バーチャルヒューマン×生成AIで生み出されるものとは  Awwの「二次創作2.0」が巻き起こすパラダイムシフト

 ChatGPTやStable Diffusion、Midjourneyなどに代表される生成系AI(ジェネレーティブAI)は今、目覚ましい進歩を遂げている。

 多くの企業や個人が生成系AIに注目し、新たなビジネスチャンスを見出そうと日々取り組んでいるのだ。

 生成系AIは、エンターテインメントやクリエイティブ、Web3など、あらゆる産業に大きなインパクトをもたらすといっても過言ではない。

 そんななか、日本発のバーチャルヒューマンカンパニーとして「imma」を手がけるAww(アウ)社は、Stable Diffusionの開発元であるStablity AI社と業務提携を締結。

 「バーチャルヒューマン × 生成系AI」の可能性や3DCG技術のブレイクスルーを模索していくという。

 今回は株式会社Aww Chief Marketing Officerの佐田 晋一郎氏に、バーチャルヒューマンとAIの関連性や見据える未来について話を聞いた。(古田島大介)

写実的な見た目だからこそ、ファンを第一に考えた“魅せ方”にこだわる

──まずはバーチャルヒューマン「imma」を開発した経緯について教えてください。

Aww Chief Marketing Officerの佐田 晋一郎氏

佐田晋一郎(以下、佐田):バーチャルインフルエンサー誕生の原点に挙げられるのが、2016年にシリコンバレーに構える企業が「Lil Miquela(リル・ミケーラ)」という、リアルな人間のような架空の女性を生み出し、インスタグラム上で大きな話題となったことでした。

 特に衝撃的だったのは、スーパーボウルの試合中に流れたカルバン・クラインの動画広告です。

 人気モデルのベラ・ハディッドが、バーチャルヒューマンのリル・ミケーラとキスをするタイアップ動画が公開されると、賛否両論が巻き起こり、結果として、人間としてあたかも実在しているかのような見た目にアパレル企業が非常に興味を示し、さまざまなブランドとコラボする“バーチャルインフルエンサー”が世間でも認知されました。

 同じころ、日本ではKizuna AI(キズナアイ)というVTuberが注目されたりと、国は違えど同時多発的にバーチャルインフルエンサーが生まれるなか、2018年に弊社の創業者である守屋と岸本がアートプロジェクトとして始めたのが「imma」です。

 ある種、ロボットのような造りを残しているのがリル・ミケーラなのに対し、immaは「CGだと気づかない」ほど人間に近いビジュアルをしているのが特徴で、タイや南米など海外からのリアクションがものすごく良かったです。。

 リル・ミケーラが登場して以降、欧米を中心にさまざまなバーチャルヒューマンが出てきたんですが、その中でもimmaが最も写実的で優美な容姿ということで話題になったんです。

 限りなくリアリティを追求し、日本初のバーチャルモデルとしてSNSで徐々に認知度が高まっていくに連れ、さまざまな企業の広告に起用されるようになっていきました。現在、インスタグラムは40万人、全SNSのフォロワー数は200万人を超えるまで成長しています。

──本当に人間と見間違えてしまうほど、精巧に作られていますよね。なぜ、immaはこんなにもリアルに近いビジュアルを演出できるんですか?

佐田:バーチャルヒューマンはVTuberに加えて、ワールドクラスのCGアーティストを有していないと開発ができないんです。だからこそ、市場にはあまり広まっていないわけですが、幸いにも弊社の岸本はCG制作会社を長く経営していて、過去には、X JAPAN・hideさんの復活ライブや2019年の紅白歌合戦で披露した「AI美空ひばり」のCG制作を手がけたりもしていました。

 そこで培われた経験や知見を持っているのに加え、高いクオリティのバーチャルヒューマンを作り出せる専用のスタジオを持っていたのも、immaならではの人間味にあふれたビジュアルを表現できた要因となっています。

──immaは仕事の案件を選ぶ際に「やりたいこと」と「やりたくない」を明確化していると聞きました。この辺りはどのような基準を持って判断しているんでしょうか。

佐田:やはり、人間の見た目なので、好きになってもらえる人、そうでない人に分かれると思うんです。

 そうなったとき、ファンのことを第一に考え、「ファンをがっかりさせるようなことはしない」ということを意識しています。

 imma本人が好きではないこと、彼女の世界観に合わないことを無理に引き受けてしまっても、信頼の喪失にもつながる。そのため、コラボ先がハイブランドかどうか、知名度の有無にかかわらず、immaのファンがどう感じるかを一番の基準に置いていますね。実際のところ、来る案件の7割くらいはお断りさせていただいているんです。

