【ネタバレあり】『エルデンリング』と『ゲーム・オブ・スローンズ』に通ずる、ジョージ・R・R・マーティンの強烈な“作家性”を考える

マーティンが手掛けた「神話」とは何か?

 様々なインタビューにおいて、マーティンは今回の共同作業において、『ELDEN RING』における全体の世界観、そして最も古い物語にあたる「神話」を構築したと語られている。つまり、我々がゲームプレイを通して体験する物語自体は、その神話が生まれた後のものであり、フロム・ソフトウェアがマーティンの創り上げた世界を引き継ぎ、独自に新たな物語や設定を加えていきながら形となっていったものとなる。

 では、一体どこまでがマーティンが手掛けた物語で、どこからがフロム・ソフトウェアが手掛けたものになるのだろうか? 現時点ではその情報が完全に明確になっているわけではないが、Game Informerのインタビューにおいて、宮崎氏はその境目が物語において“エルデンリング”が砕け散るタイミングであることを示唆している(※3)。本稿ではこれを基準とした上で、『ELDEN RING』の物語について考えていきたい。だが、その前に、まずは本作の物語そのものを整理していく必要があるだろう(とはいえ、原案自体はフロム・ソフトウェアによるものであり、神話についてもマーティンがすべてを構築したわけではない。たとえば、物語における重要な存在となる“黄金樹”については宮崎氏による発案であることがインタビューで語られている/※4)。

 一点、ここからまとめていく物語は、あくまでゲーム内で分かる断片的な情報や国内外の様々な考察などを元に筆者自身がなんとか組み立てたものであり、一部憶測や解釈に誤りのある可能性を含むため注意してほしい(特に黄金律の解釈を巡って)。また、キャラクターの名称については時系列によって呼称が異なる場合があるが、分かりやすさを重視するため、ボスキャラクターとして登場する人物についてはその名称にて記載する。

(1)竜の時代と“大いなる意思”による“エルデンリング”の登場

 『ELDEN RING』の舞台となる“狭間の地”は、元々は最初の王である“竜王プラキドサクス”によって統べられていたとされている。かつてこの地は人間ではなく、竜によって支配されていたのである。だが、ある時、この宇宙をも司るとされる“大いなる意思”によって、とある獣を乗せた流星が狭間の地へと送られる。この“エルデの獣”は、やがて“エルデンリング”へと姿を変えた。

(2)エルデンリングによって導入された“黄金律”の台頭

 本作のタイトルにもある「エルデンリング」。その名前からは『指輪物語』に登場する“一つの指輪”のようなものを連想するが、実際のエルデンリングは作品のアートワークにも掲載されている通り、ルーン文字を重ね合わせたシンボルのようなものに近い。そして、その大きな特徴の一つとして挙げられるのが、「その地における生と死の在り方を規定する」ことだ。それは、宮崎氏自身も本作を作る上でのインスピレーション源の一つとして挙げている『ルーン・クエスト』(※4)の背景世界となる“グローランサ”におけるルーンの在り方に近い。

『ELDEN RING』パッケージ写真

 エルデンリングが登場する以前、狭間の地の人々は霊界を通した生まれ変わり、いわゆる輪廻転生のような生命のサイクルの元に生きていたということが示唆されている(道中で訪れる“永遠の都”は、まさにその考えを持った人々によって築き上げられた都市であるようだ)。だが、エルデンリングによって、それは“黄金律”という新たな規範へと取って代わられることになる。この規範において重要な鍵を握るのが、同じくエルデの獣が根源となって生まれたとされている“黄金樹”だ。

 黄金律の元では、生命が終わりを迎える時、生者は死者となる。だが、やがてその肉体の持つ生命力と魂は黄金樹によって吸収され、“恵みの雫”(新たなる生命のエネルギー)となって再び狭間の地へと降り注ぎ、人々に“祝福”を与えるという。死を吸収し、生を生み出す黄金樹を軸とした生命の循環。それは存在を実感しづらい「霊界」ではなく、たしかに実体を感じられる「樹」を媒体とした、新たな輪廻転生のサイクルと捉えることができるだろう。

