で、漫画家さんや編集部の方々にとってプレッシャーに感じたりするものですか?
細野:なるとは思います。負担をかけてしまっているなと思うところはありますけど、『少年ジャンプ+』がそういう環境だということは理解してチャレンジしてくれていると思うので。僕らとしても競い合ってほしいですし。
白武:たしかに、見る側としても盛り上がっている様子を見たい感覚はありますよね。YouTubeの再生回数やドラマの視聴率が高いと話題になるのと同様で、そんなに人気なら見てみようかな、という気持ちにもなりますよね。
細野:そうですね。コメント数も表示されるので、そこで盛り上がりを感じてくれるユーザーさんも多いです。最近だと『株式会社マジルミエ』第82話に4000以上のコメントがあって(普段は1000程度)、その盛り上がりを見て読者が集まってきたこともありました。
白武:閲覧数だけでなく、コメントが盛り上がりそうな話を描くとか、そういう指標も意識しますか?
細野:漫画家さんと編集者がけっこう気にしている部分ではあります。コメントは作品に対する明確なフィードバックですからね。それをどこまで参考にするか、逆にどう裏切っていくかを考えるのは、旧来とは違う発展した創作方法のひとつだと思います。
白武:ドラマのように次の話を観たくなる、毎話の引きを作るようなことが求められますか?
細野:そうですね。ちょっと昔の『週刊少年ジャンプ』っぽいというか、ピンチになってなんとか解決したと思ったらすぐまたピンチ……みたいな。
最近の『週刊少年ジャンプ』もそうですけど、いまどきの読者はわりと長期的なストーリーラインを重視して待ってくれる傾向にある感覚があるので、『少年ジャンプ+』もそこは大事にしつつ、昔っぽい引きを作ることも重視しています。
白武:『DRAGON BALL』とかナメック星が終わったらすぐ人造人間が来ますもんね。作品を作る上で『少年ジャンプ+』は自由度が高いほうですか?
細野:作品のジャンルや表現については「『少年』と謳っているのに少年向けじゃない」とよく言われるんですが、そもそも明確に「少年向けじゃないとダメ」といったルールを設けていないので、そういう意味では自由度が高いです。
1話あたりのページ数を明確に決めていない点も自由とは言えるんですが、むしろページ数を制限した方が研ぎ澄まされた作品が生まれるかもしれないですよね。自由だからといって表現力が広がるとは限らないので。そのあたりはまだ試行錯誤です。
ただ、制限がないことで漫画家さんが休みやすくなったり、無理なく続けられるようなメリットもあるので、自由さは表裏一体なところがあると思っています。
白武:漫画家の方々が『少年ジャンプ+』で連載を持ちたいというモチベーションは、どこから来るのでしょうか。近年はSNSなどで作品を発表し、個人活動でヒットを出す漫画家さんも少なくありませんよね。
細野:僕の感覚ですが、1周したと思うんですよ。
白武:1周?
細野:SNSなどで作品を発表してヒットを生み出す方は確かにいらっしゃいますが、もはやそれも簡単な道ではない。出版社や我々のような編集部と一緒に組んで作品を作っていく良さを見直されている漫画家さんもいらっしゃると思います。
白武:確かに、一から模索してがむしゃらに作るよりも、ヒットの手掛かりを持っている編集者の方々と作品作りをした方が良い人もいますよね。自分では気づかない強みなどもあるでしょうし。
細野:そうですね。我々の強みは『週刊少年ジャンプ』のすぐ近くで作品作りをしていることです。そのため、連載を希望される漫画家さんたちもそのことに期待してくださっているとは思います。
ただ、我々はまだまだ『週刊少年ジャンプ』には敵わないと感じています。『週刊少年ジャンプ』は漫画賞や増刊号、連載と目指すべき道筋ががはっきりしていますし、ヒット作を生み出すシステムもできている。編集部が一丸となってヒット作を生み出していくぞというモチベーションも高い。長年の歴史のなかで培ってきたものがあるのは当然ですが、非常に盤石な体制だと思いますね。
白武:週刊連載だから生まれるグルーヴなどがあるでしょうね。難しさを感じる点って他にもありますか?
細野:『週刊少年ジャンプ』のアンケートシステムのように読者投票で順位が決まるような、もっと漫画家さんと編集者が作品を評価する上で納得できる仕組みをしっかり作りたいなとは思っています。もっと根拠がはっきりしていて「これが少ないってことは、つまらないんだな」とすぐ軌道修正できるような。
白武:たとえば「これをしたら数字が取れるけど、瞬間的なものだから本質的ではない」となってしまったら良くないとかですか?
細野:むしろ、そういう判断材料としてもっと有効であるべきだと思うんです。結果をもとに工夫して順位が上がるのはある種、正しい動きなので。閲覧数やコメントだけでは、まだ作品を判断する根拠として不十分だと感じているということです。
白武:作品を作るうえでの編集部共通の原則は、『少年ジャンプ+』にあるのでしょうか?
細野:それが、ないんですよ。ある程度はトーンの共通認識のようなものはありますが、「『少年ジャンプ+』っぽさ」を意識したことはありません。
白武:それでも読者側からすると「これって『少年ジャンプ+』っぽいよね」みたいなことを感じている気がします。
細野:そうだと嬉しいですけどね。そもそもなぜ「『少年ジャンプ+』っぽさ」を明確にしていないかというと、僕がかつて所属していた『ジャンプSQ.』はすごく自由だったんです。
『ジャンプSQ.』は『週刊少年ジャンプ』よりもちょっと大人で、マニアックで、作品の幅が広かった。それでうまくいっている感覚があったので、『少年ジャンプ+』でもあまり制限を設けずに幅を広げたいと思ったんです。
白武:経験からそうしてるんですね。
細野:もっと言うと、『週刊少年ジャンプ』の劣化版と見られないようにしたいとは思っています。むしろ、我々は『週刊少年ジャンプ』に勝ちたいという気持ちで挑戦し続けているので。
それに、あまり『週刊少年ジャンプ』を意識しすぎた作品を無理に作ってしまうと、むしろ中途半端になってしまう恐れがある。だったら、漫画家さんの好きなものを描いてもらいたいですね。
白武:確かに『週刊少年ジャンプ』みたいな作品が並んでると思ったことないですね。たとえば最近は林士平さんが編集を担当する作品に期待が集まったり、漫画好きの読者から編集者軸で注目されるようになっている気がしてます。そういったことは今後増えてくると思いますか?
細野:あまり思いません。というのも、読者のほとんどは漫画家軸ですら読んでいないことが多い。誰が担当した、誰が描いたといったことではなく、最終的には純粋に作品が面白いかどうかで読む。ここは変わらないと思います。
もちろん、編集者単位で強くなった方が、結果としては多様な漫画が生まれるとは思います。その人自身の価値観が反映されるので。ただ、それだけだと可能性が狭まる恐れもある。だから強い編集者が集まって多様な作品が生まれる「組織」としての編集部の価値は大事だと思います。
白武:頑張って自分で面白い作品を作ろうという意識しかなかったので、面白い作品が次々に生まれるプラットフォームを組織するって考えたことなかったです。お話聞かせていただきありがとうございました。
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