【特集】AIと創作(Vol.1)

作曲AIは音楽家の仕事を奪わず、“地位”を向上させるーーagehasprings・玉井健二とPARTY・梶原洋平が語り合う「AIと創作」

「ピアノの誕生でオーケストラの仕事は減らず、リズムマシンでドラマーは忙しくなった」

ーー『FIMMIGRM』の開発にあたって、どんなことが課題になったのでしょうか?

梶原:玉井さんのノウハウをAI化するにあたって、一番重要なのはそのノウハウを数値化することです。また、AIに学習させる際にどういった学習データを選ぶかということも課題のひとつでした。音楽の良し悪しは数学的に説明することが難しく、仮にその説明が感覚的になってしまうと数値化が困難になるからです。でも、玉井さんは歌詞や曲の内容を説明する時の理論立てが非常に明確に構築化されているのはよく知っていたので、AIモデルを数値理論化しやすい状況だったのは大きかったです。

ーー開発が完了するまでにはどのくらいの時間がかかったのでしょうか?

梶原:AI自体が学習を始めてからはすぐに育った印象があります。とはいえ、途中で学習データとなる楽曲を絞り込む必要があることがわかり、開発を始めてからそれなりの形になるまでには、大体1年くらいかかりました。

玉井:セレクトは僕がやりましたが、すごく時間がかかったし……そういうことから逃れるために始めた作曲AIの開発なので、そこは非常につらかったです(笑)。ただ、膨大な数の曲をその場のバイブスと空気で選曲していったこともあって、自分の中で曲を体系立てて整理していく時間にもなりました。

ーー曲を体系立てて整理していく時間になったとのことですが、その時にどんな気づきがありましたか?

玉井:1番は「文化の違いとはなんぞや」ということですね。たとえば、英語圏と非英語圏の音楽の違いはリズムにあります。その時にリズムが改めて大事だということに気づきました。

 よく、いまの若者が映画やドラマを倍速で見るという話を聞きますが、僕らの世代ではかつてそれはありえないことでした。でも、カルチャーの根源にはリズムがあって、それがずっと人間の歴史が続く限り進化していく。だから、その先を予測することはもうやめた方がいい、と思うようになりました。実際に最新であることを考え始めた瞬間、それは最新ではなくなるんです。

 そう考えると、音楽を作るにしても、いつかそれが一周することを信じてその時々の最高を目指す方がいい。無理にそういうものについていったり、その先を目指すよりも本質的に良いと思えるものを作れる方がずっと大切なんです。あとは自分がそれを信念を持って実現できる人間であれば、それでいいという確認が出来ましたね。

ーー『FIMMIGRM』では一度購入したトラックを他の人が購入できなくなり、独占使用できるという特長がありますが、今後、その曲と似た曲が生成される可能性はないのでしょうか?

梶原:基本的に『FIMMIGRM』が作る曲は、特別な技術によって同じ曲は二度と生成されないようにプログラミングされています。とはいえ、AIが音とリズムを組みわせて曲を生成する仕組みなので、その組み合わせによってはもしかしたら何億分の1の確率で似た曲ができてしまう可能性もあります。そういうことも想定して、リスクをいかに減らすかということを念頭に置きながら開発しています。

PARTY・梶原洋平

ーー以前、ビートルズの楽曲をAIが機械学習し、ビートルズ風の曲を作った際には「AIが作曲家にとって変わる」という懸念がありましたが、今後、作曲AIが普及していくことで、AIとクリエイターの関係性はどのように変わっていくと思いますか?

玉井:作曲AIの話になると、よくみんなそのことを言いますが、そういう“人間に取って代わると言われるもの”は昔からあったと思います。たとえば、ピアノなんかはまさにそれです。でも、ピアノができたからといって、オーケストラの仕事が減ったわけではないし、リズムマシンができた時もドラマーの仕事はなくならず、なんならドラマーが引っ張りだこになっているぐらいですから。作曲AIによって、なんらかの変化はおきますが、その分だけ競技人口の増加も起きると考えています。その視点で考えると、僕は逆に音楽を作る人の価値がむしろ上がっていくと思いますね。

 たとえば、世の中に自分のオリジナル曲を持っている人はほとんどいません。一方で自分が撮影した写真や動画は持っている。それはプロの技術が無くても簡単に撮影できるツールがあるからこその話であって、もし同じようにオリジナル曲が簡単に作れる作曲AIがあれば、写真や動画のようにオリジナル曲を持っていることが当たり前になっていくと思います。

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