日本独自のエンタメを活かすために必要なクリエイター支援の理想像 『SIW SHIBUYA 2022』セッションレポート(前編)

社会のレールに乗れなければ「ドロップアウト」という日本独特の風潮

 こうしたなか、Web2.0で台頭したソーシャルメディアがクリエイターの発信力を高めるのに大きく貢献しており、業界や立場の垣根を超えてクリエイターと企業が直接結びつき、仕事につながるという構図は間違いなく生まれているといえよう。

 エンタメを創るクリエイターの社会的地位が高いアメリカと、そうではない日本の両方を知るローレン氏は「アメリカにはハリウッドがあるのが大きい」と話す。

「個人的には、アメリカから来日したときに日本の就職活動にびっくりしてしまいました。22歳で仕事を見つけないと『社会からドロップアウト』してしまう風潮というか社会的システムに疑問を感じてしまって。アーティストでもクリエイターでも、クリエイティブに専念する人たちへの社会からのプレッシャーは結構あるなと。先ほどの里村さんが示した調査の他国と比べ、日本は環境が全然違うなとあらためて思いました」

 2000年代の情報化社会に突入すると、高度経済成長で培ってきた日本独自の社会的システムが次第に通用しなくなり、GAFAに見るような世界的なテック企業から引けを取ってしまうようになる。そして、2022年が次世代インターネット「Web3.0」元年と言われるなか、NFTやメタバースといった技術が注目を集め、新しいクリエイティブやカルチャーの創出が予想される。

 里村氏は「漫画やアニメ、サブカルなど日本ならではのクリエイティブがたくさん存在しているが、現状ではうまくサポートしきれていない。すごくもったいないなと思う反面、海外は国がサポートしている事実もあるので、もっと日本も国レベルでのサポートが必要なのでは」と提言した。

 長田氏は「経産省の方とお会いする際、日本経済の『失われた20年』を引き合いに出し、どうクリエイターを支援していくべきかとよく話すが、遅れたぶんを取り戻すのではなく、とにかくアクションすること、社会的システムや通念を変えることが優先だと思っている。これをどうスピードを上げて取り組んでいけるかが課題」だと行政の立場からコメントした。

エキゾチックな魅力を持つ“海外発の渋谷カルチャー”が台頭している

「クリエイティビティの低下はすなわち、国際競争力を失うだけでなく、その国の文化を失うことになる」

 そう語る黒田氏は、移住先のシンガポールで日本のエンタメやクリエイティブに触れる機会の少なさから、危機感を募らせていることに言及した。他方、柿本氏は「外国人との打ち合わせで面白い気づきがあった」と語る。

「日本のアニメーションにインスパイアされたNFTプロジェクトが、なぜ海外で流行っているのかと外国人に聞いたところ、『アニメのストーリー自体はよく理解していないが、わからないなりに自分たちで解釈し、昇華させていくことが楽しい』という答えだったんですよ」

 柿本氏に呼応するように、長田氏も海外から見た渋谷カルチャーの発展についてこう話す。

「実は今、“海外発の渋谷カルチャー”が結構出てきているんです。外国人から見た渋谷とか東京のイメージは、カオスではなくエキゾチックな雰囲気を表現しているように感じます。NFTでもこのような海外発の渋谷カルチャーが反映されたものが多く、見ていて面白いなと思っています」

 黒田氏は「日本は唯一性の高いコンテンツが多く、きちんと情報として対外的に発信していけば、受け入れられるポテンシャルがある」とし、わからないけど面白いという感覚を得られるのは、日本のコンテンツの持つユニーク性の高さに由来するものだと説明。

 一方で、日本のアニメーションはこれまで競争環境に晒されてこなかったという側面もある。

「諸外国に日本のコンテンツとしてアニメが浸透していくことは非常に良いことですが、個人的にはもっと競争力をつける必要があると考えています」(黒田氏)

 日本ではスタートアップが隆盛し、エコシステムも形成されつつあるなか、クリエイターに関してはまだまだ不十分だと言えるかもしれない。

「業界発展に際しては、新しいクリエイティブやわかりにくいクリエイティブを受け入れる寛容さが大事だと思っています。何かチャレンジすることに対し、頭ごなしに否定すればクリエイターの活躍の芽をつんでしまうことになります」(里村氏)

 ローレン氏は「日本のIPをどうマネタイズするかより、インバウンド消費に利用するひとつのコンテンツという見方がなされている」と持論を展開する。

「クールジャパンや内閣知的財産戦略など、いろんな取り組みをしていますが、訪日外国人向けに日本のIPをどうプロモーションするか、といったベクトルになっていると感じています。そうすると、海外の人が期待するものから逆算して、日本のIPを使った商品を提供しようとするあまり、どうしてもクリエイティビティが欠けてしまう。もっと世界に向けて、日本のIPをクリエイティブの力で発信していくことが重要なのではと思っています」

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