「Genの炊事場」は、2017年6月にチャンネルを開設した料理系YouTubeチャンネルだ。

　ジャンルでいうと料理チャンネルに属するのだが、どちらかというと“食の研究動画”と表現した方がしっくりとくる。おいしいレシピをわかりやすく紹介するような料理動画とはまったくの別物で、理想を求め続ける男の、研究記録を見ているようだ。そんな「Genの炊事場」の狂気的なまでのこだわりを、動画をもとに分析していく。

　動画には人気シリーズがいくつかあるのだが、今回は2つのシリーズに着目したいと思う。

　まず1つ目は、「やりたい放題にも程がある昭和96年の料理番組」シリーズだ。「やりたい放題にも程がある昭和96年の料理番組」シリーズは全22本の動画が投稿されている。今回は、シリーズ第1回目「【やりたい放題にも程がある昭和96年の料理番組】深夜定食」という動画に注目していく。

　このシリーズは、昭和時代の料理番組を、本当に実在した番組かのような再現度で制作しているのが特徴だ。ブラウン管の時代のテレビの画面比率、画質の絶妙な粗さ、昭和を感じるフォント、微妙にくぐもった声のナレーション、すべてがリアルな昭和を感じる仕上がりになっている。動画のコメントからは、「クオリティ高すぎて途中まで昔の番組だって信じてた」「久々に深夜食堂見て童心に還ることができました」といった反応があり、あまりの昭和っぽさに、ノスタルジーを感じている視聴者が多いようだ。

　また、絶妙に皮肉が効いたナレーションもつい癖になってしまう。「深夜に揚げ物なんか出来ねぇよ。そんな方は近所のローソンでからあげクンでも買ってこいや」といった、急に放り投げられるナレーションの毒舌さには、思わずフフッと笑いたくなってしまう。Genは脚本や小説を制作していることもあり、言葉巧みなナレーションが添えられているのも頷ける。

　2つ目に注目するのは、「再現シリーズ」だ。こちらは全12本の動画が投稿されている人気シリーズになっており、誰もが知っている“ケンタッキー”や“コーラ”といった商品を、Genが試行錯誤を繰り返し、完全再現していく様子を発信している。

　その中でも、「【完成】コカコーラ完全再現への道～後編～」は329万回再生とチャンネル内でもっとも再生されている動画になっている。ただ材料を調べてつくるというものではなく、商品の歴史、文献、商品誕生にまつわる歴史上の人物まで紹介するこだわりっぷり。「コカ・コーラ完全再現史〜前編〜」の動画では、炭酸水の歴史、使用されている香料の原材料の植物まで紹介してから、まずは身近な食材を使って再現にチャレンジ。しかし、前編では失敗に終わり、後編へと研究は続いていく。「再現シリーズ」は、1つのテレビ番組を見ているかのような情報量の多さと完成度の高さを感じる。結果的に再現ができたのかどうかはもちろん、それまでの過程も一緒になって楽しむことができるのだ。

　ほかにも、濃密なシリーズ動画とは対象的に、ナレーションとBGMがなく、ただ淡々と料理をつくるシンプルな料理動画なども投稿されている。さまざま角度から料理を捉え、斬新な切り口で動画にする「Genの炊事場」には、これからも目が離せない。