連載「multi perspective for metaverse」第三回(ゲスト:TREKKIE TRAX)

「メタバースの音楽」が持つ特徴とは? DJ RIO×TREKKIE TRAX(futatsuki&Carpainter)に聞く

“メタバースの音楽”が持つ、ほかにはない特徴とは

――メタバースの音楽シーンで流行ってるジャンルやアーティストにはどんな特徴があるでしょう?

Carpainter:特徴の一つとして、自分が直球で好きなものをやっている方が多い印象がありますね。VRChatの話にはなるんですが、自分の好きな時間に好きなタイミングでイベントをできるので参入のハードルが低い。シーンがあってそのシーン・環境の中でこうやっていくというより、自分の色を出してワールドを構築したり、本当に自分が好きなことをやりたいからやる人が多く、これまであんまり聴いてこなかったような音楽もいっぱい聴けるような環境です。

DJ RIO:メタバースというフルCGで体験を制作できるようになってから、歌や音楽だけでなく、映像表現やステージ演出まで含めた作品作りをする人が登場しましたよね。

 現実世界で本当のステージを使ってド派手な演出をやる、なんていうのは予算がかけられる一部のメジャーアーティストにしかできなかったことだと思うんですよ。VRChat内でもそれ以外のバーチャルプラットフォームでも豪華なセットだったりとか、あるいはCGであることの強みを最大限生かして、ステージやライトのような物理的な制約を超えて、その映像作品に入ってしまうような体験を実現したり。音楽の表現の派生系として映像体験を一緒に作る人が出てきているのが一番楽しいと思っているんです。

Carpainter:「どういうDJがしたい」だけでなく「自分のDJを一番よく聴かせられるワールド」まで考えてDJ活動してる方もいます。

知り合いのVRDJの方も、たとえばHouseが好きな方が廃工場を設営して会場にして、一晩中パーティーをするみたいな。現実のクラブではあんまり聞いたことがなかった活動への欲求で、すごい新鮮でしたね。

VRのクラブでかかる音楽は、現実の既存のクラブよりも幻想的な曲が多い気がします。現実のクラブだとイベントに合わない幻想的すぎる曲はちょっと掛けづらいところはやっぱりあるんですよね。メタバース上のクラブだとその音楽に合わせたワールドを自由に設計できるから、心にすっと入ってくるのかなと思いました。

画像提供=鴨居氏

――具体的に注目しているメタバース上のアーティストはいらっしゃいますか?

futatuski:そうですね……。Carpainterとも話してたんですけど、0b4k3くんは普通にすごい。あと、僕が最近いいなと思うのは海外のアーティストなんですけどOM3という、それこそGHOSTCLUB(※1)とかに出ていて、サイバーパンク系の自分のクラブワールドを持ってるDJが個人的にすごいイチオシですね。

※1 0b4k3が手がけたVRChat内のバーチャルクラブおよびイベント。

Carpainter:個人的にいいなと思ったのが、M4TTというトラックメイカー。彼もほかの方もですが、メタバース上のDJには曲も作ってる上にDJもめちゃくちゃ上手い方が多い。現実と違ってやっぱりメタバースだと、何度も何度もDJができて経験を積みやすいからなのかな。

彼がやってる音楽はJersey Clubというアメリカのボルチモアやニュージャージー周辺の音楽なんです。日本では一般に知られているというわけじゃないんですけど、メタバース上でやっているとやっぱり海外の人も認知してくれる。ファンを獲得しやすいし、シーンとも接続しやすいんだと思います。

DJ RIO:REALITYはクラブシーンとはまた違う、世界観としてはカラオケ大会やのど自慢コンテストとか、もっと日常的な雰囲気が多いです。

 最近は海外のユーザーが増えていて、アメリカやインドネシアの配信者の人たちが歌っている様子を聴くと、見た目はREALITYの日本のアニメ風アバターなのに、歌ってるのはカントリーやブルースだったりする。

 このアニメ顔と歌のジャンルのギャップが面白い。中東の音楽のリズム感やオリエンタル感がアニメ顔から出てくる無国籍感はすごいですよ。

――クラブシーンや歌枠以外でメタバース上の音楽として注目しているものはありますか?

