気鋭のアーティストと作曲AIのコライトにみた“明るい未来” 『Eggs Presents FIMMIGRM - AI Music Lab. -』レポート
AIと創作をめぐる状況は日々変化しつつあるが、音楽とAIについては「人がAIの力を借りながら新たなクリエイティブを制作する」という理想がすでに現実のものになりつつあるのではないだろうか。3月4日、株式会社レコチョクにて行われた『Eggs Presents FIMMIGRM - AI Music Lab. -』は、そんなひとつの希望的観測を見出すには十分すぎるイベントだった。
この日の出来事を記していくにあたって、鍵を握るのは作曲AI『FIMMIGRM(フィミグラム)』だ。『FIMMIGRM』は蔦谷好位置、田中ユウスケ、百田留衣、飛内将大、横山裕章など、いまや日本を代表するヒットメーカーが多数在籍し、近年ではライブプロデュースやレーベル設立、AI開発など、音楽業界の未来を見据えるクリエイティブカンパニー・agehaspringsの代表をつとめる音楽プロデューサーであり、株式会社TMIK代表を務める玉井健二がプロデュースした作曲AI。卓越したヒットソングのトラックを分析・学習させた「AIトラックジェネレーター」を介してAIが自動で作曲し、ハイクオリティなオリジナル曲をメロディの類似なく作成することができる。
イベントはニッポン放送の吉田尚記アナウンサーがMCとして進行。登壇者として株式会社Eggs 代表取締役の柴崎栄太郎氏、株式会社TMIK COOの齊藤悠貴氏、株式会社TMIK CTO / PARTY 執行役員 Tech leadの梶原洋平氏、そして僭越ながら筆者も末席に加わらせていただいた。各登壇者の自己紹介を挟み、柴崎氏が「インディーズアーティストの創作を支援するEggsにとっても画期的なサービス」と『FIMMIGRM』を紹介したあと、梶原氏が同サービスの操作方法を解説した。
1.「Pop/Bright」「Pop/Dark」「Singer」「Emotional/Bright」「Emotional/Dark」「Ballad」という譜割りやメロディの上下幅などが違う6つの“Mood”の中から自分好みのMoodを選択。2.“Key”でコードを設定し、“Genre”で「Techno」「Ambient」「Beats」「Acoustic」「Electronica」「Dance」「Simple」からジャンルを選択。
3.最後にBPMをシークバーで設定し生成ボタンを押せば、あっという間に設定どおりの楽曲が3曲生成される。
生成されたこの3曲は、聴いたうえで良いと思ったものを素材としてダウンロードするだけでなく、何度でも「再生成」することが可能。一度生成した楽曲は著作権管理の観点から、二度と同じものが出てこない。そのため、気に入ったものは必ず「お気に入り」に登録しておくことがおすすめ。
梶原氏は「agehaspringsの作家も、とんでもない量のメロディストックを抱えていて、急に楽曲が必要になった時は、そこから引き出してくることもある」と明かしたほか、過去に自身がメジャーレーベルからデビューした際に「タイアップ案件が急に入ってきて『3日後までに50曲作って』と言われたときにすごくしんどかった経験もある」と、現在につながるアーティスト時代の苦悩を語った。
もちろん、そんな梶原氏の当時の悩みは『FIMMIGRM™』を使えば解決可能。生成後にダウンロードできる素材はWAV形式(メロあり・メロなし)とMIDI形式の3つだが、生成時に“ジャンル”で「Simple」を選択しておけば、複雑ではないシンプルなメロをいくつも自動作曲することができるからだ。これをもとに膨らませていけば、ゼロから大量のデモを作る必要はなくなる。吉田氏は梶原氏のこの説明に「シンプルにいえば、音楽のガチャのようなものですね!しかも他の人と被らない=コモンがないタイプの」とわかりやすい例を添えてリアクションした。
そんなさまざまな機能を使って制限時間3時間で15〜60秒の楽曲を制作する、というワークショップがスタート。参加したアーティストは米澤森人、DADA GAUGUIN、灰かぶり、Night to Lie、Suhm、kijin、Kangaroockの7組。それぞれラッパー、シンガー、バンドマンなど活動形態も多様で、持ち込み機材もギターやサンプラー、キーボードのほか、エフェクターやアンプシミュレーターなど多岐にわたった。
実際の制作風景も、小さいデスクに各自の機材が最小限に展開されるだけで、ほぼほぼラップトップとDAWで作業が進んでいく。歌などのレコーディングが必要なアーティストのみ席を離れて録音する場面もあったが、一部参加者はラップをその場で録って完結。『FIMMIGRM™』を使った作曲はいかに敷居が低いかを象徴するかのようなワンシーンだった。
予定されていた3時間が終了し、アーティストによる楽曲発表の時間へ。