『mixi』はZ世代の“居心地のいい場所”になる? MIXI代表・木村弘毅が見据える「SNSとコミュニケーションの未来」

MIXII代表・木村弘毅が見据える「SNSとコミュニケーションの未来」

 かつて多くの30代、40代が夢中になったSNS『mixi』。時代は移り変わり、ユーザーを集めるサービスも変化を遂げるなか、今年になってSimejiランキングの「トレンド寸前!次世代SNS TOP10」にランクインするなど、再び注目を集めている。『mixi』を生み出した株式会社MIXIは、『モンスターストライク』や『家族アルバム みてね(以下、『みてね』)』などジャンルやユーザー層に囚われないコミュニケーションサービスを数多く展開している。いち早くSNSを開発し、他とは違った視点からソーシャルメディアを捉えてサービス展開をしているMIXIだからこそ見えているSNSの未来があるのではないだろうか。今回代表取締役社長CEOの木村弘毅氏に、SNSの現在と未来を伺いながら、MIXIが一貫して掲げてきたコミュニケーションとテクノロジーの関係性についてもたっぷりと語ってもらった。(Nana Numoto)

――SNSの『mixi』が「トレンド寸前!次世代SNS TOP10」に選ばれていましたが、現在の『mixi』について手応えを感じていますか。

株式会社MIXI 代表取締役社長CEO 木村弘毅氏

木村弘毅(以下、木村):当社としては割と冷静に捉えています。たしかに、自分たちのサービスが若い人に評価されている部分はあるかもしれませんが、それは機能で差別化を図れているからというわけではなく、他のSNSの勢いが弱まってきていることもあり、周りに使っている人がいない自分の仲間だけがいるリラックスできる新しい場所として再度評価していただいているのだと思っています。

ーーユーザーが新しいSNSを求めることにはどんな背景があるのでしょうか。

木村:私はSNSというものには寿命があると考えていて。私たちはソーシャルグラフ(ソーシャルメディア上に形成される人と人との繋がり)と呼んでいますが、友達との人間関係には居心地のいいサイズがあると思うんですね。SNSをずっと使い続けているとだんだんフォロワーが増えてきて言いたいことが言えなくなってくるように、経年とともにソーシャルグラフが大きくなってしまいなかなか自由なことを言えなくなってくる。そうなると、やはり居心地が悪くなって、“SNS疲れ”とも囁かれているように、人から見つからないようなところに行きたくなるのです。何年かに一回、新しいSNSが一気に増えて、それがワッと拡大する背景には、こうした理由で引っ越しをしたいと考える方が多いからではないでしょうか。

「トレンド寸前!次世代SNS TOP10」(バイドゥより)

 今回も、他社のサービスに居心地の悪さを感じたことで、再度『mixi』に注目があつまったということかなと思っています。一方で、新しいSNSが求められているという需要はすごく強く感じていて。いまの若い人たちにとっての居心地のいい場所が再び求められつつあるので、新たなコミュニケーションの場の提供が重要になってくるのではないかと思います。

――では、今後『mixi』をアップデートする、もしくは新しくSNSサービスを立ち上げようという考えはありますか。

木村:『mixi』は長年にわたり使っていただいている方々も多くいらっしゃるので、安心してご利用いただける環境を永続的に提供していくことが重要だと考えています。ですが、新しいSNSを提供することが若者の需要を満たせるものになるとも考えており、今年4月に若い世代に評価が高い『whoo(フー)』という位置情報共有アプリを提供しているLinQに出資を行いました。私たちで作るだけではなく、出資という形で応援していくこともあり得るかなと思っています。

位置情報共有アプリ『whoo』(LinQ)より

――『whoo』は、家族や特定の友人同士で位置情報の共有ができるアプリですが、どんな部分に期待を持っているのでしょうか。

木村:位置情報を使ったコミュニケーションサービスなので、キーワードは「会う」ということ。私自身も若い頃には友達と毎日のように会って、何もなくてもダラダラと過ごしていましたので、やはり若い世代というのは会って遊びたいというニーズがすごく強い。また、「会う」ことへの需要はコロナ禍を経て高まりました。コロナ禍では誰かと会いたくても会いづらかった。「今どこにいるのか」「今会いたい」などの思いをバーバルコミュニケーション(言語で相手に伝達を行うコミュニケーションのこと)で伝えることに、心理的な障壁が高くなってしまったんです。しかし、それを位置情報として、それとなく知ることができる状態にしてあげるだけで「お! そこにいるんじゃん! じゃあ会おう!」と気軽に輪に入ることができるようになる。『whoo』は若い世代が大切にしたい「実際に会う」までにいたるコミュニケーションの心理的ハードルを下げる効果がすごく高いのではないかと思っています。

――まさにその心理的ハードルの高さが変わってくると、友達との付き合い方も大きく変化してくるんじゃないかと思います。MIXIとしては「会う楽しさ」をどのように捉えているのでしょう。

