マーダーミステリーを『水ダウ』や『逃走中』のように観て楽しむ――ノーミーツ広屋佑規×放送作家・白武ときおが語り合う『POLARIS』の挑戦

 ノーミーツが手がけるストーリーゲームレーベル「POLARIS(ポラリス)」が、放送作家の白武ときおとタッグを組み、マーダーミステリー×バラエティという新しいエンタメの形を提案する。

 ノーミーツといえば、技術を駆使して新しい楽しみ方を提案する演劇公演が次々と話題になっているが、POLARISでは物語への没入感を重視した「ストーリゲーム」のジャンルに取り組んでおり、過去には『RED LINE』『インサイドブルー』というマーダーミステリー2作品を発表している。

 『マーダーミステリー』とは、参加者が物語の登場人物になりきって殺人事件の犯人を見つける体験型推理ゲーム。今、中国の若者に絶大な人気を誇り、日本でも「脱出ゲーム」や「人狼ゲーム」に続くと言われている注目のゲームジャンルだ。長い物語に沿ってプレイが進行していくため所要時間が長く、また、物語性が強いためネタバレも難しい。

 数々の人気バラエティ番組に関わる放送作家の白武ときおもまた、『マーダーミステリー』の面白さと課題、そして可能性を感じていた。そんな2組がタッグを組んだのが「『マーダーマーダー』〜踊る貴婦人〜」だ。

 お笑い芸人やYouTuberが「本人役」としてマーダーミステリーの世界に迷い込み、奮闘しながら物語の結末へと進んでいく。舞台上での彼らのプレイを客席から観るのではなく、事前収録されたプレイ動画を、舞台上のプレイヤーと客席が同時に鑑賞する公演となっている。

 なぜマーダーミステリーのプレイをそのまま見せるのではなく、プレイヤーとの同時視聴公演というスタイルに辿り着いたのか。その意図や面白さを、ノーミーツ代表の広屋佑規と白武ときおの二人に聞いた。

マーダーミステリーをバラエティ番組として鑑賞する面白さ

――今回の『マーダーマーダー』はどのような経緯で始まった企画なのでしょうか。

白武:僕がマダミスの企画をつくりたいなと悩んでるときに、ノーミーツさんにお声がけさせてもらいました。3年くらい前に初めてマーダーミステリーを体験したときに、人狼やリアル脱出ゲームなどとも違う、新しい面白さがあるゲームだなと感じました。ところが、周りのゲーム好きには意外と広まっていない。おそらく、プレイハードルの高さとジャンル自体の広めづらさがあるからなんですよね。

広屋:マーダーミステリーはプレイするために数時間かかりますし、物語性が強いのでネタバレは難しいですからね。

白武:プレイしてもらえればその面白さをわかってもらえるとは思いつつ、プレイしてもらうまでのハードルがどうしても高い。だから、マーダーミステリーの面白さをわかりやすく伝える番組ができないかと考えていました。

広屋:僕らもストーリーゲームレーベル『POLARIS』としてこれまで2作品発表しましたが、面白さをどう広めるかについて課題を感じていました。それこそ番組化というのもちょうど考えていて。

白武:マーダーミステリーを作られているノーミーツさんと一緒に考えたら、何か面白い形を模索できるんじゃないかと思ってお声がけしたところ、ちょうど同じようなことを考えていたこともあり、ご一緒する形になりました。

――『マーダーマーダー』は公演の形式をとっていますが、舞台上でマーダーミステリーをするわけではなく、事前収録された映像をお客さんとプレイヤーが一緒に鑑賞をするスタイルですよね。なぜそのような企画にされたのでしょうか。

白武:たとえば『相席食堂』や『水曜日のダウンタウン』など、スタジオでVTRを観てコメントする形式のバラエティ番組はいろいろありますよね。だから、マーダーミステリーをそのまま観るよりも、面白い人のガイド・ツッコミがある形式にしたほうが、新しいコンテンツに触れるハードルが下がるし見方がわかる。

