連載:作り方の作り方(第四回)

「本当の怖さは、視聴者が再発見するもの」 放送作家・白武ときお×「フェイクドキュメンタリー「Q」』など手がける映画監督・寺内康太郎が語る"ホラーコンテンツの可能性”

 いま、エンタメが世の中に溢れすぎている。テレビやラジオはもちろんのこと、YouTubeも成長を続け、Podcastや音声配信アプリも盛り上がりを見せている。コロナ禍をきっかけに、いまではあらゆる公演を自宅で視聴できるようにもなった。では、クリエイターたちはこの群雄割拠の時代と、どのように向き合っているのだろうか?

 プラットフォームを問わず縦横無尽にコンテンツを生み出し続ける、放送作家・白武ときお。彼が同じようにインディペンデントな活動をする人たちと、エンタメ業界における今後の仮説や制作のマイルールなどについて語り合う連載企画「作り方の作り方」。

 第四回は、『フェイクドキュメンタリー『Q』』などを手がける映画監督・寺内康太郎氏が登場。

 20年以上に渡って心霊ドキュメンタリー作品を撮り続けてきた寺内氏に、「今ホラー・スリラージャンルの制作チームを作っている」と明かす白武が質問を投げかける。Jホラーブームの再燃もささやかれるなか、SNS時代のホラーコンテンツのあり方とは。"恐怖"と"笑い"という異なるアプローチで人々の心を揺さぶり続けてきた二人に語ってもらった。

Jホラーは「実家のカレー」みたいなもの

白武:『Q』って、どんなチームで作ってるんですか?

寺内:メンバーは僕を含めて4人で、人気ホラーYouTubeチャンネル『ゾゾゾ』のディレクターでもある皆口大地さんもその一員です。彼はそもそも、僕が昔からやっていたような心霊ドキュメンタリーが好きだったらしいんですけど、それってこの業界の若手としては珍しくて。ようするに『リング』に代表されるJホラーの影響を、あまり受けていないんです。

白武ときお

白武:僕はホラー業界のなかで、Jホラーや心霊ドキュメンタリーがどう位置づけられているのか、あまりわかってなくて。もしかして心霊ドキュメンタリーって、Jホラーよりも幼稚だったり低俗なものみたいな扱いなのでしょうか?  お笑いでいうところの「ワーキャー」みたいに舐められる立ち位置というか。

寺内:それに近いと思います。いわゆるJホラーというのは、お笑いでいうところの『M-1グランプリ』ですかね。ある枠組みの中でいかに最適解を出すかを競っている感じで、ちょっと権威的なところもある。心霊ドキュメンタリーは、もっとインディペンデントなものです。荒っぽくて整っていなかったり、理屈も全然通っていなかったりします。

白武:観てる方もよくわかんないけど、ただただゾッとするっていう。

寺内:そうそう。決して万人受けはしないんだけど、たまに奇跡的な作品も生まれるし、マニアックなファンもついている。そんなジャンルですね。

白武:皆口さんもそういうマニアの人だったんですか?

寺内:そうですね。たまたま僕の作品も観てくれていたらしく、「一緒になにかやりませんか?」と声をかけてくれて。だから『Q』では、僕はまずは皆口さん目がけて作品を作っているんです。彼が面白がるものを作って、あとは世間がどう反応するのかを試している。ちょっとイジワルな言い方になりますけど、視聴者がどこまでついてこられるのか、実験しているようなところがあります。

- (basement) - BASEMENT

白武:エレベーターの回(- (basement) - BASEMENT)とかすごいですよね。一見簡単ように見えるけど、技術的に「これどうやって撮ったんだろう」って思いながら観てました。

寺内:あれはかなりアナログな手法で撮影しているんですよ。実際にエレベーターを動かしながら、どこまでCGを使わずにやれるかにこだわった回ですね。合成とかも考えたんですけど、やっぱりアナログならではの生っぽさというか、作り手の熱量みたいなものは視聴者にも伝わると思うんです。

白武:たしかに『Q』のコメント欄って、いつもめちゃくちゃ盛り上がってますよね。ガチの考察勢もいるし、あとは海外からのコメントが多いのも印象的でした。

寺内康太郎

寺内:最近はメキシコの視聴者が一番多いんです。メキシコ、アメリカ、日本くらいの順番で視聴者がいて。でも、やっぱり日本のホラーファンは愛情がすごくて、コメントも面白い。「どんだけ細かく観てるんだよ!」みたいな人もいますけど。

白武:フレームごとに、なにが映ってるかをチェックしている人もいますよね。

寺内:異常な熱量ですよね。お笑いファンでもそういう人っていますか?

白武:ジャルジャルさんのコントを細かく分析してる人とかはいますね。同じコントを何回も観て、「指で数え始めるタイミングを変えるだけで、ウケ方がこんなに変わってる!」みたいなのをチェックしてたり。

寺内:すごいなあ。ちなみに芸人さんって、そういうことを計算してやってるんですか?

白武:会場のサイズや照明の条件、当日の天気に合わせたりいろいろ考えていると思います。舞台に上がった瞬間に、お客さんの空気感とかをパッと判断してパフォーマンスを変えている。

寺内:それってもうエチュード(即興劇)の領域ですよね。だからある種のリアルさが宿る。僕たちも「Q」では、いかに本当らしくみせるかにかなり気を遣っています。そうすると「こう来て、こう来て、ここで髪の長い女がドーン!」みたいなJホラーの作法になれた方からは物足りないとも言われてしまうんですけど、リアルに徹した方が絶対に海外のウケはいいと思うんです。

AM02:11 FEB 04 2012 - Sanctuary

白武:海外の人の方が、よりリアルに感じるかもしれないですよね。山道で変な仮面をつけた集団に囲まれちゃう回(AM02:11 FEB 04 2012 - Sanctuary)も、「日本にはこういう村もあるのかな」くらいに思っているのかもしれない。『ミッドサマー』を観てるときは、僕たちも「北欧ではこういうこともあるのかもな」と思ったり。

寺内:遠ければ遠いほど、想像力が膨らみますよね。

白武:そういう意味では日本は「謎の国」と思われてそうですし、そこはアドバンテージなのかもしれませんね。

寺内:貞子っていうキャラクターが世界であれだけウケたのも、一つにはそういう理由があったのかもしれませんね。

白武:『リング』が流行ったころ、寺内さんはもう業界にいたんですか?

寺内:まだ学生でした。僕がこの業界に入ったのは、Jホラーブームの本当に末期ですね。

白武:寺内さんがジャガモンド斎藤さんと話している動画を見たんですけど、『リング』や『呪怨』の成功体験が日本のホラー映画業界を縛っている、みたいな話をされてたじゃないですか。寺内さんの体感として、Jホラーブームの呪縛はいまもあると感じてますか?

寺内:あるところにはある、と思います。というのは、ホラー映画って"実家のカレー"みたいなところがあって。同じカレーでも家庭ごとに作り方が微妙に違っていて、それでみんなが「ウチのレシピが一番正しい!」と言い争っているような世界なんです。

白武:この隠し味じゃなきゃダメなんだ、みたいな。

寺内:その違いは本人たちにしかわからなかったりするんですけど、やっぱりいまだに「貞子みたいなことをもう一度やろう」「あの味をもう一度しっかり再現すれば、それで美味いんだから」っていう人もいて。それはあくまでも90年代のJホラーブームに乗っかれた人たちですよね。僕みたいにブームに乗れなかった側の人間からみると、彼らのこだわりは呪縛に見えます。

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