『FGO』芳賀敬太が毛蟹と語り合う、狂気的に美しい「アヴァロン・ル・フェ」楽曲の裏側
――ありがとうございます。『妖精円卓領域 アヴァロン・ル・フェ』についてもまだまだ聞きたいことはあるのですが、今回はサウンドトラックのインタビューということで、他のシナリオについても聞かせてください。メインシナリオとしては第2部 第5.5章『地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃』からなのですが、期間限定イベント『虚数大海戦イマジナリ・スクランブル ~ノーチラス浮上せよ~』もメインシナリオに近い位置づけだと思うので、まずはこちらから。シンセベースのような音色が印象的な曲をはじめ、にじんだ音色ーー深海的なイメージの楽曲が多い印象でした。
芳賀:このイベントはamphibianさんによるシナリオということで、基本的な音楽のイメージについてもご本人からリクエストをいただいていました。それがかなりしっかりとした形でしたので、そこを踏まえて制作しつつ、「音が増えていく」というギミックを軸にしていきました。普段、全体でトラックの差分をつけるときは、一旦マックスのトラック数の楽曲を作って、どんどんミュートしていくという手法を取っているのですが、今回はそれぞれの段階にこういう曲調を、というリクエストがあったので、その手法を使うことができず、自分にとっても新しい経験でした。
――それを伺ったうえで改めて楽曲を聴くと、かなり意識する部分が変わってきそうです。
芳賀:あとは、イントロから違いを出す、というのも特徴ですね。そうしなければ、海域が進んだときに新鮮さがないように感じてしまうので。そのあたりの差別化についても、シンプルだからこそ結構考えるものがありました。
毛蟹:この1曲を1曲で表現しないという手法、どう考えてもJ-POPじゃ不可能だと思うんですけど、このアイデアをできれば一度試してみたいんですよね……(笑)。
――『地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃』に関しては、ここまでのイベントやシナリオでかなりの数手がけてきた“和風曲”という壁があったように思います。1.5部の時点で辛いという話を聞いていた(参考:『Fate/Grand Order』1.5部楽曲はどのように生まれた? TYPE-MOON・芳賀敬太に聞く)ので、改めてこの“和風の壁”に対して思うことは。
芳賀:そういう苦しさみたいなのは、とっくに乗り越えましたね(笑)。平安京が来ることは前々からわかっていたので、その後の期間限定イベント(『いざ鎌倉にさよならを ~Little Big Tengu~』)とも含めた和風の大きな山を越える覚悟はしていました。制作前に武内(崇/TYPE-MOON代表)と「取っておいたものもいったん出し切るね」と確認をお互いにとって、挑む形になりました。
――では和風楽曲の制作においては、ここが渾身のポイントだったんですね。
芳賀:そうですね。実際、直後の鎌倉イベは本当になかなか出てこなくて落とすかと思いました……(笑)。この平安京では、蘆屋道満という因縁の敵と決着をつけることもあり、長らくあたためていた「血風迅雷 ~羅刹王・髑髏烏帽子蘆屋道満戦~」という曲をついに使うことになりました。あとはTVアニメ『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』で牛若丸関連の曲を作ったときに、平景清という存在が出てくることは認識していたので、そこに向けた種蒔きをしていました。そこから派生して、景清のテーマとしての「業風 ~FGO~」や、源氏のテーマである「源氏進軍」ができていった、というわけです。
