eスポーツで礼儀作法は身に付く? 「eスポーツ部」顧問の先生に話を聞いた

 eスポーツは広がりを見せているが、“スポーツ”として浸透しているかと言えば、そうとも言い切れない。eスポーツがスポーツの一ジャンルとして定着するためには、礼儀やマナーを学べるかどうかにかかっているのではないか。子どもに礼儀やマナーを身に着けさせるためにスポーツや武道を習わせる親は少なくなく、eスポーツで礼儀やマナーを育めれば『ゲーム=悪』のイメージを払拭し、市民権を獲得できるはずだ。

 とは言え、オンラインゲームのプレイ中に煽りプレイをされることはよくあり、差別的な発言をしたeスポーツ選手のニュースを耳にすることも多い。eスポーツでは礼儀やマナーを学ぶことは難しいように感じる。

 子どもがeスポーツから礼儀やマナーを学ぶために必要なことは何なのか。岡山県共生高等学校にて、2014年からe-sports同好会を4年、2018年からeスポーツ部を5年指導してきた顧問の先生・柴原健太氏に話を聞いた。

岡山県共生高等学校

匿名性の影響力

――なぜゲーム(eスポーツ)ではマナー違反的な言動が散見されるのですか?

柴原:やはり匿名性が高いことが大きな理由です。「マナー違反なプレイをしてさらされても、アカウント名を変えたり削除すれば問題ない」という意見も生徒から寄せられており、匿名性の影響力は大きいです。

――やはり匿名であることは大きそうですね。

柴原:ゲームというバーチャル空間で発散するために、対戦相手を不快にさせる動きを見せて、現実世界のストレスを発散することも少なくありません。そもそも、ゲームは強い人ばかりが楽しめる一方、弱い人ばかりストレスが溜まりやすい構造になっています。そのため、プレイしてもただただストレスが溜まってしまい、そのストレスをマナー違反をすることによって発散することもあるでしょう。

「大人がやっているなら自分も」

――特に子どもがマナー違反をする理由としてどのようなことが想定されますか?

柴原:ゲーム実況動画を見ていると、煽りプレイをする大人も珍しくなく、「大人がやっているなら自分もやって良い」と勘違いしてしまう子どももいます。配信者の「子どもが見ている」という意識を持つことも大切なのではないでしょうか。

 また、まだまだ未熟ですので、感情の表現方法が分からず、上手くプレイできなかった際に感情をうまくコントロールできず、相手を不快にさせる言動を見せてしまうこともあります。

――様々な要因が想定されますね。

柴原:生徒からは「チームスポーツの経験が少ないから」という意見もあり、「チームメイトはもちろん、対戦相手への接し方がわからない」ということも影響しているかもしれません。

モラル教育の機会の少なさ

――eスポーツ選手のモラルが問われるようなニュースも珍しくなく、これは子どもの礼儀やマナーの育成を阻害しかねない。そもそも、なぜ差別的な振る舞いをするeスポーツ選手は少なくないのですか?

柴原:eスポーツ選手に対するモラルやマナーに関する教育の機会の少なさが挙げられます。例えば、小中学生が地域のスポーツ少年団などで礼儀やマナーを学んでいるはずの野球やサッカーでも、プロ野球やJリーグ主催の新人選手に向けた研修会を毎年開催しており、「税の意義と役割」「SNSの使用モラルと危険性について」といったテーマで研修を行っています。それでも諸問題が起きています。eスポーツの世界でも同様の取り組みが広がることが大切です。

――教育の機会は必須ですね。

柴原:とは言え、マナー教育を受けても、そのことを自分事として考えられない人もいるため、簡単な話ではないです。加えて、ゲーム実況は好きな人だけが視聴するクローズドな空間ですので、礼儀やマナーを意識できている人でも、ついつい気が緩んでしまいモラルに反した発言をすることも珍しくありません。

 実際、気心知れた友達と一緒に配信をしている際、地元トーク的なノリで余計なことを発言するシーンは散見されます。また、生徒からも「奇抜な発言がカッコいいと思っている」という意見も寄せられました。視聴者の興味関心を引きたいのか、サービストークなのか、過激なことを口にしやすい構造がゲーム配信には潜んでいます。

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