深津貴之×バーチャル美少女ねむ対談 メタバースはAIのために、AIはメタバースのためにーーその共振が“世界”を拡張する
AIは仕える人を選ばない、誰にとっても忠実な「執事」となり得るか?
ねむ:深津さんは最初に「これは世界を変える技術になると直感した」と仰っていましたが、AIがどんな風に世界を変えていくと感じたのでしょうか?
深津:最も本質的な変化は、プログラミング言語なしに、誰もが簡単に機械(コンピューター)と対話できることだと思います。
ねむ:なるほど。その一方で「プロンプター」という言葉が注目されているように、AIを使う人間の側にもスキルが求められる、といった議論も見受けられますよね。
深津:そうですね。でも、それは過渡的な問題だと思います。あと数年もすれば、高度なプロンプトを扱うのは専門家だけで、一般ユーザーは「あれやっといて」くらいのアバウトな命令で、通じるようになっているはずです。
ねむ:その答えはちょっと意外でした。AIの力を借りることでトップクリエイターは大量のクリエイティブを生み出すことができるようになっていきそうですが、一方で、いわゆる一般の人がAIの恩恵を受けるのは、もっと先なのかなと思っていたんです。そのせいもあってか、AIが日常生活のなかでどんな役割を担っていくのか、まだイメージができていなくて。深津さんのビジョンを教えてもらえますか?
深津:わかりやすい例は執事です。たとえば「Aさんと会食だから準備しておいて」と命令すると、「いつものお店を予約しておきますね」とか「たしかAさんは魚がお嫌いだったので、お肉メインのお店でどうですか?」と提案してくれる。そんなイメージです。こちらから呼びかけなくても「4時からミーティングの予定ですが、そろそろ家を出なくて大丈夫ですか?」と、向こうから通知してくれると思います。
ねむ:それはありがたい(笑)。メタバースにしてもそうですが、最先端の技術って「これで個人でもすごいプロダクトが作れますよ」とか、そういうクリエイティブな側面が注目されてきたと思うんです。でも、AIはもっと汎用的なツールになって日常生活を変えていくという理解であっていますか?
深津:そうですね。たしかに今は、AIが「何かを作ってくれる」という側面に注目が集まっています。僕はそれよりも、「物事を進行してくれる」という側面に期待しています。というのも、従来のITツールの最大の課題って「結局は自分でやらなきゃダメだよね」という点に尽きると感じていて。Googleカレンダーは便利だけれど、僕たちユーザーがうっかりミスをすると、ダブルブッキングしてしまったりする。これからのAIは、その最後のひと手間を肩代わりしてくれると思うんです。必要なデータさえ与えておけば、あとはよしなにやってくれる。AIの行動に納得がいかなかったときだけ、プロンプトで細かい命令を出す。そういう風になるのではないでしょうか。
ねむ:言い換えると、AIによってITリテラシーがいらない世界がやってくる?
深津:このままAIが進化すれば、そうなると思います。僕たちは大まかな要望を伝えるだけで、それをどう実現するかはAIが勝手に考えて実行してくれる。それこそ忠実な執事のように。
これは個人的な哲学でもあるのですが、テクノロジーの本質は「民主化」です。一部の特権階級に独占されていた何かを、誰にでもアクセス可能なものにすること。それがテクノロジーの進化の基本的な方向性だと思うんです。たとえば、お抱えの料理人を雇うことはお金持ちにしかできないけれど、「Uber Eeats」を使えば誰もが自宅でプロの料理を楽しめます。お金に限らず、リテラシーや技術にしてもそうです。お金持ちでなくとも、エンジニアでなくとも、誰もがAIを手足のように扱える。そんな未来が訪れると予想しています。