――なるほど。『平安京』はある意味で蒔いた種が実をつけ、それを“収穫”する時期でもあったと。
芳賀:「血風迅雷 ~羅刹王・髑髏烏帽子蘆屋道満戦~」に関しては、2020年の5周年ライブで毛蟹さんに「血風 ~BATTLE5~」をアレンジしてもらって、僕もそのために新規フレーズも用意しましたし、2人で作ったバージョンをさらに作り込むことで、リンボとの決戦に相応しくなると確信していました。
――はじめはもっとドロドロとしたシナリオや音楽を想像していたのですが、いざ終えてみると坂田金時の印象や最後のバトルのスケール感を含め、面白い部分も多々あった、ある意味意外なシナリオでした。
芳賀:リンボは敵でありながら、いろんな表情を見せてくれていて、ある意味親しみやすいキャラにもなっていますよね。それらが総じて面白い感覚につながっているのかもしれませんし、だからこそ彼を斬る曲が「血風迅雷 ~羅刹王・髑髏烏帽子蘆屋道満戦~」であるべきだ、と思いました。怖い曲ではなく。
――「血風迅雷 ~羅刹王・髑髏烏帽子蘆屋道満戦~」も「源氏進軍」もそうですが、アニメやライブ、コンサートなど、『Fate』関連ライブや『FGO』関連イベントから派生して曲を作り上げていく、というチャンネルの多様化が進んでいるように感じました。
芳賀:基本的には僕らとしては全部等しくひとつの塊として楽しんでほしいという思いがあります。ゲームはゲームだし、アニメはアニメという根本的な体感の違いは不可避とわかりつつ、それでも楽しんでほしいし、楽しんだ結果を形として残したいと思った時に、前に仕込んでいたものを回収させて欲しいとお願いしたり、仕込ませることを許してもらったりと、種蒔きをさせてもらっていて。『地獄界曼荼羅 平安京 轟雷一閃』に関しては、『FGO』の中で蒔かれた種も、ゲームの外側で蒔かれた種も等しく育った喜びが一番大きかったです。
――もちろん、全部みてるから偉いというわけではないのですが、色々見ているがゆえに繋がった瞬間に興奮するものは必ずあって。見ていてよかったと報われる感じも含めて、コンテンツが長く続いていることの意義を感じました。
毛蟹:そうですよね。「血風迅雷 ~羅刹王・髑髏烏帽子蘆屋道満戦~」の使われ方は、一人で勝手に胸が熱くなってしまいました(笑)。
――毛蟹さんといえば、今回はイベント曲での絡みも多かったですね。とくに期間限定イベント『サーヴァント・サマーキャンプ! ~カルデア・スリラーナイト~』については、毛蟹さんがある種のらしさを発揮したものだったと思います。
毛蟹:2020年の夏に関しては、今年は海ではなく山でキャンプだという話を伺ってまして。というより、それしか伺ってなかったんですけど(笑)。キャンプの音楽っていったいなんだろうと考えたり、芳賀さんと話していくうちに、軸になるのはカントリーだ、というところに落ち着いて。ちょうどそういったサウンドを追求していたタイミングもあって、アンプラグドなものでまとめてみました。
芳賀:本当は「Samba de Island~SUMMER BATTLE~」や「Dive to the Fes~SUMMER BATTLE 4~」、「ジングルゴングは鳴らされた」のようなヤバイ曲を作ってほしい気持ちもありますけど。作家生命を脅かすような曲を(笑)。まあそこはイベントそのものとの兼ね合いもありますから。僕自身、最近はみなさんの尽力でサポートいただいている部分もあるので、真に混乱して追い詰められた狂気が足りないんじゃないかと思う夜もあります。いずれ毛蟹さんの狂気も見せてほしいですね。
毛蟹:師匠から駄目出しが(笑)。
芳賀:みんな問題作を待っているはずだから、それに巻き込みたいなと思っています。