木村:もっと活性化していけたらいいなと思っていますね。私たちが提供しているサービスは、コミュニケーションサービスの中でも家族や友人のように仲のいい4、5人のグループの「会う楽しさ」を盛り上げていくことがテーマになっているんです。

 いまは、離れた場所でも一緒に遊べるオンラインゲームが主流になっていますが、弊社の『モンスターストライク』は、対面で遊ぶということにこだわりました。ゲームそのものの楽しさだけでなく、直接会ったときの、対面で人と接することで生まれる楽しさが加わることで、コミュニケーションのクオリティがさらに上がると思っているんです。

ーーそれこそ位置情報を共有できる『whoo』と『モンスターストライク』を組み合わせれば、「会う楽しさ」を実現できそうです。

木村:まだ具体的に実装するかは分かりませんが、たとえば『モンスターストライク』をやっているときに『whoo』に登録している友人に「モンストマーク」が出るようにするなどの「状況を共有できる機能」を追加すれば、そこに行って一緒に遊ぶことができますよね。事業シナジーが生まれるだけでなく、対面で遊ぶことでコミュニケーションも充実し、それによってハッピーになれる人を生み出せるようになる。そのような影響を巻き起こしてくれるのが、位置情報共有型のSNSの醍醐味かなと思っています。

――『Twitter』、『Instagram』や『TikTok』では、ユーザーがインターネットを介して、フォロワーに何かしらの作品や言葉を発信するという共通点があります。いまのSNSの使われ方という観点で、MIXIが提供しているサービスはこれらとの明確な違いはあるのでしょうか。

木村:『Twitter』や『Instagram』は、現在では1人の人が複数のフォロワーに向けて発信するメディア型のSNSとしての要素が強くなっていますよね。インフルエンサーが大量に情報を投下するとフォロワーがそこに反応するというかたちですね。一方の『Facebook』や私たちが提供している『mixi』『みてね』は、自分の友達や家族が何かをやっているのを見て、「いいね」といったリアクションをつけるなど、双方向性が重視されている。日記を書いたらそれに対してコメントや「いいね」があり、発信者もそれに返事をするなど双方向のリアクションが主な用途となるクローズドなSNSといえます。

ーー現在はメディア型のSNSが主流ですが、さきほど仰っていた“SNS疲れ”に伴ってユーザーはクローズドなSNSを求めてきていると。

木村:一概には言えませんが、たとえば『whoo』のように位置情報を共有することは多くの人の目に留まる『Twitter』や『Instagram』では危ないので絶対にできません。そういった意味で先ほどのクローズドなSNSや『whoo』は相手が確認されている状態であり、非常にプライベートなんです。位置情報を伝えても問題ないような人としか繋がらないSNSなので、本当の自分からゆるやかにクラスターが生まれていく。今の時代にはそれが居心地よく感じられて、これからは好き勝手なことを言える間柄が担保されているSNSが求められていくのかもしれません。

――数年前に、『Path(パス)』や『Between(ビトウィーン)』などのクローズドなSNSが少しだけ流行った時期があったと思います。私も当時は家族や友人と使っていました。最近でははちょうど『Bondee(ボンディー)』が流行ったこともあり、もしかしたらここが、次にクローズドなSNSが流行るタイミングなのかなと感じているのですが、その点についてはいかがでしょう。

木村:クローズドなSNSは、流行る以前に、継続的に使われるか、使われないかが重要だと思っています。弊社の『みてね』というアプリは、ものすごくアクティブユーザー率が高いんです。その理由は家族に限定されるSNSだったから。おじいちゃんおばあちゃんが孫の写真を見たくないなんて日はなかなか来ませんよね。家族の関係性がライフステージで変化することは稀ですし少ないんですよ。その意味で『みてね』は一つの成功例なのかなと思っています。

『家族アルバム みてね』(MIXIより)

――木村さんからみて、「このSNSのジャンルが来る」のではないかと思われるコンテンツがあれば教えてください。

木村:キーワードになりそうなのはAIではないでしょうか。私は、発信したことにリアクションがあり、それに対してまたリアクションが起こることがコミュニケーションの根幹だと思っていて、AIがその“すれ違い”自体をなくしていくための良いツールになっていくんじゃないかと考えています。

 例えば、予定調整のAIを仲介に入れることによって、この日に会うはずではなかったという友人と会えるようなスケジュールに調整してくれた、自分と好きなことや趣味が一緒の友人をAIが見つけ出し、一緒に何かをするというコミュニケーションの入り口になってくれたなど、小さなすれ違いにAIが加わることで、誰かとの繋がりをマッチングさせてくれるという存在になってくれるのではないでしょうか。

ーー『whoo』の位置情報とAIが組み合わされば、よりコミュニケーションが円滑になりそうですね。

木村:位置情報が、場所という人と人がリアルに接することができる情報を共有し、コミュニケーションをとることへのすれ違いを減らし、AIが趣味嗜好や予定時間というデジタル化できる一人ひとりの情報のすれ違いを減らすという機能を持つことで、新しいコミュニケーションをとることができるようになってくるんじゃないかと思っています。

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