「Vライバー」普及の裏側にあった“5年間の物語” 『イチナナVライバー』事業責任者・柳 里沙 × 17LIVEの伝説的Vライバー・武良崎ゆき対談

「イチナナ」Vライバー事業責任者 × むらゆき対談

「Vライバー」は世界の共通語へ。普及の先にある未来

――柳さんは学生時代に役者をやられていて、現在もダンスや演劇などに取り組んでいるそうですね。演技や表舞台に立つ経験が、サービス運営やライバーのプロデュースに活きたと感じることはありますか?

柳:たくさんありますよ。学生のころから役者としてお芝居を続けていて、卒業後はフリーランスでWebデザインの仕事をしながら役者をやっていこうと思っていました。大学では情報学部にいたんですが、卒業論文のテーマも役者がITやインターネットの世界で活躍できるサービスを考えたいと思って選びました。

 ただ、その後いろいろなことがあって役者として生きる道を諦めることになって。その後は、ITの力を使ってエンターテイナーの方々を支える側に立ちたいと思ったんです。17LIVEが日本に上陸したという話を聞いたとき、「それこそ私が論文で書いていたようなことを、実際にやっているサービスだ」と思い、中途で入社して現在に至ります。

 もともと自分自身が表に立ち有名になりたいと思って活動をしていたからこそ、その裏にある苦労や表舞台に出る喜びを理解することができますし、企画を考えるときも当時の経験が活きていると思います。もし私の学生時代にライブ配信が発達していて、ライバーという職業が認知された世の中だったら、自分も間違いなくやっていたと思いますね。

――むらゆきさんは、17LIVEのVライバーを代表してさまざまなメディアに出演されるなど、サービスやシーンの外側への露出が近年増えている印象です。あらためて“外の世界”でVライバーについて発信していく中で気づいたことはありますか?

むらゆき:私、この間ある大学で講義をさせていただいたんです。Vライバーという存在が知られるようになってまだ5年なので、学生さんたちのなかにはその文化に全く触れてこなかった人もいるんですよね。その方々に、「私たちVライバーがどういう存在なのか」という講義をさせていただいたんですけど、その中でVライバーがされて嫌なことの話をして。

 個人的な意見として伝えたのは、暴言を吐かれたり配信を荒らされたりすることよりも、忘れられてしまうことやリスナーさんが離れてしまうことによって、“いないものとなってしまうことが一番怖い”ということで、それをお話したんです。「だから、もしあなたに推しがいるのなら、全力で推してあげてください」という話をしたら、その部分が生徒の方々に刺さったようで。

 とくに17LIVEで活躍するVライバーは、他のプラットフォームでのアーカイブが残る配信とは違って、生放送のライブ感を大切にしているので、リアルタイムで見てくれるリスナーさんが本当に大事で尊いものだと思っているんです。そういったことをいかに外へ向けて伝えていくか、というのは難しい部分だなと感じています。

 もうひとつは、いまってVライバーをいわゆるアバターとして見ている方が増えているんです。というのも、2.5次元と呼ばれるリアルの姿もあるけどバーチャルの世界の姿もあるVライバーが非常に増えていて、そういった2.5次元Vライバーたちと、私たちのような完全にバーチャルな存在としてのVライバーがうまく共存していけたらいいなというのが私の気持ちではあります。

むらゆきの配信

――バーチャルのことを知らない人もいるというお話をされていましたが、たとえば「VTuber」という単語もここ2、3年でより広まった言葉だと思いますし、「Vライバー」という名称もかつてより広まっているような体感はメディアとしてもあります。実際に活動されているむらゆきさんから見てもやはり同じですか?

むらゆき:もちろんそうですね。はじめの頃は、何度「Vライバーです」と言っても「VTuberなんだね」という風に言われてしまったんですけれど、ここ数年はSNSなどでもVライバーという言葉が見受けられるようになって、私たちの存在がすごく浸透してきたんだなと感じています。

――柳さんはVライバーのことについて表立って話す機会がここ数ヶ月で増えている実感がありますか?

柳:ありがたいことに、非常に増えてきています。Vライバージャンルを始めた2018年は、「VTuber」という言葉すらまだまだ広がりきってなかったと思いますし、いまでこそVライバー専用のプラットフォームも増えてきましたが、当時はVライバーが配信できるプラットフォーム自体も少なかったと思います。もっと言うと「ライバー」という言葉自体も、2018年当時はまだ浸透していなかったと思うんです。私の感覚では、コロナ禍でライブ配信が活用される時代に突入して、そこから「ライバー」という言葉が広まり、それにつれて「Vライバー」という言葉も広がっていったのかなと感じています。

――今回はプレイヤーとプラットフォーマーの対談ということで、ひとつお聞きしてみたいのですが、むらゆきさんが日々プラットフォームを使っている中で、Vライバーの立場から今後追加、改善してほしい17LIVEの機能などはありますか?

