連載:エンタメトップランナーの楽屋(第七回)

男性アイドルは「ファミリー売り」がヒットの要因? FIREBUG 佐藤詳悟×つばさ男子プロダクション チーフマネージャー堀切裕真対談

男性アイドルグループには、"箱推し"してくれるファンが必要不可欠?

佐藤:以前、堀切さんがインタビュー記事の中で「男性アイドルの勢力図を分析して、そこから逆算してスパフルの戦略を決めていった」みたいなお話しをされているのを読んだのですが、A&Rをはじめたときからそういうマーケ的な視点はあったんですか?

堀切:CUBERSの立ち上げ時は、そこまで考えることはできていませんでしたね。そもそも男性アイドルでいこうと決定したのが2015年の2月ごろだったんですけど、4月にはステージに立たせてほしいという会社の意向があって。だからもうその2カ月間は必死でした。雑誌にオーディションの告知を出したり、レッスンスクールに電話をかけて、いい子がいないか聞いてみたり。

佐藤:ほんとにゼロからのスタートだったんですね。そういう時って、どこから決めていくんですか?  たとえば「センターの子はこういうイメージで」とか、いろいろあると思うんですけど。

堀切:そこを考える余裕もなかったですね。ステージで映える顔立ちかっていうのと、あとはもう素直で一所懸命に頑張ってくれそうな子を選びました。

佐藤:当時は堀切さん自身にもアイドルを売るためのノウハウとか経験ってまだないわけじゃないですか。そういう段階では、どういうやり方で、メンバーのモチベーションを維持していたんですか?

堀切:とにかく率直に、考えてることを全部話しちゃってましたね。これから3年間でどうなっていきたいのかという計画をきっちりと示して。「いまのところ計画通りだから、このままがんばろう!」って。それはメンバーを鼓舞するためというか、自分自身もその計画を実行できれば、ちゃんと売れると信じていたからで。もちろん、プレッシャーはめちゃくちゃ感じていましたけど。

佐藤:僕も吉本でロンドンブーツ1号2号のマネージャーを務めていたときは、5年間分の計画表をつくってましたね。ここまでに『笑っていいとも!』のレギュラーになれれば、CMもこれくらい増えるはず、とか。そういう中間目標を本人たちと共有して、それを一個ずつ潰していくっていう感じでした。

 一方で、走りながら気付くこともあるじゃないですか。堀切さんの場合、CUBERSをデビューさせてから、次にTHE SUPER FRUIT(以下、スパフル)を仕掛けるまでは数年あったと思うんですが、その間で気付いたことというか、見えてきたものはありますか?

堀切:そうですね。上手くいったものも大スベリしたものも含めて、ほんとにたくさんの販促企画をやってみたんですけど、ある時ふと限界を感じてしまって。このままスケールアウトするにはどれだけ時間がかかるんだ、みたいな。「いま男性アイドルが売れるためにできることはなんだろう?」と、もう一度深く考えるようになったんです。

 それで男性アイドルの勢力図を分析してみたら、ちょっと待てよ、と。どの事務所もみんな複数のアイドルがいるじゃん、と気づいたんです。ジャニーズもLDHも、スターダストも、どこもそうじゃないですか。要するに"ファミリー売り"しなくちゃダメなんだと。ボーイズグループがスケールアウトするためには、複数組み作ってファミリー化しなくちゃならない。この発想が、つばさ男子プロダクション(以下、つば男)を立ち上げるきっかけにもなっています。

佐藤:ファミリー売りをすることによる強みって、どこにあるんですか?

堀切:これは本当に僕の持論なので、正解じゃないと思って聞いてほしいんですけど、アイドルって基本的には異性のファンがターゲットじゃないですか。その前提の上で、男性ファンは複数の女性アイドルを推すことに抵抗がないんですよね。だからTIFのようなフェスイベントも成立するし、対バン文化も根付いているから、それをきっかけに新たなファンを開拓しやすいんですよ。

 でも、女性ファンの場合は、そもそも複数のアイドルを推すということに抵抗があるみたいで。実際には複数のアイドルを推していたとしても、それをソーシャルメディアなどでは公言していないことが多い。だからアカウントも好きなものごとに複数アカウント持っているのは当然だし、新しいグループに興味を持ってもらうためのハードルも高くて、なにかの理由が必要なんですよ。たとえばグループAの〇〇くんとグループBの△△くんが仲良しだから、その二組は一緒に応援してもOKみたいな。そういう関係性を生み出すには、やっぱりファミリー化する方が生まれやすい。ボーイズグループを成功させるには、事務所を箱推ししてくれるファンを育てなければならない、というのが僕のいまのところの結論です。

バズるには「まず美味しいカレーをつくるしかない」

佐藤:堀切さんは、男性アイドルにとって重要な要素って、何だと思いますか?

