「素人集団を面白くするなら長回し」 『有隣堂しか知らない世界』プロデューサーが語る“企業チャンネル戦略”

『有隣堂しか知らない世界』のチャンネル戦略

面白い動画とは“知的好奇心”と“ちょっとした笑い”

――ハヤシさんが思う、面白い動画の定義とは?

ハヤシ:「面白さとは何か?」ということは僕も常日頃から考えています。方程式を見つけられたら、もっとコンテンツ作りが楽になると思うのですが、現状は発見できていないです。ただ、ちょうど昨日読んだ本にすごくいいことが書いてあって……ちなみに僕は、本は全部電子書籍で読んでいるんですけど(笑)。

――(笑)。

ハヤシ:『獲る・守る・稼ぐ 週刊文春「危機突破」リーダー論』(光文社)という週刊文春の元・編集長が書いた本の中で、スコット・ギャロウェイの『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(東洋経済新報社)を引用しているんですけど、「大事なのは、人間の脳みそと心と性器をつかむこと」と言っているんです。“脳みそ”というのは知識欲、“心”は感動したい、泣きたい、怒りたい、喜びたい、あとは笑いたいという欲望。そして“性器”はいわゆるエロですね。これらを刺激すれば、人がクリックする面白いコンテンツになるんですって。ただこれに関しては、いろいろな人がいろいろなことを言っているので、僕もそれが答えかはまだわかりません。少なくとも「有隣堂しか知らない世界」に関しては、知的好奇心とちょっとした笑いを叶えられればいいかなと思っています。

――知的好奇心だけで考えると、リニューアル前に投稿されていたような本の要約がウケそうな気もしますが……。

ハヤシ:前提として本ってみんなあまり読まないんですよ。加えて、情報量でいうと、たぶん本の1ページが動画の10分くらいだと思うんですけど、YouTubeの視聴者はリラックスした状態で“ながら見”している人が多いんです。だから、本の要約をされても「その時間があるなら本を読むわ」となりますし、本を読む層とYouTubeを観る層はおそらく違うんだと思います。以前、作家の中山七里先生がいらっしゃったときも、新刊の紹介は1分半くらいに短くまとめて、あとは「24時間ルーティン」と銘打って、中山先生のアトリエを定点観察する企画にしました。

――私もその動画をきっかけにチャンネルの存在を知りました。中山先生の動画は、現時点で92万再生(2023年4月3日時点)されていますが、チャンネルにとっても1つのターニングポイントだったのではないでしょうか?

ハヤシ:そうですね。当時、チャンネル登録者数10万人を突破することを目的に掲げていたのですが、なかなか壁が高くて伸び悩んでいて、そんなときにあの動画がドーンと伸びたんです。おかげでチャンネル全体の再生数もボトムアップされて、登録者数も一気に伸びました。

――今後コラボしたい相手はいますか?

ハヤシ:いないんですよね(笑)。コラボするということは、向こうのチャンネルにも出なきゃいけないわけですが、僕たちは少数でやっているので、労力を考えるとなかなか難しいです。ただざっくりと、いろいろな社外の人を呼びたいなとは考えています。今でもメーカーさんや出版社さん、作家さんが来てくれるんですけど、そこをもっと増やしていきたくて、その土台を用意できるのが、いわゆる小売店だと思うんです。たとえば、トヨタ自動車のチャンネルで、日産自動車の誰かを呼ぶという企画はなかなか難しいと思います。でも、有隣堂には複数のメーカーさん、複数の出版社さんのものが置いてあって、それぞれとお付き合いがあります。だから極端な話、『週刊文春』と『週刊新潮』と『FRIDAY』の編集長3人を呼んで、ババ抜きをしてもらう企画だってできるかもしれませんし、対決まではいかなくても、複数のメーカーさんや出版社さんを呼んで、我々しか作れないコンテンツができないかなとは思っています。

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