『Meta Quest 3』先行レビュー! パススルー性能が大幅に向上した“MR向き”と呼べるものにーー『Quest 2』『Quest Pro』は引き続き併売

 Metaからいよいよ『Meta Quest 3(以下、Quest 3)』が登場する。予約開始日は9月28日、発売は10月10日を予定している。長らくVR HMDにおけるデファクトスタンダードとして愛されてきた『Meta Quest 2』、ビジネス向けに性能を強化した『Meta Quest Pro』は引き続き併売される。

 今回、筆者はMeta社が開催した『Quest 3』の先行体験会に参加した(なんと、日本開催が世界最速で、この日が初めての開催日だったようだ)。本稿では、いくつかの注目すべきアップデートポイントと、実際に体験してみた感想についてお伝えしたい。(三沢光汰)

今後も『Quest 2』『Quest Pro』は併売

 まず初めにお伝えしておきたいのは、『Quest 3』はナンバリング製品として登場しているものの、既存製品と比較したときに「最新だから最強のモデル」というわけではないということ。その証拠に、『Quest 2』『Quest Pro』は今後も併売される。

 この日登壇した『Quest 3』プロダクトマーケティングマネージャーのPalwasha Khatri氏いわく「『Quest 3』は『Quest Pro』で開発した多くの技術をより多くの人に届ける製品として位置づけている」とのことで、『Quest Pro』で目を引いた「MR(Mixed Reality、複合現実)」に主眼が置かれている。

 本体を見ていくと、まず目に付いたのが前面に配置された2つのカメラと深度センサーだ。左右のカメラがパススルー用、中央が深度センサーとなっている。これまでにもあった底面のコントローラートラッキング用のカメラも引き続き搭載しているので、残念ながら『Quest Pro』のようにカメラの認識外に持っていっても認識してくれるわけではない(ただし、『Meta Quest Touch Proコントローラー』と互換性があるので別途購入して使用することはできる)。

 コントローラーといえば、『Quest 3』のコントローラーはトラッキングリングが廃止された。これは「逆さにして置く時は便利、でもいざ使うときは邪魔」という見方もあるので一長一短ともいえるが、没入感や体験価値は間違いなく向上するだろう。

 また、注目されていた薄型化についてだが、これは予想以上に薄くなっていた。本体フレームを外してみるとその薄さが際立つ。全体のサイズ感としては大きく変わらない感じもするが、その代わりに眼とレンズの距離を調節することができるようになった。それと、本体底面には『Quest Pro』同様にレンズの左右位置を調節するためのダイヤルも備えられているので、顔の形や眼の位置にあわせて微調整が効くようになったのはうれしいポイントだ。

MRにフォーカスした『Quest 3』 パススルー解像度は『Quest 2』の10倍!

 性能面でいえば、新たに搭載された深度センサーを活用した様々な技術、パススルー解像度が『Quest 2』の10倍、『Quest Pro』の3倍になっているところは見逃せない。

 実際に製品に触れるデモ体験では、8畳ほどの部屋でさまざまなアプリを体験したのだが、深度センサーが搭載されたことで一気に快適さが増し、驚いた。以前の『Quest Pro』ではプレイエリアを定める際、コントローラーを用いて床面を指定、その後にプレイエリアをポインターで絵を書くようにして設定をしていた。

 しかし、『Quest 3』は深度センサーを搭載しているので、自動的に床面との距離、壁面を認識してくれる。ユーザーはただ視線を床・壁・天井に向けるだけで、自動的にスキャンが完了するのだ。これは部屋の中に家具がある場合も同様で、筆者の眼の前にあった丸テーブルもしっかり認識していた。

 

 また、パススルーの解像度自体もかなり高く、ヘッドセットを装着したままでもほとんど違和感なく過ごすことができた。もちろんカラーパススルーに対応しており、『Quest Pro』のときでもなかなかのものだと感じたが、『Quest 3』のそれは「これなら着けたままでも過ごせるな」と思わされるほど。体験した部屋が若干暗かったこともあり、多少のノイズも入っていたが、それでも着けていて眼が疲れたり、認知の不一致で酔ってしまうリスクはかなり軽減されるだろう。

 パススルーのON/OFF切り替えも非常に簡単になった。これまではメニュー画面からVRモード/MRモードを切り替えていたが、『Quest 3』ではヘッドバンドのバーを「トントン」とダブルタップするだけでよい。なんとも未来感のある方法で、この操作だけでもちょっぴりワクワクさせられるのだから不思議なものだ。

 つづいて、グラフィック性能と画質面について。CPUにQualcomm社の最新SoC『Snapdragon XR2 Gen2』を採用し、ディスプレイは片目辺り2064×2208ピクセルと4K超え。さすがにここまで来ると画質もなかなかのもので、今回体験したタイトルのなかでいえば『Red Matter 2』などは圧巻だった。

 宇宙船内の鋼鉄の質感から美しい惑星の輪郭、テーブルの上に散乱する写真一枚一枚に至るまで、どれもが美しく表現されていて、臨場感にあふれる。写真を拾い上げた際によく目を凝らしてみると、少しばかり煤けたような汚れが付着していて、印刷された写真自体もクッキリと見ることができるのだ。

気になる価格は74,800円から 「Quest」シリーズのラインナップを振り返る

 ここで、あらためて現状の「Quest」シリーズのラインナップとそれぞれの特徴、どんな人に向いているかを振り返ってみよう。

 『Quest 2』の利点といえば、やはり価格だろう。かつての4万円を切る価格帯ではなくなってしまったものの、クオリティと価格のバランスを考えると決して悪いものではない。長い間人気かつ主流のHMDとして君臨し続けてきたことで、サードパーティのアクセサリーも充実している。

 今回『Quest 3』の登場に前後してセールなどが活発におこなわれたこともあり、ディスコンになるのではと心配していたが、杞憂に終わって何よりだ。高コスパモデルという入り口が無ければ、Metaが目指すVR市場のさらなる拡大から遠ざかってしまう。

 そして『Quest Pro』の方はといえば、やはりフェイストラッキングの有無が大きい。それから、前述したコントローラーの仕様による認識範囲の違いもある。たとえば『VRChat』などをヘビーに楽しむユーザーであれば、表情の変化や腕周りの可動域など、『Quest Pro』ならではのポイントが魅力的に映るはず。

 ただし、15万を超える価格がネックで、VRに興味のあるユーザーがおいそれと手出しできるものでもない。なにより、これまで目玉の一つだったパススルー機能も、今回『Quest 3』が登場したことで印象が薄れている。『Quest Pro 2』の登場が待たれるといったところか。

 今回発売される『Quest 3』の価格は128GBモデルで74,800円、512GBモデルで96,800円となっている。アイトラッキングやフェイストラッキングこそ搭載していないものの、パススルー性能や画質を求めるユーザーであれば十分選択肢に入りうる。また、『Quest Pro』コントローラーとの互換性があるので、のちのちコントローラーだけ別で購入することもできるのはうれしい。

 『Apple Vision Pro』の登場もあり、XR/MR業界はこれからどんどん注目されていくだろう。スマートフォンアプリにおいて、「Android」と「iPhone」両方でリリースするのが当たり前になったように、VRやMRも複数のプラットフォーム向けにアプリケーションがリリースされていく可能性は高いのではないだろうか。そこで、今後登場するであろうさまざまなコンテンツに備えて『Quest 3』を手に入れるのは、“かなりアリ”。筆者はそう感じている。

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