むらゆき:17LIVEのアプリは、配信と視聴が両方ともスマホひとつでできるプラットフォームだったと思うんですけど、Vを導入する前後くらいからPCでも配信や視聴ができるようになって。最近は進化がすごくて、スマホでバーチャルアバターを使った配信もできるようになったんです。いま私は、PCから3D配信を主にやっているんですが、2Dのモデルデータであればそれをスマホに入れて、配信ができるんですよね。将来的には3Dのスマホ配信も同様のやり方でできれば、どこでもぬるぬる動く配信ができるので、それができるようになったら嬉しいですね。あとは、高画質で配信ができる仕様になっているので、電波が悪いところでも配信を視聴できるような低画質モードもあるといいなと思います。

柳:いまいただいたお話の中には、会社としてすでに着手しているアップデートもあるので、ぜひ期待していただければと思います。私やそれ以外のスタッフも含め、Vライバーの方々とお話させていただく機会もありますし、そこで出た意見を元に開発を進めているので、もっとVライバーのみなさんが使いやすいようなプラットフォームに変えていきたいと思います。

――プラットフォーム側で言うと、「ジャンルページ」のトップに「Vライバー」が配置されたり、アプリ内にVライバーの方限定の「バーチャル配信」のタブが追加されたりと、17LIVEのアプリ内でもVライバーの盛り上がりを感じます。その背景には需要の増加はもちろん、Vライバーという名称の浸透もあるのかなと思います。

柳:おっしゃる通りです。17LIVEのアプリの中ではリアルライバーの方が多いというのが現状ではありますが、もっとVライバーのことも知っていただきたいと思っています。会社としてもVライバーに注力していこうと決めているので、その部分を今後より促進するために、プロダクトの部分の工夫をさせていただいています。

――むらゆきさんは直近で『MIRAI STAGE〜Virtual×Real MUSIC LIVE in "harevutai"〜』にも出演されました。リアルとバーチャルがクロスするようなイベントも17LIVEの特徴だと思いますが、出演してみての感想を教えてください。

むらゆき:昔から17LIVEはリアルとバーチャルを掛け合わせたイベントを開催してくれているんですけど、やっぱりいろんなプラットフォームを見渡すとリアルライバーとVライバーが掛け合わさるイベントってまだまだ珍しいと思いますし、お互いの認知度が上がるという意味でも非常に強いなと思います。『MIRAI STAGE〜Virtual×Real MUSIC LIVE in "harevutai"〜』は5名のリアルライバーと5名のVライバーによるイベントだったんですけど、リアルライバーしか見ないリスナーさんとVライバーしか見ないリスナーさんが一体となって盛り上がったイベントだったので、すごく興奮しました。リスナーさんの配信を見る幅も広がるので、非常にありがたいイベントでしたね。

『MIRAI STAGE〜Virtual×Real MUSIC LIVE in "harevutai"〜』

――17LIVEの直近のニュースでいうと、Vライバーガールズユニット『武士来舞(BUSHILIVE)』のお披露目がありました。あらためてユニットの成り立ちや、先々の展開に向けてどんなことをやっていくのかを教えてください。

柳:17LIVEとしてはさらにVライバーというジャンルを盛り上げていきたいと思っていて、『武士来舞』は17LIVEがVライバーに注力するにあたっての流れのひとつとして誕生しました。ユニットのテーマとして「戦国」というのがあるのですが、17LIVEは日本だけでなく海外での展開も行えるプラットフォームなので、今後も視野に入れた上で、日本独自のカルチャーを意識したユニットとして定めています。彼女たちの活動が17LIVEのVライバージャンルが活性化させるフックになったらいいなとも思っていますし、こうした取り組みでジャンル全体を盛り上げていきたいです。

――『武士来舞』のような大型ユニット、ともすれば強大なライバルとなりうる存在が誕生したことを、むらゆきさんはどのように捉えているのでしょうか?

むらゆき:17LIVEが世界に向けて日本のVライバーを押し出していくということで、非常に興味深いなと感じていました。ライバルかと言われると、私はVライバーの人たちに対してあまりライバル視をしていなくて。『武士来舞』さん含め、バーチャル活動をこれから始める、あるいは始めたばかりの方たちにとって、17LIVEを居心地の悪い場所にしたくないんです。

 だから、困ったことがあったらみんなで助け合いたいっていう気持ちが強くて、ただそれに尽きますね。初めて生放送配信をやるとき、きっと不安なこともあるかと思いますし、機能の使い方などで困ることもあるかもしれないので、そういうときにVライバー同士で助け合ったり、リスナーさんが助けてあげたりできるような、そんな環境を作っていけたらいいなと思っています。

――Vライバーとして今後、こういうことをしたいと掲げていることはありますか?

むらゆき:すごく遠い未来になりそうですが、いつか絶対にやろうと思ってるのは、保護猫活動に関することですね。自分自身が猫又の妖怪で、猫の幸せを願っていることもあり、いつかは保護猫カフェのようなものを運営したいと思っています。そのために、まずは自分の知名度を上げる段階だと思っているので、テレビやラジオ、雑誌などもっと活動の幅を広げていきたいですね。

――素敵な目標ですね。柳さんはいかがでしょう。今後プラットフォームとして、あるいはVライバージャンルにおいて目指している具体的な目標があれば教えてください。

柳:17LIVEとしては、まだまだリアルライバーが主流なので、Vライバーの盛り上がりをリアルライバーと同じくらいになるまでに持っていきたいと思っています。それから、リアルライバーとVライバーが共存して一緒に楽しんでいけるようなプラットフォームを作っていきたいと思っていますし、日本だけでなく世界にVライバーのカルチャーを知っていただくためにも、グローバルの展開もより強化していきたいですね。ぜひご期待いただければと思っています。

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