特集:「クリエイターエコノミー」から生まれる次世代のエンタメ
「左ききのエレン」かっぴーらと考える“漫画クリエイターエコノミー”の未来 「夢を目指す人が増えないと盛り上がらない」
夢や目標を目指す人が増えないと、クリエイターエコノミーは盛り上がらない
──宇宙時代の到来が予見されるなか、藤田さんは宇宙事業に参入されました。宇宙産業はクリエイターにとってどんな存在になると思いますか。
藤田:現在の宇宙産業は1990年代後半のインターネット黎明期に似た雰囲気を感じます。昔は学術的や軍事的な関わりでしか、宇宙産業との接点は創出できませんでしたが、今では新興の民間企業が進める「ニュースペース」と呼ばれる宇宙開発が注目されており、宇宙関連のビジネスが盛り上がっている状況です。2040年には宇宙関連の市場規模は160兆円に上るとの試算も出ており、今後さらなる潮流が生まれてくるのは間違いないでしょう。
クリエイターに絡めた話をすると、宇宙のことをもっと知ってほしいという思いから、ロケット開発にフィーチャーしたWEBTOONを制作するプロジェクトを2022年3月から始動しました。実はロケット開発をテーマにした漫画って、今まで世の中に出ていないんですよ。花形である宇宙飛行士にフォーカスした漫画はあるんですが、ロケット開発に取り組む人に焦点を当てた漫画はなかったんです。漫画というフォーマットを通して、宇宙産業の将来性や可能性にもっと多くの方に興味を持ってもらえればと考えています。
──近い将来、宇宙は今よりもずっと身近な存在になりますよね。コンテンツを生み出す小林さんやかっぴーさんは、宇宙産業が伸びてくることについて、どのようにお考えですか。
かっぴー:基本的には漫画家という、自分のスタンスは変えないように意識すると思います。また、ロケット開発のWEBTOONを描く際は、仕事内容の説明漫画にはならないよう注意しています。というのも、詳しいロケットの開発内容などは他の資料や説明書で十分なので、実際にロケット開発に携わる“人”にフォーカスし、宇宙に関わる仕事がなぜ楽しいのか。どんな苦労があるのかなどの本質的な部分や、感情の起伏を伝えられるように心がけています。
小林:宇宙産業があると思っただけで、非常にワクワクしちゃいますね。宇宙やロケットに携わる人に、ちょっとでも力になりたいと考えています。ロケット開発に関わっている人も、言うなればクリエイターだと思うんです。
かっぴー:宇宙はわかりづらいなって。だって「宇宙をめざしています。へーすごいね」と止まってしまいますよね。そこから先をわかってもらわないと、産業自体が発展していかないと思うんです。リアルな話、宇宙と一括りにしてもさまざまな仕事や関わり方があるわけです。漫画やアニメの世界で花形的存在の宇宙飛行士以外にも整備士やロケットの開発者、衛星を飛ばす指揮官など、いろんな立場の人が関わっている。
僕は漫画家なので、こうした宇宙産業の現場に携わる人の生き様を漫画で代弁していきたいと考えています。翻って、クリエイターエコノミーは夢や目標を目指す人が増えないと、盛り上がらない。宇宙産業が盛り上がっていると言ったところで、その実態が知られていなければ、応援のしようがないわけです。つまり、応援されるきっかけづくりが非常に大事になってくると言えます。
「漫画家になる」ことから「漫画家として食べていく」のが難しくなる
──最後にお三方それぞれの今後の目標や展望について教えてください。
藤田:企画プロデュース集団「オレンジ」の軽部さんが話した言葉の中に「not creator but creative」というのがあります。要は、起業家がビジネスクリエイターであると捉えているんですね。事業のことを四六時中考え、自身もクリエイターとしてのプライドを持ちながら、今後もクリエイターエコノミー構想を実現できるよう動いていきます。
小林:藤田さんが仰った「起業家はビジネスクリエイター」はまさにそうで、ナンバーナインも他社のような総合出版社ではなく、漫画の総合商社を目指して頑張っていこうと思っています。漫画家さんをゆりかごから墓場の先まで支援できるようなサービスやエコシステムを構築し、ナンバーナイン経済圏のようなものを生み出したい。
かっぴー:漫画家としてビジネスマンを描くのが好きなので、情熱を持った人を取材したり純粋にいろんな人に会ったりして、漫画づくりを続けていきたい。これから漫画家はさらに競争が激しくなっていくと思います。今は紙の本を出さなくても、電子書籍やインディーズもあるので漫画家を名乗ることができる。そんな時代にヒット作を生み出し、有名になっていくためには漫画家も戦略立ててやっていかなければならないでしょう。これからは確実に「漫画家になる」のが難しいのではなく、「漫画家として食べていく」のが難しくなる。
なので、自分の代表作を作ることが最も大事になります。一方で、僕が大手出版社とも仕事をしているのは、日本における漫画の歴史を作ってきた出版社と仕事することによって信頼感や箔が付くから。たとえ10年後に出版社の勢いが衰えても、過去の大きな仕事の成果として見てもらえるわけです。この先は実績がものを言うと思うので、わかりやすく実力が示せる仕事をやっておくことで、漫画家の競争が激しくなったとしても戦えるようになる。もし、漫画家を志望するなら早いうちに始めた方がいいと思いますね。
小林:漫画業界を盛り上げていくためには、先述の通り漫画家さんの数を増やすことが大切だと思っています。月2〜3万円の収入を副業として得る漫画家さんたちも、今後は増やしていきたい。
漫画家さんは、自分で描いた読み切り漫画をお蔵入りしてしまいがちですが、実はそれってかなり価値のあるものなんです。その作品を再評価してくれる読者がいれば、毎月少しでも収入が増えて、そのぶん創作活動に費やせる。漫画家さんのあらゆる面をバックアップし、業界の底上げができるように尽力していきたいですね。