 さらにそれを公演にすることで、お笑いライブのように、演者とお客さんが一体になって盛り上がることができる。番組的な面白さとライブの一体感を掛け合わせることで、マーダーミステリーの面白さをわかりやすく伝えられるのではないかと考えました。

――マーダーミステリーに参加するプレイヤーは、物語の登場人物として用意された役柄を演じるのが一般的です。でも今回はYouTuberチーム、お笑い芸人チームの方々は「本人役」としてプレイされていますよね。珍しい形式だと思いました。

広屋:みなさんに「本人役」としてプレイしていただくことは、マーダーミステリーの面白さをわかりやすく伝えるために大事にしてたポイントなんですよ。

白武:みなさん、物語の序盤は状況を掴めていなくても、事件に巻き込まれていくうちに「捕まりたくない」「犯人を追い詰めたい」といった気持ちによる発言や行動が見えてきましたよね。言葉が強くなったり、突飛な行動に出たり。

――たしかに、出演者の方々を知らなくても、バラエティ番組のように楽しめる見せ方と内容になっていたと感じました。みなさんの生っぽい人間性や立ち回り方が面白くて。

白武:『逃走中』とかもそうですけど、制約の中でどう立ち回るかってすごく人間性が出て面白い。

広屋:『マーダーマーダー』も、本人たちは真剣に推理しているだけなんですけど、真剣になりすぎて本音のぶつけ合いになってきて、その様子を観るのがバラエティとして面白い。

白武:プレイするメンバーは事前準備なしで取り組めるんですけど、ゲームマスターの加賀くんだけはそうはいかないので、事前に何度かリハーサルをさせていただいて。

広屋:そうそう、当日のメンバーとは違う人たちでプレイして、その進行を加賀さんにやっていただいて。加賀さんが適任でしたよね。

白武:ゲームマスターをできそうな人は誰かなと考えたときに、加賀くんだなと。ちゃんと情報を整理できて、場を回せて、空気をピリッとさせる演技もできて、ツッコミ気質な人っていうと、中々できる人っていないです。

広屋:今回面白くなっているのは、加賀さんの手腕によるものが大きいですよね。

白武:加賀くんは「次はプレイヤーをやってみたい」って言ってましたけど、次に出てもらうとしても確実にゲームマスターですね。

広屋:(笑)。でも本当に、マーダーミステリーの面白さや物語への没入観って、ゲームマスターにかかっている部分が大きいから、大事なんですよね。加賀さんはリハーサルの段階で既に掴んでくださっていて、、本番の仕上がりもすごかった。本当に上手に回していただいて、役としての設定も忠実に守られていたので、素晴らしかったです。

白武:マーダーミステリーを映像にしたテレビ番組って過去にもあって、面白いんですけど、誰がどういう設定でどんな時系列なのかとか、一生懸命理解しようと努力しながら観ないと楽しめるとこまでいけないことがあります。

広屋:その点、『マーダーマーダー』はマーダーミステリーそのものの理解がなくても、「物語の世界に迷い込んだ人たちが奮闘するバラエティ」として観ることができるので、事前情報なしでも楽しみやすいと思います。

白武:ゲームマスターとして両方出演してくれた加賀くん以外にはプレイに際しての事前情報を何もお伝えしていないですからね。

広屋:そうですね。マーダーミステリーというものに参加してもらうこと以外の情報はお伝えしていない。

白武:年末に放送されている『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!絶対に笑ってはいけない』シリーズがありますが、あの形式に近いと思います。ガキ使メンバーは何も知らされないまま、探偵やスパイといった設定を用意された上で、様々な刺客に対して「笑わない」というルールを守ろうとする。

広屋:『マーダーマーダー』も、事前情報なしで物語の中に入り込んだ芸人さんやYouTuberさんが「犯人を特定する」という目的のために奮闘する形なので、同じような構造ですね。

 マーダーミステリーそのものを知らない人にもいかに楽しんでもらえるか、そこを大事にしたかったので、今回の物語や設定、推理のレベルなどもかなりわかりやすいものにしています。

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