ぼっちぼろまる・ピーナッツくん・星街すいせいの例から考える VTuber楽曲の“垣根を越えたヒット”が意味するもの

 2023年の日本において、歌手やバンドとして活動を始めようとするときに「自分の素顔を公表するか・しないか」は、その後の活動指針・イメージ作りに大きな影響を与える部分である。

 その点から考えれば、「活動しようとしている自分のルックスを、アニメキャラクタールックなものにするか否か?」という判断も同じ水準で考えられる重要なポイントであり、言葉をうまく拾ってくれば「職業選択」「容姿選択」ともいえるだろう。

 さて、「TikTokのバイラルヒットは制作者の顔が見えないこと」が楽曲のヒットに起因すると筆者は書いたが、YouTubeでのパフォーマンスでヒットするうえでは、「姿形を明らかにしたうえで、自身のパフォーマンス・ルックスを見てもらい、聞き手に判断してもらう」ことからは逃れられない。

 「自身のルックス」をいかに知ってもらうか? ぼっちぼろまる・ピーナッツくん・星街すいせいの3人はすでに手を打っている格好だ。

 たとえばぼっちぼろまるやピーナッツくんのような、「NHKの教育番組に出てくるマスコットキャラクターのような」ルックスは、アニメキャラクタールックなVTuberとはまた別の受け取り方を見たものに促すだろう。

 ピーナッツくんは、日本におけるAmazon Music初のお子様&ファミリー向け音楽番組『ひ~!ひ~!ふ~!』に出演しており、新しい学校のリーダーズ、Daoko、東郷清丸とともに、各話に登場するゲスト陣の1人として参加している。そのルックスからも、まさに「NHKの教育番組のマスコット」のように受け取られるだろう。

 ぼっちぼろまるは、1月27日放送の『めざまし8』(フジテレビ系)に生出演し、「おとせサンダー」「パカパカバカリ」をパフォーマンスした。以前からも彼はテレビ番組に取り上げられており、トレードマークの赤黒の顔とともに間違いなく注目を集めるだろう。

 星街すいせいは「THE FIRST TAKE」におけるブレイク後の2023年1月28日に、自身2度目となるソロライブ『Shout in Crisis』を開催しており、8000人を収容できる東京ガーデンシアターは満員札止めを記録した。YouTubeでは冒頭部分の無料配信、ならびにSPWNやZAIKOといった配信サイトでは全編視聴可能なチケットを販売している。

 YouTubeの無料配信には最大視聴者数で約7万人が訪れたが、実際にパフォーマンスを見せたのはわずか10分ほど。とはいえ、これまた十二分なインパクトをもたらしたのは間違いなく、数年ぶりとなった「声出し応援」となったライブの熱量が映像越しでも伝わってきた。

【チラ見せ】Hoshimachi Suisei 2nd solo live "Shout in Crisis"

 にじさんじ・ホロライブをきっかけにしてここ数年でVTuber/バーチャルタレントシーンを知ったファン、逆にVTuberの存在を知らない人にとっても、広大なインターネット上で壁やキャズムを飛び越えて活動している3人のヒットは、どこか遠い話のように見えるかもしれない。

 「キャラクタールックである」という、VTuberをVTuberたらしめる定義・記号性が極めて薄い状態になり、受け手もかなり曖昧な認識で受け取るパターンが増えている。どれだけ派手でトゲのあるバイオグラフィや記号性であっても、「存在や定義すら一切知らない」受け手が常に圧倒的多数であり、いかなる存在も最初は「はじめまして」の挨拶から始まるような状態なのだ。(だからこそ「誰しもが知る存在」が、いかに特異かつ特別な存在かが分かってもらえるだろう)

 そんな時代に重要なのは「誰なのか」よりも「なんなのか」、かもしれない。「ハイクオリティなパフォーマンスや高い音楽性をどのように見せつけるのか?」「しっかりキャッチできるセンスや理解力が受け手側にあるのか?」という点が受け手の判断基準として育っていく。軽率・軽薄に広まっていくだけではなく、立ち止まって「どのような存在か?」を受け取ろうとする態度が整っていく、それは好ましい状況ではないだろうか?

サンリオVfes、星街すいせい「THE FIRST TAKE」出演、mocopi発売――バーチャルは“はじまり”を越えていく

この土日は、バーチャルピューロランドがアツかった。『SANRIO Virtual Festival 2023 in Sanrio…

関連記事