ゲームキャスター・yukishiroが、14年間シーンを見つめ続けた末の悲願 『VALORANT』の快挙を振り返る【前編】

『VALORANT』の「爆破ルール」とはどんなゲームなのか?

――実際に選手の活躍についてお聞きする前に、まずこの爆破ルールの魅力、ほかのFPSにはない魅力や見どころについても聞かせてもらってもよろしいでしょうか?

yukishiro:うーん。一言で表すのは結構難しいんですが、まずは設置や解除をめぐる戦略性の深さが挙げられます。特に『VALORANT』は各エージェントの「アビリティ」の駆け引きがありますよね。またプロ同士の試合ともなると、相手の戦略を事前に研究、対策するメタゲームであるとか、本当に多様な要素が詰まっていると思います。そうした諸々の戦略を積み重ねた先に、たまに出る「1人で5人を倒す」ような銃撃戦のスーパープレイもまた面白さです。

――なにも知らない人からすれば、FPSってどれもいかに相手を先に撃つかという銃撃戦だけで勝っているように見えると思うんです。

yukishiro:銃撃戦は前提なんですよ。トッププロ同士となると、たまに抜きん出た人もいますが、基本はみんな同じぐらい撃ち合いは上手い。なので、その撃ち合いを始めるまでに、どうすれば有利な撃ち合いを始められるのか……待ち伏せをしたり、逆に奇襲をかけたり、そういう駆け引きで撃ち合いを少しでも有利にする戦術面こそが「爆破ルール」の醍醐味だと思いますね。

――具体的に「撃ち合いを有利にする戦術」とはどのようなものでしょうか?

yukishiro:原則、爆破ルールでは守り側が有利になりがちなんです。攻めてくる相手を有利なポジションで待ち伏せすることができますからね。そこで攻め側は工夫をしなければいけません。たとえば「索敵」。『VALORANT』であれば、「ソーヴァ」など一部のエージェントはドローンなどを使って敵の位置を知ることができるんです。位置さえわかってしまえば、こちらが一点突破で攻撃したり、壁越しに攻撃することでむしろ攻撃側が有利になります。もうひとつは「撹乱」。エージェントの中には「スモーク」と呼ばれる煙幕や、「フラッシュ」と呼ばれる閃光弾を投げ込むアビリティを持っていて、敵が待ち構えていそうな場所にこうしたアビリティを使うことで撹乱し、攻め手が陣形を変えざるを得なくなる。ほんの一例ですが、こんな感じですね。

――攻め方についてはわかりましたが、逆に守り側もスモークやフラッシュを持ってるわけじゃないですか。守り側はどう使うんでしょう?

yukishiro:守る側はカウンターですよね。敵の使ったアビリティから敵の攻撃ルートを予測し、こちらもアビリティを使う。また逆に、守り側は攻め側の戦略を見越して逆に自分から先に仕掛けたり(詰める)、むしろ設置地点をあえてがら空きにしてアビリティを無駄遣いさせつつ、後で取り返す(リテイク)など、これもごく一部の例ですが本当に色々な守り方がありますね。

――そのような攻め方、守り方は試合前からチームで何度も練習して身につくものなんですよね?

yukishiro:そうですね。先程話したコーチやアナリストを交えつつチーム全体で事前にいくつも戦略を練ることが基本だと思います。また、現在では「スクリム」と呼ばれる国内外のプロチームとオンラインでの練習試合をすることもよくあります。

――そうしてチーム全体で培った戦略部分がチームの強みになっていくと。

yukishiro:たとえば『VALORANT』では基本的に13ラウンド先取ですが、同じ1ラウンド勝利にしても、1人生き残って勝利したか、3人生き残って勝利したかで価値が違うんです。生き残った数だけ武器を持ち越せるというのもありますが(※)、そもそも1人が生き残った場合、お互いがカバー勝負や時折出る連続キル等で取って取られての結果なので、そのわずかな差もチーム力とは言えますが再現性がすこし低いと思うんですよ。でも3人以上残ってラウンド勝利した場合、それは撃ち合いではなく戦略面で相手を上回って勝てているんです。それこそチームの強さだと思います。

(※)『VALORANT』では死亡する度に武器やアビリティをクレジットで購入する必要がある。強力な武器ほど高価であり、試合中に何度も買えるものではないため、それを失う(鹵獲される)ことは極力避けたい。

(記事内画像=Getty Imagesより)

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