『Photoshop 2023』のアップデートでさらに進化した「オブジェクト選択ツール」の快適さと楽しさ 選択ツールの歴史と未来に触れる

 『Photoshop』には多様なツールがあり、ツールボックスから選んでかんたんに使うことができる。さて、この中で一番使っているツールとは? ユーザの使い方によって大きく変わるところはあるものの、誰もが数え切れないほど使っているものの一つは「選択ツール」だろう。

 画像編集とは、画像の特定の場所を変更する作業であり、選択ツールは画像編集ソフトには必須のツールだ。『Photoshop』には長方形・正方形、楕円・円形、フリーフォーム(なげなわ)、多角形選択ツールなど、さまざまな形状の選択ツールが揃う。これによって「この写真に映る建物だけをもう少し明るく」「顔のニキビを消したい」「部分的にモノクロにしたい」など、用途に応じた選択ツールを選び、作業をすすめることができる。また、画像内のエッジをPhotoshopが判断して、クリックした部分と似た色の部分を選択できる「クイック選択ツール」も長らく使われてきた。

 ユーザはこれらの選択ツールを組み合わせながら画像編集を行っていたわけだが、『Photoshop 2020』で実装された「オブジェクト選択ツール」は、これら既存の選択ツールとは一線を画す性能でユーザを驚かせた。これは画像の中で切り抜きたい被写体をざっくりとドラッグして選ぶだけで、AdobeのAIテクノロジー「Adobe Sensei」が自動で被写体を認識し、被写体だけをくり抜いた選択範囲を作ってくれる機能だ。現在ではドラッグする必要すらなく、ポインタを被写体の上に持っていくだけで自動的にオブジェクトをハイライト、ワンクリックで選択できるようになっている。

 このツールを使えば、いままでなげなわツールを使って細かく指定したり、ペジェ曲線で囲んだりしていた作業が一瞬で終わる。個人的には長らく「自動選択ツールは融通がきかない」というイメージを持っていてこうした機能のアップデートには懐疑的だったのだが、動画を見て、そして自分で使ってみて大きな衝撃を受けた記憶がある。選択範囲に欠けている部分がある場合には、Shiftキーを押しながらドラッグすれば、足りない選択範囲を再度AIが判断して提案してくれるのにも驚いた。

 その後もこのツールは進化を続けており、今回の『Adobe MAX 2022』でも革新的なアップデートが披露された。自動選択の制度が高まり、認識できるオブジェクトの種類が増えたという。具体的には人、車、ペット、空、水、建物、山などに対応する。ワンクリックでエッジを保ったままきれいに選択範囲を作ってくれるため、作業効率が大幅にアップするだろう。

 また、これと組み合わせて使いたいアップデートが「コンテンツに応じた塗りつぶし」のショートカット機能だ。「コンテンツに応じた塗りつぶし」は写真に写っているゴミや除去したいオブジェクトを選択して適応することで、周囲の情報などを加味しながらコンテンツに応じた色でそのオブジェクトを塗りつぶす機能だ。従来、コピースタンプなどで行っていた写真の修正をAIによって補完するアプローチの機能であり、前述の「オブジェクト選択ツール」と非常に相性が良い。

 いずれの機能も実際に使ってみた印象だが、複雑な背景の写真には手こずることもあるものの、自然の風景や小さな人物の認識力が高く、たとえば「森林の中に立つ人物」「数台の車の並ぶ道路」などの写真から人物や車を削除する際には「オブジェクト選択ツール」「コンテンツに応じた塗りつぶし」、いずれの機能も高い精度で写真を認識して補完してくれた。

 『Photoshop』は事実上の業界標準とも言える巨大なソフトであり、ユーザーは「写真や画像のプロ」にとどまらない。そしてさまざまな場面に「ちょっとだけ写真を編集したい」「ここに写っている小さなオブジェクトだけ消したい」というようなニーズは存在するだろう。これまでこれらの機能を使ったことがない、あるいは『Creative Cloud』は契約しているけれど最新の『Photoshop』をまだ体験していないというユーザは、ぜひ一度どんな写真でも良いので開いてこの機能を試してみることをおすすめする。役立つシーンが思い当たるかもしれないし、今後の参考にもなるかもしれない。しかしなによりおすすめしたいのは、この機能が驚きをもたらす、楽しい、未来を感じさせる機能だからである。筆者が感じたこの衝撃を是非体験してほしいと思う。

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