堀切:まずはやっぱりメンバーです。そこは絶対に。外見っていうよりも、マインドですね。外見はステージに立っていれば自然と磨かれていくものなので。

佐藤:やっぱりそうなんですね。淳之介さんも同じことを言ってました。アイドルにふさわしいマインドを持った原石を、どうやって見つけていくんですか?

堀切:僕はイキってるやつが嫌いなんですよ(笑)。スカウトには基本的にソーシャルメディアを使っているんですけど、フォロワーの少ない人に声をかけるようにしています。バズりそうだけどまだバズってない子を探して、言い方は悪いですけど、調子こく前に教育していくっていう感じですかね。

佐藤:スパフルの場合、メンバーを集める時点でコンセプトなどは決まってたんですか?

堀切:まず決まっていたのは、7人組のグループにしようということで。7人だとセンターもつくれるし、フォーメーションを組んだときにも一番見栄えがいいと思うんですよ。

 それでその7人を紹介するときに、一人ひとりを象徴する絵文字があったら、ソーシャルメディアでも映えると思ったんです。それで考えたのが、フルーツというコンセプトでした。ただ、リンゴ、オレンジ、レモン、メロン、桃、ブドウまではすんなり決まったんですけど、そこからが難しくて……。絵文字があって、色が被らないフルーツがなかなか見つからなかったんですよ。たとえばブルーベリーとかだと、ブドウと被っちゃうし。それで結構悩んだんですけど、あるとき「ココナッツって白じゃん!」とひらめいて。それでいまの並びになりました。

佐藤:なるほど。じゃあ、メンバーやコンセプトが決まって、その次が曲って感じだと思うんですけど、そこについてはどう考えていますか? 堀切さんのなかに"いい曲"の定義みたいなものがあるのか、それともいま流行っていないものをつくろうみたいなアプローチなのか、とか。

堀切:うーん、難しいところですね。ただ僕はアーティスト出身なんで、ほかのディレクターさんやマネージャーさんよりは、相当楽曲に口うるさいと思います。1小節1音までムダがない、完璧な状態にならないとリリースしたくないんですよ。多分、業界的には少数派なのかもしれないですね。やっぱりさっきも話した通り、アイドルって人ありきなんですよね。そこから楽曲ありきのバンドやアーティストとは違うところで。だから楽曲を軽視している人も、少なくないんです。でも、僕は絶対に曲が大事だと思うんですよね。

佐藤:結果的にスパフルの「チグハグ」は、TikTokでめちゃくちゃバズったわけじゃないですか。なにが当たるかって、結局はどれだけ打席に立つかみたいなところもあるから結果論にはなっちゃうと思うんですけど、いまから振り返ってみて、勝因はどこにあったと思います?

堀切:TikTokで話題になるっていうのは、ブランディングプランでも目標の一つとして定めていて、メンバーにも共有していたんです。だから毎日19時にはみんなでTikTokに一斉に投稿する習慣をつけていたし、楽曲をつくる段階からTikTokとの相性というのは意識していました。その上で、「チグハグ」がバズったのは、もちろん運もあったと思うのですが、やっぱり曲が良かったというところに行き着くのかなと感じています。

 実際に「チグハグ」のデモを聴いた瞬間に、ビビッとくるものがあったんですよ。この曲はなにかもってるぞ、と。それですぐにデビュー曲はこれで行こうと決めて、できることは全部やろうと思って。とはいえ予算の都合上、生のドラムやストリングスを使うことは難しかった。そこでドラムだったら、ミュージシャンの方に「スタジオじゃなくて、宅録だったらこれくらいでもいけますか?」って交渉してみたりだとか。実はストリングスもトップしか生で録ってないんですけど、そうするとほかの5本がシンセでも、全体として生で聴こえるんですよ。そういう工夫を積み重ねて、とにかく音にこだわりました。だから「チグハグ」のヒットは決して狙ったものではないのですが、僕自身としてはこれ以上できることはないくらいに作り込んだ作品だったのも事実なんです。

佐藤:作り手として悔いがないものを出した、というか。

堀切:だから最近、「どうやったらバズりますかね?」みたいな相談をされるんですけど、結構答えに迷ってしまって。それって、美味しくないカレーをどうやって流行らせればいいですか、みたいな質問じゃないですか。いや、まずは美味しいカレーをつくろうよ、と。いいものをつくって、しっかり宣伝して、まずはそこからだと思うんですけどね。

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