『東方ダンマクカグラ』特集 Vol.1 「東方音楽とクラブミュージック」
kz(livetune)×REDALiCE×まろん(IOSYS)が語り合う“東方音楽とクラブミュージック”
東方楽曲は“実質EDM”? 3人が分析する、東方楽曲に込められた意匠
ーー東方の原曲とアレンジ楽曲の魅力について、思うところをそれぞれお聞きしたいのですが、。東方の原曲では、皆さんはどれがお好きですか?
REDALiCE:めっちゃ悩みますが、「幽雅に咲かせ、墨染の桜 ~ Border of Life」が一番好きですね。
kz:同じく。
REDALiCE:おー、マジか! 示し合わせてないですよ、これ。
kz:ハチャメチャに悩んだ結果「墨染」ですね。やっぱり好きなんですよね。まろん君は?
まろん:僕も「墨染」です。
kz:全員「墨染」ですか?
一同:(笑)
ーー世代も関係あるんですかね?
REDALiCE:間違いなくありますね。
kz:俺もおそらく赤さんも、『妖々夢』〜『永夜抄』あたりが一番思い入れが強いんですよ。「千年幻想郷 ~ History of the Moon」なんかもすごく好きなんです。
REDALiCE:「墨染」は、メロディーとか展開も含めて、シンプルに曲が好きですね。「ネクロファンタジア」ともすごく悩んだけど。やっぱり自分はボス曲が好きかな。印象に強く残りますよね。
kz:どっちにしろ『妖々夢』内での戦いなんですね。
REDALiCE:結局「墨染」が勝ちました。結構アレンジしてるからね。
kz:(過去の東方アレンジが纏まっているデータベースを見ながら)8曲くらいやってますね。すごいな。
REDALiCE:8回か。ちょっとやりすぎだろ、ってくらいにやってますね。
ーーアレンジも含め、楽曲全体の魅力についてはいかがですか?
まろん:僕は東方の原曲の魅力は、STGにおけるストーリーやゲーム展開とのシナジーだと思っています。いち音楽なのに三次元的な楽しみ方ができるんですよ。たとえば妖々夢6面のボス、西行寺幽々子は、実はシリアスなバックストーリーがあるキャラで。その背景を知った状態でプレイする6面ボス曲で流れる「墨染」の切なくて儚いメロディ、そしてその後に来る「ボーダーオブライフ」の演出はもうすばらしくて。この一連の流れを考えると、僕も「墨染」が1番好きだなという結論に至りました。
kz:東方の曲って「墨染」もそうですが、結構マイナーコードで進行するじゃないですか。でも時折絶妙なタイミングでメジャーコードが入るんですよ。そのおかげで、かっこよさだけじゃなく壮大な雰囲気が出てくるんです。かっこいいの中に入るエモさが絶妙な塩梅だな、とずっと思ってました。メジャーコードで終止させる曲が多くて、聞いていて気持ちいいですし、印象に残りますね。
まろん:「ネクロファンタジア」もそうじゃないですか?