DJ RIO:一部のメジャーアーティストによるFortniteでのバーチャルライブのようなものは、それってすごい大規模だけど、その予算をかけられるごく一部のアーティストにしか作れないから、あんまりUGCとして広がっている感じがしないんですよね。

 Porter Robinsonみたいに、明らかにこの領域が好きなメジャーアーティストが自前でプラットフォームを作ってバーチャルライブをやるケースもありますが、それはもうすごい例外的な存在かな。

Carpainter:自分はVRChatを本格的に始めて音楽周りのワールドを探した時、FMシンセに触れるワールドを見つけたんです。そこで友達3人ぐらいで同じシンセをVR上で触ってみたところ、完全にこれは共作だなと感じました。

 たとえばそこにDAW――音楽を作るアプリケーションがあってリアルタイムでアバターを介して何人かでリアルタイムで触るとします。インターネット上のリアルタイムでの共作はブラウザ専用のDAWはあるものの、難しかったんです。けれどメタバースを通した共作は、現実的にできそうなレベルにあるので、やってみたいなと思いました。

ーーFMシンセに限らず、現実にない楽器をVR上に作ることもできますよね。

Carpainter:最近行ったワールドに、雨粒が落ちてくる場所にタライや金物を置くと音が鳴るというワールドがありました。ただそういうシーケンスを鳴らすだけじゃなく、なんで雨が降っているのかという世界観も構築されていて、ストーリー込みに楽しいワールドなんです。ただ音楽だけにフォーカスせず、その世界観を作るのも面白いですよね。

DJ RIO:そういう意味で言うと僕らやバーチャルYouTuberが活動している範囲では、テクノロジー的に新しいことをしてない感じはします。ユニットを組んでデビューする、いわゆる昔からの芸能のフォーマット。僕らはそれにUGC要素が入ってますけどめちゃくちゃ新しいわけじゃない。

 ですが、話を聞いて、そういった技術的な観点で新しいことをみんなに提供できるようになると新しい創作の形、新しい体験の形が生まれてきそうだと思いました。

――音楽で生計を立てるのはメタバース上では可能なのか、という問題についてはどのようにお考えでしょうか? futatuskiさんは以前のインタビューで、生計を立てるのではなく音楽で人生を豊かにするという観点から語られていたことが印象的でした。

futatuski:その発言を掘り下げると、僕たちは会社化しているわけでもなければ、利益を求めて音楽を作るような集団ではない。それをやってしまうと自分たちのクリエイティビティとか作るクリエイティブがめちゃくちゃ制限されてしまう。たとえば、本当はテクノを出したいのにテクノはお金にならないからJ-POPを作らないといけない、とか。

 僕たちはどちらかというとそのアーティストたちの作りたいものや、レーベルとして表現したいものを最優先にしたいので、マネタイズはその次に優先順位を持ってこようと考えてます。

 そうやって10年間活動してきて、色々な仲間が増えて色々なパーティーをやって、さまざまな国に行って、人生がめちゃくちゃ豊かになった。それによっていくらお金が得られたかっていうと別にそんなことはなくて、ビジネスとしては成立してないんですけど、それによって得られた人生体験とか、得られた友達とか仲間とかは、かけがえのないものだと思っています。

 それはメタバース上でも表現可能であると思いますし、メタバースでの音楽活動ってリアルの音楽活動よりハードルが低いと思うんですよね。DJするのも現実に比べると容易な部分はありますし、自分のワールドを作って色々な表現ができたり。これまで僕たちが大変だなと思ってたハードルがメタバースによって下がることはもちろんあると思いますね。

DJ RIO:私もDJをするのは楽しくて好きだからで。メタバース企業の経営者たちと15人から20人ぐらいしか入らない箱で自分たちの好きなをDJやる、という小規模なパーティーをやってるんです。

 ただの仲間内のイベントなんですけど、このスモールコミュニティの雰囲気や楽しさ、気持ちよさをメタバースでも作らなきゃいけないとみんなで話しています。それこそ豊かさという感じがしますよね。

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