――『サーヴァント・サマーキャンプ! ~カルデア・スリラーナイト~』は、「偽りの輪廻 ~FGO~」や「二人の王 ~FGO~」といった、ファンなら唸る楽曲のアレンジがありました。
芳賀:発注会議のときに「偽りの輪廻」をと言われてそのまま作ったんですけど、変えられるところがあまりなくて自分でも驚きました。逆に「二人の王」はしっかりと時間が経ったブラッシュアップをお届けできたと思います。
――あとは、先ほど「狂気」という話もでましたが、今回だと『超古代新選組列伝 ぐだぐだ邪馬台国2020』、いわゆる恒例の“ぐだぐだ”イベントで狂気的な楽曲が生まれましたね。
芳賀:ぐだぐだ関連は、誰になんと言われようと勝手に格好いい曲を作るというテーマが強くて、夏と違う意味での問題作といえる「明鏡肆水 ~光と闇の狭間に~」が誕生しました。僕が毛蟹さんに求める狂気のヒントになるかもしれませんね(笑)。
毛蟹:そうなると、やはり“脳筋”で作るのが良い気がしてきました(笑)。まずガチガチに作って、サンバホイッスルを入れて、リズムを太鼓にしたり。普通組み合わせないものを合体させていくと、どんどん問題作に近づきそうです。
芳賀:誤解しないで欲しいのが、問題作といっても、「明鏡肆水 ~光と闇の狭間に~」は曲としてはすごく格好いいですからね。まさに、これぞ毛蟹という。
――そろそろ全体の総括に入ろうと思うのですが、『FGOオーケストラ』やアニメ『FGO』、劇場版『FGO』、『月姫 -A piece of blue glass moon-』など、芳賀さんのなかでも節目と呼べるイベントや出来事が多い数年になっていると思います。改めて、これらの大きな流れを振り返ってみていかがでしょうか。
芳賀:一つひとつのことは本当に大きいものですし、それぞれの瞬間で感動を味わうことができました。ただ、どうしてもそれを噛みしめる時間だけはなくて。表面上は次に追われ続けているという形なのですが、どこかのタイミングで実はしっかり吸収されていて、また違うタイミングで楽曲に現れてくる、というサイクルを繰り返しているように思います。それでも、第2部 第6章を駆け抜けたことは自分にとって大きな自信となっていて。一つのシナリオが終わるたびに「自分にはもう作れない」という焦燥感に駆られるのですが、最近はもっとゆったりした気持ちーー「ただ目の前のことに集中すればいいんだ」という境地に至っているような気がします。
――ご自身のなかに俯瞰的な視点が生まれた、ということでしょうか。
芳賀:そうなのかもしれません。第2部 第6章で心身共にボロボロになってしまい、2021年の夏イベント(『カルデア・サマーアドベンチャー! ~夢追う少年と夢見る少女~』)の制作時期はかなり苦しかったです。うっかり間違ってどこかで第2部 第6章の曲が耳に入ってしまうと、それだけで引き戻されてしまって、ほかの曲を作れる状態じゃなくなる、というくらいでした。今回のサウンドトラックをマスタリングしたことで、ようやく心身ともに癒えたような感覚がありました。
――気の早い話ではありますが、第2部 第6章がアニメなど、何かの形で再び表に出る時は、またしても試練のタイミングとなりそうですね。
芳賀:そうですね……。いまは自分も含め、第2部 第6章の曲は誰にも触れられたくない、ただ見つめることしかできないという気持ちなので、もしそんな時が来るならば、その時までには乗り越えないといけませんね。
毛蟹:そういう意味でも、僕自身ももっと「僕の中の芳賀さん力」を掘り下げながら、自分の「良さ」みたいなものとも向き合いつつ、もう少しだけ苦しんでいる時の芳賀さんを支えられたらな、と思います。
――おお!