kz:「墨染」も最後はメジャーコードですよね。特にボス曲に多い気がします。
REDALiCE:多いですね。いろいろやりつつも、一番盛り上がるところでは最終的にシンプルなコードでまとめてくれるから聞きやすいですね。DTM初心者の方にとっても、東方アレンジは入り口として入りやすいと思います。
ーーみなさんの“墨染愛”が伝わりました。さっきkzさんがおっしゃったような、「ボス戦で繰り返し聞く体験」が絶対にあるゲームなので、特にボス曲が印象に残っているのかもしれません。
kz:「いい曲だな〜」と思いながら何度も練習するのは、気持ちいいですからね。
REDALiCE:やっぱり僕らはゲームプレイを軸にして音楽を聴いているんだな、と思いますよね。
kz:それでいうと、ゲーム音楽にもいろんな変遷があって、特に現代のゲームには「メインメロディーが明確に聞こえるタイプの楽曲」って、だいぶ減ってきたと思うんですよね。たぶんハリウッド映画の劇伴のような作り方に近づいていて、フィールドとかでも割と、風の音が聞こえたりとか、環境音的な音楽が多いんだけれど、そういう現代にあそこまで「これがメロディーだぞ!」っていう音楽が鳴っているゲームはもうなかなかないと思うので、印象深いというか。やっぱり僕らが子どもの頃に聞いててすげえ! と思ってたゲームミュージックが、ちゃんとそのまま残ってるっていうのは、嬉しいですよね。
REDALiCE:古典的なゲームミュージックですよね。スーファミ世代の我々が耳にしていた、まさに青春時代の音が詰まっている。
ーー環境音的な音楽の真逆というか、主旋律を歌えちゃいますからね。
kz:そうですね、だから実質EDMなんですよ。EDMにはリードをみんなで歌うカルチャーがあって、こじつけかもしれないけど、ダンスミュージックに近いところがあるかもしれない。
ーー東方原曲を知らなくても、アレンジ楽曲に触れたことで「サビのメロは知っている」、という人はたくさんいるはずですし。
まろん:だから東方音楽とクラブミュージックにはシナジーがあるのかもしれないですね。知らない曲でもメロディーは歌えますから。
kz:あとリスナーの好きなジャンルがそれぞれ違ったとしても、好きなジャンルの人たちがアレンジをすることで同じ曲を共有できるじゃないですか。原曲やメロディーはみんな好きだけど、クラブミュージックとして知ってる人もいれば、バンドスタイルで知ってる人もいる状態。これは結構特殊なことだと思っています。1ジャンルで完結していないからこそ、東方の楽曲が広く知られていって、未だに新しい層を獲得している。この構造は他にないですよ。
ーー本当に特殊なリミックス文化ですね。
kz:ただ、だからこそ作り手としては、どこまでメロディーを変えていいかのラインが難しいですね。
REDALiCE:それは時代によって解釈が変わってきましたね。初期のころほど原曲主義が強くて、基本のメロディーを崩してはいけない風潮でしたが、だんだんと東方アレンジの文化が成熟するにつれて、雰囲気が残ってればいい、歌詞で解釈できればいい、といったさまざまな捉え方が出てきたように思います。
ーーkzさんが2009年に制作した「Sleeping Beauty(原曲:ネクロファンタジア)」を聞くと、曲構成がアレンジされていますね。
kz:でもメロディーはかなり忠実ですよ。1曲目でめちゃくちゃいじる度胸はなかったんで(笑)
一同:(笑)
kz:1曲目だとどうしても好きな気持ちが勝るから、忠実にやりたかったのもあります。さっき赤さんが「歌詞で解釈がわかればいい」と言いましたよね。多分誰も気づいてないんでここで言いますが、実は橙(ちぇん)の曲を入れてるんです。
REDALiCE:そうなんですか!
kz:家族の文脈を組み込みたいと思っていたので、「遠野幻想物語」のシーケンスをこっそり入れてたんですけど、多分誰も気づいていない(※)。10年ぐらい経ったからどこかで言おうと思っていて、ようやく言えました。
(編注:「ネクロファンタジア」は、東方Projectのキャラクター「八雲 紫」のテーマ曲。八雲 紫には部下である式神の「八雲 藍」とその部下の「橙」がおり、三名は二次創作で主に“家族”のような関係性で描かれることが多い。また「遠野幻想物語」は、橙がボスとして登場するステージで流れる楽曲)
まろん:すごい…!!
REDALiCE:細かいこだわりがやっぱり大事ですよね。
kz:こういう、リスナーは気づいていないけど、何かしらを仕掛けてるクリエイターは多いはずです。
まろん:東方のアレンジは、ギミックを込めやすいなと感じます。僕がよくやるのは、原作の楽曲によく使われている、通称「ZUNペット」という音色(RolandのMIDI音源「SC-88Pro」「SD-90」に収録されているトランペット音源「Romantic Tp」のこと)を、あえて自身の東方アレンジ楽曲の中に入れることがあります。最近だと東方とVTuberをかけ合わせた作品の曲に入れたのですが、メタ的な文脈を持って東方アレンジを作るときは、双方の架け橋になるようにリスペクトを込めて、ZUNペットを入れるようにしています。