茶碗型デバイスで体験する”VR茶道アニメーション” 『ヴェネツィア国際映画祭』XR部門ノミネートの「Sen」体験レポート
リアルメタバースプラットフォーム『STYLY(スタイリー)』を提供するPsychic VR Labと、ストーリーを軸とした新しいXR体験を提供する、クリエイティブカンパニーCinemaLeapが2社で共同製作したVRアニメーション『Sen』が、第80回ヴェネチア国際映画祭のエクステンデッドリアリティ(XR)部門「Venice Immersive」にノミネートされている。今回はヴェネツィア国際映画祭での公開に先駆けて行われたメディア向け体験会の様子をレポートする。
VRアニメーションはVRデバイスで体験する映像作品で、単一の視点にとらわれない新しい映像エンターテインメントだ。Psychic VR Labの解説によれば、『Sen』は「千利休の所持した樂長次郎黒樂茶碗『万代屋黒』をモデルにしたお茶碗型の触覚デバイス」を用いて、VR空間で複数人同時に日本のお茶の世界を体験でき、日本伝統の茶道の世界を通して生命と宇宙の繋がりを体験する作品だという。
『Sen』を体験する際にはVRグラスとGoogle Pixel Watchを装着し、茶碗型のトラッキングデバイスを手に持つ。こうしたハードウェアが既存の映像表現とはまったく違う映像体験をもたらしてくれる。
映像が始まると、自分は暗い茶室の中におり、手に持った茶碗から心臓の鼓動が伝わってくる。Google Pixel Watchによって計測された自身の心拍が振動による触覚フィードバックで手元に伝わる仕組みだが、まるで手の中で心臓が動いているかのような触覚だ。
やがて茶器の中に光の粒子が集まり、粒子にかたどられた魚が飛び出してくる。勢いよく茶室内を泳ぎ回る魚は、その速度のまま茶器へ飛び込み、次に現れたのは尻尾の生えた赤ん坊のようなキャラクター「sen」だ。
体験者はsenとともにこの茶室で起こる幻想的なシーンに触れていく。senは茶器の外へ出て茶室の中を回遊し、その姿を見ると、手元の茶器とsenがへその緒のような光のひもで結ばれていることに気づく。そして視線を外にやると、ほかの体験者の茶器と光のひもを見ることができる。VR空間の中で同じデバイスを使ってこの体験を共有していることが、映像の中でわかることは面白い。
音楽や触覚による演出が意欲的に盛り込まれており、ナレーションやキャラクターボイスはないものの、ストーリーはきちんと理解できた。体験者は茶室のなかでsenというキャラクターとともに様々な風景や生命の姿を見つけていく。
新たなシーンに移るたび、senは好奇心旺盛に行動し、生命や風景へ新鮮に驚き、楽しんでいることがわかる。そしてこのsenの感情は、体験者が映像表現の面白さに驚くこととシンクロしていく。senがまるで自分の子どものように感じられてきた。結末への言及は避けるが、ラストシーンもユニークだ。