芳賀:それはすごくありがたいですね。第2部自体ここからが終盤で、何が待っているのか僕も分からない状態。ですので、本当に心強いです。
■商品概要
『Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅴ』
発売日 :2021年12月22日(水)
価格 :4,180円(税込)
仕様 :全3枚組
初回仕様特 :三方背ケース
※商品の特典および仕様は予告なく変更になる場合がございます。
■店舗別購入特典
対象店舗にて「Fate/Grand Order Original Soundtrack Ⅴ」をお買い上げのお客様に、
先着で「マイクロファイバーミニタオル」をプレゼント。
ANIPLEX+:アルトリア・キャスター
アニメイト:蘆屋道満
とらのあな(一部店舗除く):渡辺綱
タワーレコード(一部店舗除く) :坂田金時「平安武者装束」
楽天ブックス(【楽天ブックス限定特典】付きカートのみ対象):モルガン
ソフマップ(CD取扱店及びドットコム):妖精騎士ガウェイン
ゲーマーズ:妖精騎士トリスタン
TSUTAYA RECORDS(一部店舗除く・オンライン含む):パーシヴァルAmazon(【Amazon.co.jp限定】商品のみ対象):妖精騎士ランスロット
※店舗ごとにデザインが異なります。
※特典は無くなり次第終了となります。
※詳しくは各店舗にお問い合わせください。
応援店舗特典:B2発売告知ポスター
対象店舗:HMV、セブンネットショッピング、ネオ・ウィング、メロンブックス、ヨドバシカメラ(音楽ソフト取扱店のみ・ドットコム除く)、WonderGOO/新星堂
※ジャケット絵柄を使用したポスターになります。
※特典は無くなり次第終了となります。
〈トラックリスト〉
【Disc1】
1.幻日(Vocal:ハンナ・グレース)
2.虚数大海戦:イマジナリ・スクランブルⅠ
3.虚数大海戦:イマジナリ・スクランブルⅡ
4.虚数大海戦:ショップテーマ
5.虚数大海戦:イマジナリ・スクランブルⅢ
6.虚数大海戦:イマジナリ・スクランブルⅣ
7.ノーチラス浮上せよ
8.The Golden Path(Vocal:Doul)
9.地獄界曼荼羅:平安京 ~陽~
10.天覧の儀
11.轟雷一閃 ~BATTLE 13~
12.昏き陽の下に ~天覧死合舞台~
13.地獄界曼荼羅:平安京 ~陰~
14.業風 ~FGO~
15.災いのカミ
16.源氏進軍
17.血風迅雷 ~羅刹王・髑髏烏帽子蘆屋道満戦~
【Disc2】
1.躍動-GAME size-(Vocal:坂本真綾)
2.はじまり~妖精円卓領域:アヴァロン・ル・フェ
3.妖精たち
4.咎人たち ~BATTLE 14~
5.選定の槍 ~FATAL BATTLE 5~
6.予言の旅~妖精円卓領域:巡礼
7.冬の玉座
8.Black Prominence ~妖精騎士ガウェイン戦~
9.冬の記憶
10.戦火に~妖精円卓領域:動乱
11.燃えた絵本 ~ロンディニウムの騎士戦~
12.Scarlet Dancer ~妖精騎士トリスタン戦~
13.楽園の妖精~妖精円卓領域:決戦
14.Azure Luster ~妖精騎士ランスロット戦~
15.トネリコ ~女王モルガン戦~
16.戴冠式~妖精円卓領域:崩壊
17.希望の地:アヴァロン
18.境界 ~炎の厄災~
19.魔犬 ~獣の厄災~
20.夢幻 ~呪いの厄災~
21.星の生まれる刻
22.おしまい~妖精円卓領域:O・ヴォーティガーン
【Disc3】
1.サーヴァント・サマーキャンプ!:マップテーマ ~昼~
2.Lakeside Country ~SUMMER BATTLE 6~
3,サーヴァント・サマーキャンプ!:ショップテーマ
4.サーヴァント・サマーキャンプ!:マップテーマ ~夜~
5.偽りの輪廻 ~FGO~
6.スリラーナイト
7.サーヴァント・サマーキャンプ!:マップテーマ ~真~
8.デンジャーナイト
9.二人の王 ~FGO~
10.聖杯戦線:メインテーマ
11.聖杯戦線:ショップテーマ
12.聖杯戦線:編成
13.聖杯戦線:戦闘
14.聖杯戦線:勝利
15.聖杯戦線:敗北
16.明鏡肆水(Vocal:KOCHO)
17.ぐだぐだ邪馬台国:マップテーマ
18.稀人来たれり
19.ぐだぐだショップ大炎上 ~鏡~
20.刃の影
21.明鏡肆水 ~光と闇の狭間に~
22.壬生狼
23.Frozen Hope(Vocal:SAYA)
24.いざ鎌倉にさよならを:マップテーマ
25.いざ鎌倉にさよならを:ショップテーマ
26.天狗風
27.アキハバラ・エクスプロージョン!:ショップテーマ
28.私の銀河(Vocal:謎のアイドルX〔オルタ〕(CV:川澄綾子))
©TYPE-MOON / FGO PROJECT