この冬、『進撃の巨人』のアクションVRゲームが爆誕 気鋭の開発者が語った「バーチャル世界への“無垢な憧憬と狂気的な情熱”の根源」とは?

VRで酔わずにプレイできるスキルを習得できるような設計思想

ーーVR人口を増やす上で、UNIVRSは当初から「VR酔い」を解決することに注力していると感じます。『進撃の巨人VR: Unbreakable』においてもその点は強調されているように見えますが、具体的にはどのような解決策があるのでしょう?

小路:基本的にVRで起こる「酔い」って、体の中で何か問題が起きているわけではないんです。乗り物酔いと同じく、自分は座っているだけなのに窓の風景が動くことによって生じる「不快感」のようなもので、要は主観の問題なんですね。

 そうしたときに、たとえばワープ移動は「画面を切り替えているだけ」なのでそもそも“移動していない”んです。だから酔わない。ワープは少し極端な例ですが、多くのVR開発者は視覚情報の変化を減らすために様々な工夫を凝らしています。弊社の場合はもう少し先の部分にアプローチしておりまして、プレイヤーが「運転手」になるようにゲームを設計しています。

 車って、運転している人は酔わないんですよね。それは車を自分でコントロールできているからなのですが、そのように「自分が運転しているから景色が動くのだ」と認識できること、「原因と結果が直結している」と実感できることが大事なんです。それを学習できると、視覚の違和感も感じなくなるんですよ。

 とはいえ、私達は開発側の立場なので言葉で説明できるのですが、この記事を文章として読む方が文字情報だけでその感覚を完全に理解するのは恐らく難しいと思っています。我々が講談社さんにデモを制作してプレゼンしたのも、そうした理由からですから。

ーーつまり、実際にゲームをプレイして実感してほしいということですね。

小路:インタビューをお受けしておきながら、身もふたもない言い方をするとその通りです(笑)。初めて自転車に乗れた時って、自分がなぜ乗れるようになったのか詳しく説明できないけれど、なんとなく体が乗り方を理解しているじゃないですか。あの感覚に似ている気がします。それのVR版と言いますか、UNIVRSのコンテンツではバーチャル空間のアバターを通してそうしたスキルを習得できるような設計思想を取り入れています。

 なので、今作でもVR酔いへの対策に尽力し、立体機動装置での快適かつ爽快な移動体験を目指しました。なにをどの程度不快に感じるかは個人差がありますから、100人中100人が酔わないゲーム設計にするのは難しいのですが、9割のユーザーにとって快適なVR体験を届けられるように調整しています。

ーー「VR酔い」の話とは少し逸れるかもしれませんが、実際にVRとして『進撃の巨人』の世界を体験しないと分からないことは予想よりもはるかに多かったです。たとえば「大型の巨人と戦うよりも、実は小型の巨人を倒す方が難しい」など。

小路:そうなんですよね。でもプレイした後だと説明できるっていう。やった人にしか分からない感覚を得られるのは、VRならではかなと思います。

ーー最後に、VR領域における“次のブレイクスルー”についてもお伺いできればと思います。「VR元年」はまだ続きそうな気もしますが、それこそデバイスのスタンドアローン化がひとつの分岐点になったように、なにかを起点に語られる場合が多いと感じます。開発者の視点では、大きなトピックになり得そうなものはありますか?

小路:スペックの進化ですかね。スタンドアローンによってデバイスの小型化には成功したんですが、それゆえにモバイルスペックなんですよ。『Oculus Rift』が発売されてから現在まで、ものすごいスピードでVRコンテンツは進化を続けているんですが、現状ではソフトウェア側の負荷処理に限界があります。

 映像側の表現、つまり我々が制作する作品の方でなんとか容量を節約しないと、ハードウェア側に問題が起きるんです。そうすると、いくら我々がVR酔いに尽力したところで、ハードの処理が追い付かずに視界の不一致が起きる可能性は想定されます。その課題がクリアできると、また一歩VRは大きく前進すると思いますね。

 ユーザー側からは見えにくい部分ですが、いまはこの点において多くのデベロッパーさんが等しく戦っている実感があります。……そうは言ったものの、個人的に最も課題感を持っているのはその前段階ですね。実際に手にとっていただく、つまりデバイスを被ってプレイしていただくまでは、現在の問題の共有もできませんから。それはもう、開発側というよりもマーケター的な視点かもしれませんが。

ーーやはり、結局は「実際にプレイしてみてくれ」という切実な叫びに帰結してしまうわけですね。

小路:そうですね(笑)。VRに対する見識は広がってきたとは思いますが、まだまだ発展途上なところもありますし、我々も間口を広げる努力は続けていきたいと思います。

■関連リンク
『進撃の巨人VR: Unbreakable』公式WEBサイト
株式会社UNIVRS

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