 もちろん、突然の黄金律の登場によって狭間の地に混乱が訪れたのは言うまでもない。だが、エルデンリングは“狭間の地”から遠く離れた場所に住んでいたマリカを選ばれし者として見出し、この地を統べるための女王とした。やがて女王マリカは王都軍を引き連れ、狭間の地の様々な勢力を討ち取り、その力を確かなものとしていく。“大いなる意思”自身もまた、反逆を企てた都市に異形の種族を送り込み、滅亡へと追いやるなど、この戦いに加勢している。その結果、黄金律は狭間の地における支配を確固たるものとしたのだ。

(3)女王マリカによる、“運命の死”からの逃避。生と死のサイクルの再定義。

 こうして黄金律の元に権力を高めていった女王マリカだが、実は黄金律の規定する生と死のサイクルは、彼女にとって自らの理想を完全に満たすものではなかった。黄金樹を介して生まれ変わることができたとしても、その過程には確実に肉体と精神、あるいは自己を失う瞬間、すなわち“運命の死”が存在するからである。これを回避するため、女王マリカはエルデンリングから“運命の死”の部分を担う“死のルーン”を取り出し、影従である“黒き剣のマリケス”にその管理を託した。この出来事によって黄金律は、たとえ何度死を迎えたとしても、“黄金樹”の力によって本来の姿のまま生き返ることができるという、ある種の「永遠の生命」を規定するものへと更新されたのであった。

(4)“陰謀の夜”が招いた災厄

 マリカは“最初の神、ゴッドフレイ(蛮地の王ホーラ・ルー)”と婚姻を結び、やがて“黄金のゴッドウィン”、“忌み王、モーゴット”、“血の君主、モーグ”という3人の子を授かる。だが、モーゴットとモーグは生まれながらに呪われた忌み子であり、王都の地下へと幽閉され、ゴッドウィンただ一人が次なる王子として育てられた。両親の大いなる加護を受けて育ったゴッドウィンは、その美貌に加え、数多もの戦いで戦果を残したことで狭間の地における英雄として、その名を知られるようになっていく。

 だが、そんな王族一家をある悲劇が襲う。守られていたはずの“死のルーン”が何者かに盗まれ、そのルーンを宿した刃によって、ゴッドウィンが暗殺されたのだ。彼が“運命の死”を迎えたことによって、マリカは正気を失った。更に追い打ちをかけるように、エルデンリング自体もまた、何者かによって砕かれてしまったのだった。

(5)“破砕戦争”の幕開け。そして現在

 マリカが正気を失い、エルデンリングが砕かれたことによって、狭間の地は王座と秩序を同時に失った。だが、完全に王座が失われたわけではない。マリカの子孫たち(半神、あるいは“デミゴッド”と呼ばれる)たちが、砕かれた“エルデンリング”の欠片である“大ルーン”によって圧倒的な力を手に入れたのだ。やがて、デミゴット同士による新たな王の座を巡る、“狭間の地”全土を巻き込む戦い、“破砕戦争”が幕を開けた。

 この戦争は、デミゴッドの最強格であった“星砕きのラダーン”と“ミケラの刃、マレニア”の相打ちによって膠着状態となったまま、今も終わることなく続いている。この現状を前に“大いなる意志”は、かつて破壊されたエルデンリング、即ち黄金律を修復するため、かつて黄金律の祝福を奪われ、狭間の地から追放された“褪せ人”たちを新たな選ばれし者として見出し、狭間の地へと送りこむのであった。

 物語の概要については以上となる(とはいえ、この数十倍以上に及ぶ膨大なエピソードを省略しているため、全貌については実際にプレイするか、あるいは様々な考察を見ていただきたい)。

 改めてざっくりと要約すると、「ある世界において、外部からの侵略によって新たな生と死の在り方(あるいは信仰)と権威が生まれるという出来事が起きた。その元にこの地の新たな女王となったマリカは、国を統べる力を手にする一方で、永遠の命を求めてその在り方を書き換えることを試みる。だが、ある日、マリカの息子が何者かによって暗殺されたことをきっかけにマリカは王座を退き、やがて子孫たちによる内紛へと突入する」といったところだろうか。

 ここまで要約すると、『ELDEN RING』の物語の全体像自体は、架空の王国を舞台とした、様々な死生観、陰謀、そして名家同士の戦争といった要素に満ちた王道のダークファンタジーであることが分かる。それはさながら、マーティンの最も有名な作品であり、世界的な大ヒットドラマとなった『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作、『氷と炎の歌』を彷彿とさせるものだ。

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