ネット犯罪は誰にでも起こりうる事件か 『サイバー地獄:n番部屋』が描くその恐ろしさ

犯人逮捕に至った報道とそのリスク

 『サイバー地獄:n番部屋 ネット犯罪を暴く』は、「n番部屋事件」を追ったハンギョレ新聞の記者と、n番部屋の存在に気づいて独自に調査していたメディア志望の大学生が経験を語る形式で、いかにリスクを抱えながらも正義を全うしたのかが描かれている。しかし、彼らの調査は決して格好良くスマートなものではなかった。

 まず、n番部屋の存在を記事にしたことで、ハンギョレ新聞の記者の家族を含む個人情報がリークされた。

 また、事実を大々的に報じれば、事態が大きく動き犯人逮捕につながると期待していたものの、新聞の一面を飾っても世間から見向きもされなかった。

 その状況を目の当たりにしたルームの住人たちは調子付き、「自分の部屋も宣伝してほしい」と記者らを挑発するメッセージを送ってきた。そして、記者の意に反して、報道で部屋の存在を知った人たちがルームに参加し、ますます盛り上がったのだ。

 テレビの情報番組が取り上げることになると、今度は「奴隷のひとりを自殺させる」と、具体的にどの女性が犠牲になるか発表し、プレッシャーをかけた。結局、この報道が事態を大きく動かすこととなり、もっとも悪質な管理人のひとりとされる「博士」は逮捕されたが、この一連の流れは、報道のリスクや、世間の熱意のギャップを表しており、メディアに関わる者のひとりとして、筆者はなんとも言えない感情を抱いた。

 問題提起しても世間から見向きもされず、耳障りのいいニュースばかりがもてはやされるのは、「n番部屋事件」に限らない。リスクを承知で世間に訴えようにも見向きもされなければ、記者の調査意欲も必然的に下がる。世の中には、見向きもされなかった「変わるべきこと」や「解決されるべきこと」がたくさんあるのだろう。

誰にでも起こりうる事件

 「n番部屋事件」は、犯罪のスキームが単純かつ効果的で、再現性が高い。つまり、誰もが被害者/加害者の立場になれる。だからこそ、NETFLIXで配信されたことにある種の恐怖を感じずにはいられない。

 『サイバー地獄:n番部屋 ネット犯罪を暴く』は、新たなる被害者をうまないための啓蒙的な願いを込めて作られているはずだ。被害者に12歳以下の少女が何人も含まれていることを考えると、ネットリテラシーの早期教育の大切さを感じる。

 一方で、犯罪の手口は丁寧に語られているし、テレグラムという匿名性が高いチャットアプリの存在にも触れられている。

 ルームの管理者は最終的に捕まり、ネット犯罪である限り足跡を完全に消すことはできないといった犯罪抑止力的な内容も伝えられているものの、問題点を洗い出してブラッシュアップしようと考える人が出てこないとも言えない。

 事件の報道が新たなる加害者を量産したように、本作が新たな模倣犯を産まない可能性はゼロではない。筆者はただただ、同様の事件が起こらないことを祈るばかりだ。

■作品情報
『サイバー地獄: n番部屋 ネット犯罪を暴く』
Netflixにて独占配信中

参照:
ネットフリックスの「n番部屋」追跡ドキュメンタリー監督「あなたたちは必ず捕まる」
https://news.yahoo.co.jp/articles/e4f356e6cdc77dce98a16639fdff6a3e4aa8c809
「n番部屋はまさにあなたの話…犯人は警察や記者だけが捕まえたのではない2」
https://news.yahoo.co.jp/articles/e72443c9120d07e7c72b25542d0646cd52f03338
n番部屋の取材記者は「博士部屋」を見て確信した「これは捕まえないといけない」と
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/43588.html
ヤバすぎるチャットツール「テレグラム」闇バイトで利用多発もサービス停止できないワケ
https://otona-life.com/2021/04/29/63350/
Everything You Need to Know About the Nth Room Case in ‘Cyber Hell’
https://www.netflix.com/tudum/articles/everything-to-know-about-the-nth-room-case-in-cyber-hell

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