『NieR:Automata』アニメ化に寄せて 絶望的な世界で繰り広げられる、忘れられないゲーム体験
2017年2月にスクウェア・エニックスから発売されたアクションRPG『NieR:Automata』は、全世界累計出荷・ダウンロード販売本数700万本以上を記録する大人気ゲームだ。
そんな同作の発売から5周年となる2022年2月、テレビアニメ化が突如発表された。本作はこれまでも舞台化や音楽劇、コミカライズなどさまざまなコンテンツでの展開をおこなってきたが、ついにアニメとして2Bや9Sが動き回るときがやってきた。
本稿では『NieR:Automata』アニメ化に寄せて、いったい本作の何が多くの人を惹きつけ、長く愛され続けているのかについて説明していきたいと思う。
「命もないのに、殺し合う」
本作の舞台は未来の地球。地球に侵略を開始した異星人の兵器である機械生命体に対抗するため、月に追いやられた人類が作り上げたアンドロイドたちが地球で代理戦争を繰り広げている。都市が自然や砂漠に飲み込まれたような廃墟を舞台に、プレイヤーは人間が作り出した3名のアンドロイド、2B、9S、A2を操作しながらストーリーを進めていく。
ストーリー全体を通して、アンドロイドと機械生命体のやりきれない戦いが描かれる。過酷な戦いのなか、敵である機械生命体、主人公サイドと友好的に接しようとする機械生命体たちとの多くの出会いを通して、2Bたちはアンドロイドとして戦うことの意味や、自身の生きる意味について大きく揺さぶられていく。
命をもたない兵器として人間に造られたアンドロイドと、同じく命をもたない機械生命体が何のために争うのか。また道具として任務をまっとうするだけのアンドロイドが、皮肉にも戦いのなかで自らの人格や存在理由について葛藤する描写は、プレイヤー側もいろいろなことを考えさせられるものとなっている。さらに美しく儚いゲームBGMが相まって、プレイヤーはどんどんゲームの中に没入していくことができるのだ。
シリーズのディレクターや本作のシナリオを担当するヨコオタロウは、「DRAG-ON DRAGOON」シリーズや『NieR Replicant』『NieR Gestalt』でも王道RPGにはない陰鬱で絶望的な物語を展開し、ゲームの中であっても命や戦いの意味に鋭く切り込んだ世界観を構築している。ファンはそんな独特な世界観に親しみを込め、「ヨコオワールド」と呼んでいる。
UIやオプションなどのゲーム設定と、主人公がリンクするデザイン
9月24日にアニプレックスチャンネルで公開された『NieR:Automata Ver1.1a』in Aniplex Online Festにて、ヨコオタロウが「『NieR:Automata』はゲーム用に作った話である。」と発言しているように、本作にはゲームならではの体験が詰まっている。
まず特筆したいのは、ゲームの設定画面だ。多くのゲームでは、画面の明度やカメラ、サウンドなどの設定は基本的にゲームをプレイする我々プレイヤーのためのものであり、ゲームの中の世界とは一線を画す場合が多い。しかし、本作のゲーム設定画面は主人公であるアンドロイド2Bや9Sと限りなくリンクしている。
ゲーム内の主人公の端末とメニュー画面がリンクしている、という例は多くみられるが、本作では"主人公がアンドロイドである"という設定がこのリンクのリアルさを底上げしている。ゲーム内でも、「これは私の画面ではなく、アンドロイドである彼らの視点なんだ。」と思わせる仕掛けが設定以外の場面にも、たくさん散りばめられている。
アクションゲームお馴染みのスキルも、2Bたちのストレージ容量内でスキルチップを組み合わせて構築するという非常に面白い作りをしている。チップにはコスト(容量)が割り当てられており、強力なスキルほどコストは重くなる。決められた容量のなかでどんなスキルを組み合わせるかは、プレイヤー次第というわけだ。
チップの中にはOSチップやミニマップ表示、経験値表示など、通常のゲームでは必須の機能のチップも存在するのだが、なんと本作ではそれらを取り外すことが可能。たとえばミニマップ表示のチップを取り除くと、本当にミニマップが見えなくなるといった具合だ。
ゲームの常識を変え、運命に抗う
ヨコオタロウの作品の定番にもなっているマルチエンディングは、本作にも採用されている。周回といっても同じことを繰り返すわけではなく、ストーリーを別の主人公の視点で進めるため、場面によってはゲーム性やストーリーの内容がまったく違うものに変化することもある。
AからZまであるエンディングの中で真エンディングと呼ばれているEエンドは、まさにゲームの常識を変えるようなルートになっている。ネタバレになるので詳しい説明は控えるが、大枠としてはストーリーを通じて主人公たちとつながったプレイヤーを、ゲームの世界に上手く引き込む……というものだ。こうした演出も、「ヨコオワールド」のもつ特徴だと言えるだろう。