『ディスクロニア: CA』星街すいせい×郡陽介対談 VRゲームとVTuber、“バーチャルなエンタメ”を繋げる音楽

 『東京クロノス』を筆頭にしたクロノスユニバース作品で国産VRゲームをけん引するMyDearestの新作VRアドベンチャーゲーム『DYSCHRONIA: Chronos Alternate(ディスクロニア:クロノスオルタネイト)』が、9月23日に発売された。

 この作品は『東京クロノス』『ALTDEUS: Beyond Chronos』に続くクロノスユニバースの3作目。監督は末岡青が務め、音楽はシリーズの過去作品に引き続き郡陽介が担当。犯罪発生率が0.001%となった遥か未来の海上都市を舞台に、左手で触れた物の“持ち主の記憶” にダイブする特殊能力を持った監察官ハル・サイオンとしてある大きな事件に立ち向かう様子を、3部作を通して楽しむことができる。開発にはイザナギゲームズも参加し、シリーズで初めてVR環境だけでなく、Nintendo Switchでもプレイできることも話題となった。

 そのシリーズテーマソング「7days」を歌うのが、VTuber界屈指の歌姫として知られるホロライブ0期生の星街すいせい。作品の魅力を凝縮した楽曲の制作過程を、楽曲の作詞作曲を担当した音楽プロデューサーの郡陽介と星街すいせいの2人に聞いた。

「いつかゲームの主題歌を歌いたいと思っていた」(星街)

『DYSCHRONIA: Chronos Alternate』

――星街さんにオファーしたことにも繋がる話だと思うので、まず郡さんにうかがいたいのですが、『ディスクロニア: CA』の音楽的なコンセプトはどんなものだったんでしょう?

郡:作品全体について末岡(青)監督から言われたのは、「スタイリッシュなものにしてほしい」ということでした。それに、今回は人と人とのドラマが多い作品なので、あまり壮大な感じにはしないということも意識していました。早い段階でシナリオのプロットを読ませていただいたり、監督とも一対一で話して「伝えたいのは人の感情の部分だ」ということが分かっていたので、広い音ではない、人が紡ぐ物語ということが伝わるバンドサウンドくらいのサイズ感を目指していたんです。一方で、ときおり感情を爆発させたいときには、プレイヤーのみなさんにも感情を共有できるように、意図的に壮大な音にしました。また、各キャラクターの感情が交差するドラマを演出するためにサウンド的にもいろんな楽器が裏で対旋律を奏でるような曲をつくっています。その繊細さがちゃんと聴こえるようなミックスをしてもらえるエンジニアの方にオファーしています。

――では、星街さんやYuNiさんといったシンガーの方々に声をかけた理由と言いますと?

郡:『ディスクロニア:CA』はクロノスユニバースの3作目で、過去の作品とも一部で繋がっています。ですが今回は新しい監督が担当されますし、これまでとは違う新しい作品になっているので、音楽面でもまた違った魅力を表現したいと思っていました。

――過去の2作品では、ASCAさんや藍井エイルさんが主題歌を担当されていましたね。

郡:いわば150kmストレートの速球を得意とするような、力強い歌声を持っている方々に担当いただいていて。ですが、今回はまた別の方にお願いしようということで、シンガーの方を探しはじめました。たしか……去年の前半ぐらいだったと思うんですけど、前作『アルトデウス: BC』の諸々が終わって、『ディスクロニア: CA』の準備をはじめたときに、ストリーミングサービスなどを使って、オリジナル曲からカバー曲までとにかくいろんな歌を聴いていって。そこですいせいさんの「GHOST」を聴いて、めちゃくちゃいいなと思ったんです。もう「これやん!!」と。

『GHOST』

星街:嬉しいです!目に留めてもらえてよかったです!(笑)

郡:それに、その少し前に『ディスクロニア: CA』のビジュアル面を担当されているLAMさんから、すいせいさんの動画が送られてきていたことも思い出しました。Superflyさんの「覚醒」のカバーで、「めっちゃよくないですか? いつかお仕事したいですよね」と。それで、僕もすいせいさんの音源を片っ端から聴いた結果、「この人に頼みたい」と総合プロデューサーやPRチームに直談判しました。依頼する前から、ダメになってもいいやとすいせいさんを想定した楽曲もつくっていて。それが実は、今回のテーマソング「7days」なんです。

