『FF16』が挑戦した“語らない表現” 登場人物の行動から読み解く、あまりにもリアルな「誰かを大切に思う」心理描写
ストーリー前半と後半で生まれる行動の変化は矛盾なのか
ジョシュアというキャラは、由緒あるロザリア公国の次期大公であり、国を象徴するフェニックスのドミナントで、兄が大好きな弟で、でも子供の頃から聡明で、勇気もあって……そんな人物に見えた。しかし、青年期以降をプレイしていくなかで、「ジョシュアはずっと逃げ出したかったのかもしれない」と、そんな思いが浮かんだ。ゲームを進めると彼は悲劇の事故をなんとか生き延びたことが分かるが、主人公であるクライヴたちに合流するのはストーリー後半となり、それまでの行動は多くの部分が謎に包まれている。ジョシュアの前半と後半の行動の変化を矛盾と捉えた人も、きっといただろう。
このゲームをしていると、自分の人生で出会ったさまざまな人を思い出す。ジョシュアを考えるときは、昔仲が良かった仕事の後輩を思い出した。彼は、明るくて頭もよくてムードメーカーで、仕事もできる後輩だったが、日々楽しく仕事をしているように見えていた彼は、突然会社を辞めてしまい、連絡も取れなくなってしまった。「楽しく仕事をしていた」という事実と、「会社を辞めた」という事実は矛盾していないと、今は理解できる。しかし、当時はまだ、彼が見せていたはずのふとした違和感や表情に気持ちを向ける余裕が自分にはなかった。
「ジョシュアが兄を何より大切にしていたこと」と「そんな兄の前に姿をずっと現さなかったこと」、これもきっと矛盾はしていない。「大切にしていたからこそ自分という存在を重荷と感じてほしくなかった」「大切にしていたからこそ、ドミナントとして先が長くない自分が、兄に危害を加える存在を倒し、そのまま消えるべきだと考え、頑なに姿を現そうとしなかった」。そんな可能性を考えてしまう。
少年期のジョシュアは、物語の序盤で母・アナベラに叱られるときも、フェニックスゲートで自分を羨ましがる兄と話していたときも、強く拳を握り込んでいた。
ストーリーを通して「つらかった、逃げたかった」という言葉をジョシュアが言うことはない。それでも、自分が敬愛する兄を、自身の立場によって追い詰めるような状況に、ずっと苦しんでいるように見えた。その表情や仕草からは、「自分さえいなければ」「自分にさえこんな力が宿らなければ」と、幼いながらに悩み、自分を責め、それでも周りの期待に応えようと必死に自分押し殺して生きている、そんな印象を受けた。
ジョシュアが、兄を愛するがゆえにずっと姿を現さなかったと考えると、再会したときの最初の言葉が兄に対する謝罪だったことも、心に深く刺さった。人間は大切なものや愛するものへの対応ほど、悩んで苦しんでしまう。それはきっと自分が嫌われたくなかったり、重荷になりたくなかったり、自分のことで苦しんでほしくないと思うからだ。
現実でもジョシュアのような生き方をしている人を大勢見てきた。誰かを愛して、大切にしていて、だからこそ本当のことが言えず苦しんでしまう。そして、そういう人たちを見てきたことで、このジョシュアの一見矛盾しているように見える行動の奥にも、きっと言葉にできない真意はあるはずだと感じ、ゲームのキャラだということを忘れそうになってしまう。
『FF16』は、答えすべてを語る言葉を用意しているゲームではない。だからこそ、ヴァリスゼアで必死に悩み、苦しんで、人間臭く生きているキャラたちを、現実で生きている人間のように感じ、とても愛しく思う。彼ら、彼女らからはこれからも、たくさんのことを聞いて、感じて、考えていきたい――。発売から2ヶ月以上が経ってもそう思うほどに、このゲームは人間味と魅力にあふれている。
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