AIが副操縦士となる「二次創作2.0」の世界

──昨今、ChatGPTのような生成系AIが大きな注目を集めていますが、バーチャルヒューマン開発において、どのような恩恵、あるいは弊害をもたらすと考えていますか。

佐田:バーチャルヒューマンの可能性として考えられるのが「人間拡張」です。

 人と人と交わることで生まれる温もりのように、人とバーチャルヒューマンが関わることでどのような共生を見出せるかが、バーチャルヒューマン開発を進める大きなテーマであり、本質だと捉えているんです。

 こうした背景のなかで、生成系AIの登場は非常にポジティブに感じていますね。

 これまでイラストしか書けなかった人が、AIの力を使って漫画家になることも可能だと思っています。

 人間は飛行機の操縦士だとすると、生成系AIが「Co-Pilot(副操縦士)」としてサポートしてくれるようなイメージを持っています。

 僕らも、バーチャルヒューマンを作る開発工程において、人がやらなくてもいい繰り返しの作業などは生成系AIを活用するワークフローに組み替えて、業務効率化を図っています。

 生成系AIのポジティブな点をもうひとつ挙げると、コンテンツIPは、世界観・キャラクター・ストーリーで構成されているのですが、いずれはこのどれか、または、すべてをChat GptなどのAIが作る時代になるとも思っていて。

 世界観、キャラクター、ストーリーなどが分かれているのですが、いずれはこの世界観をChatGPTが作る時代も来ると思っていて。キャラクターを構成する見た目や声、動きなどの要素もAIが代行して作ることもありえると思うんですよ。

──まさにおっしゃる通りだなと思う反面、AIが人間の仕事を奪うみたいな「怖さ」は感じていないんですか。

佐田:極論、AIによって仕事が奪われるという感覚は全人類が持った方がいいと思っていて。その前提があった上で、自分は何で価値を出していけばいいのかを考え、AIと向き合っていくことが必要でしょう。僕らも、この先CGがなくなるかもしれないという危機感を持って事業に取り組んでいます。

 その一方、AIはパーフェクトではないので、人間の目でクリエイティブの良し悪しを判断しなくてはならない。AIによって生み出されたアウトプットをすべて盲信するのではなく、最終的な質の追求は人間に委ねた方がいいわけです。

 また、最近だとChatGPTとキャラクターを組み合わせて自律的に振る舞う「AITuber」のようなものも出てきていますが、それこそ視聴者からの質問に対して、ただコメントを返しているだけなら、チャットボットと変わりません。

 その先にある、AITuberならではの体験や付加価値を創造していくのが人間の役割になるでしょう。

──2023年4月には、画像生成AI「Stable Diffusion」開発をするStablity AI社と業務提携を締結されました。バーチャルヒューマンとAIの「ブレイクスルー」は、どのようなものを創造されていますか。

佐田:Stable Diffusionはオープンソースとして公開されているので、とてもクリエイターフレンドリーな画像生成AIです。

 自分のPCにダウンロードして、いろんな画像やイラストを自動で生成できるため、クリエイターの創作活動の幅も広がる。

 今回の業務提携では「人間型画像生成の機能拡張」を目的にしていて、要するに人間のルックでビジネスしているバーチャルヒューマン技術で、AIが抱える課題を解決したいという狙いがあるんです。

 現状の画像生成AIでは、可愛いキャラクターを無数に作れる一方、1つのキャラクターの画像を無数に出力したり、別のポーズやカットを生成したりすることが、まだ技術的には困難です。

 そうした技術的な課題と向き合い、クリエイターの創作活動がさらに豊かになっていく未来を作っていければと考えています。

 Stable Diffusionを活用した実際のユースケースとしては、弊社でプロデュースしているバーチャルヒューマン「Ria」のLoRA(追加学習)ファイルを無料配布し、誰でも簡単にRiaの画像生成を可能にした事例があります。

 こちらの特徴は「二次創作ができる」ということ。

 今までデザインや表現技法、美的センスといったスキルを持ったクリエイターでないと、創作活動ができなかったものが、AIの二次創作ツールが登場したことで、誰もがコンテンツやIPを生み出せるようになっていくと考えています。

 初音ミクが出てきた頃に大きなインパクトを社会に与えた以来のパラダイムシフトが、今まさに訪れていて、AIが副操縦士となる“二次創作2.0”の世界は、今後さらに発展していくと予測しています。

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