yukishiroが解説する、最弱予想から世界3位に登りつめた「ZETA DIVISION」の強さ【後編】
進化し続ける『VALORANT』のプロシーン
――優勝チームこそ北米のOpTicでしたが、決勝戦まで登り詰めたブラジルのLOUDや、奇想天外な戦い方で勝ち上がったシンガポールのPaper Rexなど、今年はZETAのほかにも新しいチームの台頭が目立ったように思います。元々『VALORANT』を含むFPSは、アメリカかEU、ロシア辺りの活躍が印象深いですが、なぜ彼らは頭角を表せたのでしょうか。
yukishiro:おっしゃるように、本当にどの地域もレベルアップしたなと思います。ここで『VALORANT』の国際大会の歴史を振り返ると、最初に開催された『VCT 2021: Stage 2』では北米のSentinelsが自分たちのフィジカルを活かしたアグレッシブなプレイで優勝しました。次の『VCT 2021: Stage 3』ではEMEA地域(でロシアに拠点を置く)Gambit Esportsがアビリティを的確に使った圧倒的なエリアコントロール、つまり戦術的な力で優勝したわけです。こうした大会を研究し、「こういう戦い方があるんだ」と強豪チームの戦略を各地域のチームが取り入れながらレベルアップした結果、今回の大会では大混戦になったと思います。
――2021年に世界大会が始まったばかりの新しいゲームだからこそ、選手の進化もすさまじいわけですね。
yukishiro:たとえば、今大会では優勝候補とも考えられた北米のThe GuardがPaper Rexに負けてしまって「ジャイアントキリングだ!」と盛り上がったわけですが、そのThe Guardも誕生して半年で北米優勝した新生チームなんですよ。
――ジャイアントキラーがジャイアントキリングされたと。
yukishiro:ただ、The Guardもインタビューでも話していましたが、チームの天才的なエースプレイヤーのtrentは、いつも音楽を聴きながらゲームをプレイしていた。ただMastersでは音楽を聴く行為が禁止されてしまったので、いつもの調子で戦えていなかったんですよね。
――普通は想定されてませんからね(笑) 音が重要なゲームで、わざわざ音楽をかけるなんて。
yukishiro:こういう国際大会だからこそ、最終的には経験値がモノを言ったのか、同じメンバーで活動してきたOpTicが勝ちはしましたけれども、それは全体のレベルが上がっているからこその結果だとやっぱり思うんですよね。Paper Rexはちょっと特殊だなと思いますけど。
――Paper Rexはすごく前のめりな戦い方でファンを盛り上げましたよね。
yukishiro:これは『VALORANT』がわかる方にお話するんですが、「ブリーズ」というマップでスリーデュエリストなんて構成で、しかも「フェニックス」を出してるんですよ。「フェニックス」は大会での使用率が0%に近いのに(笑)。
――普通はフェニックス、というかデュエリストをそこまで使うマップではないんですよね。
yukishiro:ブリーズと言ったらコントローラー、特に「ヴァイパー」が鉄板でしょう。なのにヴァイパーは出さない。「おいおいどうなってるんだ」みたいな(笑)。でも、そういう思い切った構成で勝ってる。なんなら、世界的にはむしろデュエリストを減らしていこう、いっそノーデュエリストで良いんじゃないかなんて議論がある中で、Paper Rexはデュエリストを多く採用していくという独特なスタイルなんですけど、彼らは自分たちのインタビューで「これは自分たちだからこそやってる」と自信満々に答えていて。
――まぁ、本人がそういうなら、みたいな感じではありますけど(笑)。
yukishiro:良い意味でスタイルウォーズなんですよね。このスタイルウォーズになっていくなかで、各国のメタや強い部分を取り入れたり対策していくという、試合の内外での戦いもあって。だからこそ、今回は全体的にレベルアップがなされてるんだなと感じました。
――ZETAがまさにそうでした。同じチームでもメンバーが入れ替わっていたりしますよね。
yukishiro:ブラジルのLOUDもsaadhakとSacyはもともと同じチームだったけど他は新しいメンバーですし、NIPもxandを中心として構成されている新しいチームなんですよね。今年一発目のMastersで、これだけ新しいチームが出て本当によかったと思いますよ。世界中のチームにチャンスがあるんだよという。
――そうなると今年のChampions(年末に開催される最大の世界大会)も面白くなりそうですよね。
yukishiro:むしろ7月に開かれる「Stage 2 Masters」から注目したいですよね。今回のStage 1 Mastersは昨年のChampionsから4か月後に開催されていて、新興チームや再構成されたチームが活躍しましたよね。言い換えれば、「まだ新生チームだからね」と言えたのは前回までで、3か月の練習期間を挟んだ次のMasters 2からはチームの真価が問われます。
――たしかにそれはアツい! ZETAがさらに刃を研いでいるかもしれないし、一方で王政復古を目指すNAやEUの強豪たちが仕上がってくるかもしれないし、予想もつかない新興チームが台頭するかもしれない。
yukishiro:もちろん、まず国内大会の「Stage2 Challengers Japan」も楽しいですよ。まだこのインタビューを受けてる段階ではプレイオフも始まっていませんが、世界大会で3位という結果を残したZETA DIVISIONはいろいろなチームに注目されるし、その分対策されやすくなったり、プレッシャーもあるでしょう。ライバルにとっても刺激をもらえたからより強くなっていくわけじゃないですか。だからこそZETAが今回も勝ち上がるかどうかもわからないですし。それらを含めて、まずは国内が面白いですよね。
――さらに決勝戦(Playoff)はさいたまスーパーアリーナで開かれることになりました。このニュースを聞いてどう思いました?
yukishiro:僕もびっくりしましたよね。オフラインだったら嬉しいな、というくらいだったのに、場所がさいたまスーパーアリーナって……「え? どうなっちゃうの?」みたいな(笑)。
――そのあとに待ち受ける『Masters』では、yukishiroさんの解説も聞き逃せませんね。
yukishiro:プレッシャーだなぁ……(笑)。
(記事内画像=Getty Imagesより)