プロジェクター内蔵ソフトから躍進の『スイカゲーム』 異例ヒットの背景を読み解く

ヒットの理由は、「手軽さ」「中毒性」「人間の欲求に働きかける設計」にあり?

 発売から2年弱が経過したゲームながら、突如として話題のタイトルとなった『スイカゲーム』。そのきっかけとなったのは、2023年5月ごろより実況・配信界隈で広く取り上げられ始めたことだった。9月7日には、YouTubeやOPENREC.tvなどで活動する人気ストリーマー・布団ちゃんが「僕が寝室で普段やっているゲーム」と紹介。以降、さまざまなところへと伝播していった経緯がある。

スイカゲーム スコア3000とれるまで終わらない耐久。【笹木咲/にじさんじ】

 近年のゲームカルチャーでは、実況・配信界隈での盛り上がりを背景に、特定のタイトルが話題性を帯びるケースが増えている。『Getting Over It with Bennett Foddy』や『Fall Guys』、『Among Us』などはその一例だ。すべてに共通するのは、低価格であり、かつライトなゲーム性を持っている点。ひょんなことがきっかけでそのタイトルを知ったとしても、誰もが手を出しやすいことが流行の一因となっているのではないか。

 先にも述べたとおり、今回取り上げた『スイカゲーム』は、税込240円というほかに例を見ないほどの低価格となっている。「仮に一度しかプレイしなかったとしても納得できる」。そのような価格設定が「試しにダウンロードしてみよう」という購買動機につながっている可能性は高い。

 『スイカゲーム』が持つゲーム性にも流行の理由がある。「シンプルで簡単そうながら、実は奥深いシステムであること」「短い時間で何度もトライ&エラーを行える設計が繰り返しのプレイを促すこと」などだ。

 前者について、ストリーマーの実況・配信がきっかけで同タイトルを購入した人のなかには、「自分ならもっとうまくできる」と考え、遊ぶことを決めた人も多くいたはず。この構造は、インターネット上でよく目にするモバイルゲームのウェブ広告のアプローチに酷似する。誰もしないような失敗をあえて見せることで、ダウンロードにつなげようとする、“あの”プレイ意欲の創出方法だ。『スイカゲーム』は、(強弱や、自覚している・していないの違いはあれど)すべての人間が等しく持つ「人より優れていると示したい欲求」を意図せず喚び起こし、販売数につながったのではないだろうか。

 しかしながら、結果を見れば、誰もがそう簡単にスイカを作れるゲームではない。そこには、同タイトルの持つ奥深いゲーム性も横たわっている。

不可能と言われたスイカ2個に挑む男 【スイカゲーム】

 また、後者について、一度プレイした人のなかには、「やめどきがわからず、いつまでも遊び続けてしまった」という経験を持つ人もいるだろう。時間的にも操作的にもライトなプレイ感であるがゆえ、『スイカゲーム』は、「あと1回なら」「次はうまくいくはず」といった具合にプレイヤーを縛り付ける。“中毒性”とも呼ばれるこうした性質は、トレンドジャンルの「ローグライク」にも通ずるもの。ひとつのサイクルが短ければ短いほど、遊ぶ側は楽しさと日常への支障を天秤にかけながら、その世界へと没頭していく。同様の構図を持ち、ヒットしたタイトルの例は少なくない。2019年にリリースされ、旋風を巻き起こした作品『Slay the Spire』もそのひとつであるだろう。

 これらの要素に導かれ、『スイカゲーム』は流行の道をたどった。その影響力は現在も広がり続けている最中だ。意外な企業から誕生した2023年有数のトレンドタイトル。popIn株式会社はいまごろ、思わぬ副産物にうれしい悲鳴を上げているのかもしれない。

スイカゲーム ®

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