星街:まさかそんなに猛プッシュしていただいていたとは知らず、「ゲームの案件が来てますよ」と聞いて「嬉しいな! やりたいな!」という感じでお返事しました(笑)。私、探索系のゲームが好きなんですけど、『ディスクロニア: CA』は推理をしたりする作品ということで、「自分でもやってみたいな」と思いながら資料を見ていました。

――郡さんは星街さんの歌声にどんな魅力を感じたんでしょう?

郡:「GHOST」を聴いたときに、まずは引き出しの多い方だなぁと思いました。ひとつひとつの言葉にいろいろなニュアンスを持たせることができる方だな、と。他の曲を聴いても、可愛い雰囲気の歌もあれば、大人っぽいものも、かっこいい女の子的なものもあったりして、ジャンルの幅広さを感じました。でも、それがすいせいさんというシンガーからブレていなくて、「全部がすいせいさんのストライクゾーンに入っている」という魅力を感じます。

星街:やったぁ。おっしゃっていただいたように、自分でもひとつひとつの歌詞のニュアンスは大切にしているかもしれないです。よく歌で1番の歌詞を大サビにまた持ってくることがありますけど、そういうときも、ラスサビの方が盛り上がる歌い方にすることは考えていて。実際に聴いてもほとんどの人はそんなに違いが分からないかもしれないんですけど、「歌詞に沿った表情を盛り込んでみよう」と思ってリテイクを重ねたりしています。

――星街さんは『東京クロノス』やクロノスユニバースの存在は知っていましたか?

星街:名前は以前から聞いたことがありました。いろんな人から「面白いよ」と教えてもらったもののひとつだったと思うんですけど、「こんなゲームがあるんだ」と思っていました。それで今回「『東京クロノス』シリーズの話が来ましたよ」と言われて、「聞いたことあるぞ!!」と。ゲームが好きで、いつかゲームの主題歌を歌いたいと思っていたので、声をかけていただいてめちゃくちゃ嬉しかったです。

――では、みなさんが「7days」をつくったときの話を詳しく聞かせてください。

郡:僕は主題歌をつくるときは監督にいろいろと話を聞いて、「こういうテーマの作品なんだな」「主題歌ではまだここは隠したいんだな」ということを把握してからつくりはじめるんですけど、今回もそうしたうえで、メロディは「ここは力強く歌ってくれるだろう」「ここはファルセットでエモい感じで歌ってくれるだろう」と、すいせいさんの歌声を想定していきました。ボーカルをお願いするときはいつも、歌う方がどういうものだと歌いやすいか気を付けながら、同時に今まで歌っている曲とはちょっと違う、でもその人にきっと似合いそうな曲をつくりたいと思っていて。今回も、そういうものを意識してつくっていった気がします。

 曲調については、『ディスクロニア: CA』は探索/捜査する要素があって、いろいろな問題や感情が畳みかけるように出てくる作品なので、対旋律(カウンター・メロディ)を増やして、ピアノが裏でメロディを弾いているかと思ったら弦にいったり、バイオリンからビオラに変わったり、サックスが出てきたと思ったらトランペットにいったりと、ドタバタ感を意識しました。

――シャッフルっぽい跳ねたビートにしているのも、作品とのリンクがあるんですか?

