アントニオ猪木さんの“最期の動画”から考える、アーカイブとしてのYouTubeの役割
10月1週目は、アントニオ猪木さんの動画2本がYouTubeの急上昇にランクイン。この2本の動画は、今月1日に亡くなった猪木さんが視聴者に向けて残した最期の動画として注目を集めており、多くのメディアで取り上げられている。今回は、YouTubeのもつアーカイブとしての役割を、猪木さんの2本の動画から考えてみたい。
「元気ですかー!!」「元気があれば何でもできる!」でお馴染みの元人気プロレスラーで元国会議員のアントニオ猪木さんが亡くなったのは、10月1日のこと。急上昇入りした動画はいずれも9月21日に撮影されたもので、亡くなるわずか10日前の猪木さんの姿が収められている。
猪木さんは2020年2月にYouTubeチャンネル『アントニオ猪木「最後の闘魂」』を開設。同年7月に難病・全身性アミロイドーシスで闘病していることを公表すると、YouTubeでは闘病やリハビリの様子も公開するようになった。猪木さんが亡くなった10月1日に投稿された『アントニオ猪木「最期の言葉」』には、かつてのその大きい体から発せられる“強い”イメージとは打って変わり、闘病生活でかなり細っそりした猪木さんの姿が。その姿に驚いた視聴者も多かったのではないだろうか。
YouTubeで前回の動画が投稿されたのは、今年の6月27日のこと。アントニオ猪木VSモハメド・アリの歴史的な一戦から46年経った、その翌日だった。約3か月の空白期間の後に撮影されたこの動画では、最後の手術後に10キロも体重が落ちてしまったことが明かしており、猪木さんは自力では起き上がれないうえ、発する言葉は聞き取るのが難しいほど衰弱。しかし猪木さんは、「みんなに見てもらって、弱い俺を」と、ありのままの自分を見てもらいたいという気持ちから、動画を撮るためにYouTubeのスタッフを自宅に呼び寄せたという。
動画の中で猪木さんは、ベッドで横になっている時には口を動かし、舌が回るようにトレーニングしているというエピソードを披露。今やりたいことについては「世界に向けて猪木しかできないこと」として、「世界のゴミを消していくこと」を挙げており、今なお環境問題への関心があることを示している。さらには以前訪れたパラオの思い出話をしながら、「パラオに行きたいね」とも話しており、まだまだやりたいことがたくさんあったことがうかがえる。
6日に公開された『アントニオ猪木からのサプライズ』では、水分補給をしようともストローを吸う力さえ残っていないなか、砕いた「ガリガリ君ソーダ味」を食す場面も。「ガリガリの猪木がガリガリ君を食べた」というダジャレを飛ばし、撮影時にはまだまだ周囲の人々を笑わせる力が残っていることを見せつけていた。実はダジャレも発するという猪木さんの意外な一面が見えたこの動画だが、撮影した10日後に亡くなるとは、きっと撮影スタッフの面々もその時には思いもしなかったに違いない。
テレビもYouTubeも貴重な映像を後世に残すという役割を持っているプラットフォームだ。しかしながら、YouTubeはテレビ番組とは異なり、どんな内容でも本人(チャンネル運営者)が自由に投稿できることから、出しどころのない映像を全世界に向けて発信できるほか、本人の声をいつでも振り返えるアーカイブとして残せ、見たい時に見られるという強みがある。
残念ながら、猪木さんの最後の生前の姿となってしまった今回の2本の動画。この2本を含め、YouTubeで投稿された動画の数々は、今後も偉大な人物の貴重な人生の場面を切り取ったコンテンツとして、会いたい“あの人”といつでも会えるアーカイブメディアとして、多くの人々に視聴され続けるだろう。
出典:
アントニオ猪木「最期の言葉」
https://www.youtube.com/watch?v=19eTrS1eWhQ
アントニオ猪木からのサプライズ
https://www.youtube.com/watch?v=VbHjzqLb9VM