Viral Hit Creator(第三回)
『Fate/stay night』ギルガメッシュの宝具を“誰でも展開できる”ARがすごい 開発者・kiyo氏に聞く制作の経緯
ーー今回、題材に『Fate/stay night』の ゲート・オブ・バビロンを選んだ理由はなんだったのでしょうか。
kiyo:以前「Fate」のアニメシリーズを視聴して、その時から「AR的な演出」と相性が良さそうだと考えておりました。この「ARでアニメ再現シリーズ」を作っていく中で、今までは「その場」にアニメの再現を展開するものを作っていたので、次は「人を絡めた体験をできるもの」を作ろうと思い立ちました。そこでゲート・オブ・バビロンがまさに題材として良いのではないかと考え、制作に着手しました。
ーー今回も含めて、アニメやゲームを題材にした作品を作る際には、どこに注目して選んでいますか?
kiyo:まずは、当たり前ですが自分が視聴や体験をして「好きだ」と感じた作品であること。 自分が実際に現実の世界で体験してみたい、と感じたものをストックしています。実際に作るときには、そのタイミングで挑戦したいことや、自分が作るからこその技術的な部分を活かせるか、という視点とそれらのコンテンツを掛け合わせて、次に制作するものを決めています。
例えば、 以前『鋼の錬金術師』の再現をしたコンテンツを作った際には、「『現実の地面が変形する表現』を試そう」と思ったところから題材を選び、制作しました。
今回のゲート・オブ・バビロンARでは、「人がいる場所・実写に馴染むような演出を作る」ということに自分なりに挑戦してみたかったので、題材に選んでいます。
ーー「ゲート・オブ・バビロンAR」の製作における難しかった部分、力を注いだ部分をお教えください。
kiyo:特に力を注いだのは、武器が出てくる時の、波紋のエフェクト表現です。合成した映像ではない、リアルタイムに動作するというARの特徴を活かすためにも、単純に波紋のようなエフェクトを被せる、というだけではなく、後ろのカメラ映像が実際に歪むように調整を施しています。こうすることで、CGが現実の映像にうまく溶け合い、「実際にその場所に出現している感」が増すんです。アニメ的な表現ではありつつも、実写でも違和感なく馴染むように見せています。
ーー今回、プラットフォームとして「STYLY」を選択した理由はありますか?
kiyo:STYLYを選択した理由は、自分の普段の開発技術を利用でき、かつ公開が簡易だからです。普段、本業でもARコンテンツなどの開発をしていますが、そこでは「Unity」を主に使用して開発しています。STYLYには、Unityの制作物を簡単にアップロードできる環境があるんです。
ほかのARコンテンツなどを展開できるプラットフォームですと、InstagramのARフィルターのプラットフォーム「SparkAR」などもありますが、こちらにアップする場合はまた別のツールを使用して制作する形となり、普段の制作で培った技術が流用しづらい、ということがあります。その点、STYLYでは普段自分が使っている技術を活かしてARコンテンツの実験的発表を行うことができると考え、選択しました。
ーー「NEWVIEW AWARDS 2021」のファイナリストに選出された作品「See there / ここに見る」の掲載コメントにおいて、kiyo様は「自分が世界とつながりを持てたのも「AR」がきっかけである」「拡張現実とはものの見方である」とコメントされていますね。
kiyotaka watanabe『See there / ここに見る』
kiyo:先程もお話ししたのですが、自分は学生時代からAR表現について研究してきました。社会に出て制作をする時にも、ARをベースとして制作をすることが多かったです。 そしてプライベートでもARを使った作品を発表したり、たまにイベントなどで展示をさせてもらうなどして、制作活動を続けてきました。 自分はあまり社交的な方ではないのですが、これまで製作してきた作品があったおかげで声をかけてもらえたり、またそれがきっかけで新しい人と出会い、そしてそういう人たちと制作をしたりなど、人との輪も広がっていったと感じています。 たとえば、友人と組んでいるクリエイティブユニット「KATAKOTO」の活動もそうですし、今回のインタビューもそんな繋がりの一つとも言えると感じています。
「KATAKOTO」の作品、「何かのいる気配」を探し、原因となるオバケをカメラに収める体験型アトラクション『TRICK SCOOP』
だからこそ、自分の現実を拡張してくれたのはこの「AR」という技術だと思っていますし、このARを通して自分は世界と接続し、そしてまた新たにARを通して見えたものを作ったりし続けることができている。 そういう意味で、私にとっては拡張現実(AR)というものが、一個の技術というよりも、ものの見方や現実の捉え方と言えるのかな、と感じています。
ーー今後もこの取り組みを続けていきますか? また、現在注目している技術、「これをアニメ・ゲームと掛け合わせたら面白そう」という製品・技術があったらぜひお教えください。
kiyo:自分にとってはこういうものを制作する活動が日常となっている面もあり、もちろん大好きなので取り組みは続けていきたいです。また、元々はアニメやゲームでの演出や技術をARコンテンツに取り入れたい、と思って始めた活動でもあるので、ゆくゆくは得られた知見を利用した、アニメやゲームに負けないオリジナルなAR作品にも挑戦していきたいと考えてます。
現在気になっている製品・技術に関しては、Niantic社からリリースされたプラットフォーム「Lightship」です。こちらは同社の『PokemonGo』などでも使われている技術が一般公開されたもので、カメラに写った環境を認識する精度に長けています。たとえば、ARで描画したモノを空だけに映るよう表現できたりなど、より現実世界に接近した表現が可能です。
Nianticの提供するプラットフォーム「Lightship」では「没入感をもたらすユニークなARアプリケーションの作成ができる」という
これらを使うことで、たとえばゲームやアニメでもよく見る「空一面に覆いかぶさるような巨大なインパクトのあるモノ」の表現が可能になったりもします。いい題材があれば、近々こちらを使用して、アニメやゲームの再現に挑戦してみたいです。
■プロフィール
渡邉 清峻/kiyo
Interactive Engineer/AR Developer
「新しい」技術を「面白い」体験へと落とし込む制作を行っているクリエイター。
特にAR技術を用いて、映画/ゲーム/漫画などの他ジャンルの「あ、見たことある!」「あ、それ知ってる!」というものを「実際に体験できるもの」へと落とし込む方法を考案、作ることを得意として活動している。本業のかたわら、2016年よりクリエイティブユニット「KATAKOTO(https://katakoto.tokyo/)」としても活動。
<主な受賞歴>
XR CREATIVE AWARD 優秀賞、総務省異能vationプログラム ジェネレーションアワード部門 [企業特別賞] 、SOWN Best Technological Game Awardなど。