SKY-HIと株式会社stuの『BE:FIRST』MV制作における挑戦 『SIW SHIBUYA 2022』セッションレポート(後編)
日本最大級のソーシャルデザインをテーマとした都市フェス「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2022」(以下、SIW)。同イベントではクリエイティブカンパニー「stu」と渋谷未来デザインによる「SPECIAL SESSION」が開催された。
日本のエンタメコンテンツ制作やクリエイターの底上げに必要なことについて、各方面の有識者らによる議論がなされ、後半では「日本のエンタメに求められる抜本的アップデート」と題したテーマでトークセッションが行われた。
登壇者:
SKY-HI 氏(株式会社 BMSG 代表取締役 CEO)
田中 眞一氏(脚本家 映像監督)
黒田 貴泰氏(株式会社 stu CEO)
ローレン・ローズ・コーカー(株式会社 stu COO)
モデレーター:
長田 新子氏(一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局長)
内需が強い日本のエンタメ産業の悪循環とは
まず、黒田氏はグローバルのなかでもアジアにおけるエンターテインメントの潮流について、「ゲームを除くもので挙げるならば、88rising、K-POP、韓国ドラマ、タイドラマ、日本アニメ」だと紹介。これに対し、SKY-HI氏は「自分も同じような感覚を抱いている」と同調する。
「一過性のブームで終わるとされた88risingが、どんどん存在感を増していき、今ではカルチャーとして強く育っている。一方、日本のアニメに関しては海外からも注目度が高いものの、アニメの実写版にはそこまで関心を示さないケースも実体験としてありまして。『アニメかそうじゃないか』で、海外は結構判断が分かれてくるのではと思っています」
長田氏は、「レッドブル時代にもアニメとか漫画とかのコラボはよくあった。あとはいろんなプラットフォームを見ていても、日本人が海外に触れるチャネルもすごい増えてきていると感じている」とコメント。
黒田氏はそのような状況を「もしかしたら海外に侵食されているような側面も否めない」と揶揄し、自身の仮説を示した。
「2006年以降、日本の貿易収支は次第に赤字となっていき、2022年度は国内の歴史上最大の貿易収支赤字となってしまっています。こうなってくると、コンテンツは黙っていても出ていかないので、自分たちで外に出て、戦っていかなければならない時代が来ていると考えています。ただ、今までの40年間は正直、何もしないでも日本のコンテンツは独り歩きしていったわけで、まずはそもそもファイティングポーズをとることからスタートしていかなければなりません」
よく日本は内需が強く、グローバルに出ていかずとも自国で回していけるという話があるが、「だからこそ、首を締められてきたのがエンターテインメント産業だった」とSKY-HI氏は言う。
「これって『鶏が先か、卵が先か』の話だと思っています。例えば、K-POPを好きになったアメリカ人が好きなアイドルがCMに出演する韓国製の電化製品を買ったりするわけですが、ひいては韓国という国自体を好きになり、推してしまうような力がエンターテインメントにはある。これこそ、エンターテインメントにおける『好きの力が増幅したときの強さ』だと思っています。
なので、国内の需要だけに目を向けていると、パイが縮小していくだけなので、エンターテインメントを作る側にお金が回らなくなってしまい、規模も縮小せざるを得ない状況に陥り、さらには好きなアーティストも少なくなるといった悪循環を生む。今の日本のエンターテインメント産業も、この悪循環に少なからず入ってしまっていると感じています」
こうした悪い流れの循環を断ち切らなければ、「エンターテインメント産業そのものの仕事につきたいと思う若者が減ってしまう」とSKY-HI氏は危惧する。
「売り上げがないから予算が出ない。予算がないから良いものが作れない。良いものが作れないからファンが増えない……。このような状況だとアーティストを目指す人も減ってしまい、エンターテインメントやクリエイティブに関わりたいと思う人自体も少なくなってしまうのではないかと。既存の内需にこだわる状況は私自身、非常に危機感を抱いているんです」