郡:実は今回、主人公が走ったり逃げたりするシーンが多いんですよ。そういう畳みかける雰囲気を表現したくて、テンポやビートのシャッフル感も意識していますね。

星街:最初にデモを聴いた時点で、かっこよくて、私の好きな感じにドンピシャだと思いました。もともと管楽器が鳴っているような、ちょっとジャズチックな曲が好きなので、「7days」もそういう雰囲気があってクールだし、しかも歌いやすいな、と。ニュアンスも出しやすいレンジになっていて、歌っていてもすごく楽しかったです。

――ジャズチックでクールという意味では、歌枠や歌ってみたなどからもうかがえる星街さんの好きそうなタイプの楽曲ですよね。

星街:そうなんですよ。歌に関しては、今回デモの仮歌を歌ってくださっていた方がすごく上手で、私が曲を聴いて想像したイメージにハマっていたので、その歌い方をかなり参考にさせてもらいました。そのうえで、ちょっとウィスパーっぽく、何を考えているか分からない雰囲気を出してみた感じです。曲調にも合うと思ったし、作品が推理系なので心情が透けて見えないようなものにしたいと思ったんです。それで、落ちサビだけちょっと感情が垣間見えるものにできたらいいな、と思っていました。そこだけぐっとニュアンスが出ていて、私個人としてもお気に入りの部分なので、作品のPVでも使ってもらえて嬉しかったです。

――レコーディングの中で特に印象的だったこともあれば教えてください。

星街:「ひとつひとつのワードのニュアンスをこだわって録ってらっしゃったな」という記憶があって、いろいろとリクエストをいただいて結構リテイクを重ねた気がします。そうやって何度も録音しながら、「ここがよかったから使いましょう」「ここも使いましょう」と、いろんなものを組み合わせていくような感覚で。実は最初に声出しのために歌ったものも録音してくださっていたりもして、「そういう技があるんだ?!」と思ったりしました。

――まずは星街さんがいろんなテイクを出して、それを組み合わせていったんですね。

星街:そうなんです。

郡:どのテイクも素敵だったので、その中で「どれがより映えるだろう?」とパートごとに考えていった感じです。すいせいさんはすさまじく対応力が高くて、ディレクション時にお願いしたことも「じゃあこんな感じですかね?」とさらっと200%のものを上げてくれました。

星街:私の場合、歌うときはいつも「自分の頭の中にある歌声を自分で再現する」という感覚なので、「こういう感じでお願いします」とリクエストがあると、その頭の中の歌声を変えていくんですけど、「7days」では「ここはワーッとした感じにしてください」とある程度アバウトな感じで言ってもらえたので想像しやすかったです。それに、自分の一番いい声を音源に残したいと思っているので、何度も挑むチャンスがあるのも純粋に助かりました。

郡:レコーディングで少しだけお話しする時間があったときに、すいせいさんのオリジナル曲の「バイバイレイニー」や「Je t'aime。」のように、「大人の余裕がある感じの歌声がほしいです」ということも言ったような気がしますね。

星街:そうでした。確かに言っていただいたような気がします。いつもはだいたい、可愛い系の歌だったら口角を上げて歌って、かっこいい系の歌だったらちょっと攻撃性のある歌い方をするんですけど、今回はそのどっちでもなくて、さっきも話したように感情が見えないような雰囲気で歌いました。感情はあまり出さずに、でも要所で垣間見える歌い方にしていて、落ちサビで「あっ、感情が見えるぞ?」と思ってもらって、ラスサビで「バーン!」というような。他の曲だと、「7days」のような歌い方をしている曲はそんなにない気がしますし、新しい境地に挑戦して「こういう曲も歌えるんだな」と楽しかった記憶があります。

郡:すいせいさんが1曲の中でいろんなニュアンスや表情を出してくださっているので、最初から最後まで楽しめる曲になっているんじゃないかな、と思います。僕も期待してレコーディングに臨んだんですが、想像していたものよりも遥かにいいものにしてもらいました。

――星街さんは、歌っていて歌詞で特に好きなところはありますか?

星街:やっぱり、「左手で受け取る」ところじゃないですか? 「♪この左手で受け取ろう~」っていうところ。「何で左手ですか?? 右手じゃダメなんですか?!」って(笑)。

郡:はははは。詳しくは言えませんが、このゲームでは、左手で掴むものは未来を変えることができるんです。右手でカップを持ってもいつも通りですが、左手でカップを持つと、他のキャラクターが持っていたときの過去の記憶や風景が見えたりして、その行動を変えることができます。つまり、左手を使って既に起きてしまった出来事を変えることができるんです。『ディスクロニア: CA』は、そうやって自分の大切な人たちを助けていこうという話なので。

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