連載:mplusplus・藤本実「光の演出論」(第三回)
リアルタイムでLEDに映像転送するシステムが誕生 光の演出とハードウェアの進化史
「制御できるLEDが200個から1000個になっても予算は増えない」
――柳沢さんの中には藤本さんからもらった実現したいことリストみたいなものがあって、いまだったらこれができるということから叶えていく、というやり方を取っているんですか?
柳沢:なにか言われたときには「こうしたらできるだろうな」というのが自分の中にあるんですが、「この部分はカスタムで作らなきゃいけないだろう」という部分があって、そこのコストが高くなると保留になるんです。そして、そこにピタっとはまる製品が見つかると、突然できるようになるんです。
――お2人の関係性に信頼感みたいなものが積み重なってきたことで、藤本さんは「これはちょっと無理かもしれないけど」みたいなことも話すようになったんですか。
柳沢:いや、最初からですよ(笑)。
藤本:「ちょっと一瞬いいですか」と言いながら、3時間くらい自分の構想を話し始めたりするんですよ。
柳沢:聞いていて、どのあたりが最も重要視しているポイントなのかが分からないときがあって。軽いのがいいのか、光るべきなのかなど、譲れない部分から考えていって、そのあとの部分はどこまで妥協できるかを整理して、アイデアとしてストックすることが多いです。
藤本:だから常にいろんな無茶を言い続けて、頭のなかにいろいろ溜めてもらって、2〜3年後にプロダクトとして着手することが多いです。今回のシステムもそういう形からスタートして、ようやく実現したんです。
ーー柳沢さんが、藤本さんから言われて一番「無茶だな」と思ったことは?
柳沢:やっぱり「予算がこれくらいしかないけど……」と言われることじゃないですかね……。
藤本:(笑)。そこまで大きな金額があるわけじゃない、だけどなんとかできませんか、というのは定期的にお願いしていますね。
柳沢:すでにある技術でデバイスを大量生産する分には問題ないのですが、新しい物を作るときにお金がないのは辛いですね。開発費がないというよりは、どちらかというとクライアントからの欲求が厳しいことが多いです。開発と演出でいえば、クライアントは演出にお金を払っているわけで、別に開発にお金を払っているわけではないので、こちらが先に投資しないといけないんです。
藤本:制御できるLEDが200個から1000個になりますといっても、クライアントが予算を増額してくれるわけではないですからね。1000個になったから服に映像がでます、と演出ベースで何が変わるかを目で見て理解してもらって初めてOKが出るので。
――実際に見せたら理解はできるけど、開発前に出すことはできないと。難しいところですね。
藤本:そうした結果ライブがうまくいっても「ハードウェアがすごい」とはならなくて、演出の方を褒めていただいたりするのがほとんどですからね。あと、作ったハードウェアに対する考え方の違いもあると思います。クライアントが思う「動ける」と僕らが思う「動ける」が違うとか、そういう違い。「丈夫」というのは、iPhoneみたいに何回か落としても大丈夫かどうかというくらいハードルが高かったりする。
柳沢:放り投げるくらいみんな普通だと思ってるんですよね。そのくらいでは壊れないと(笑)。
――そこを前提で開発しなければならないというのは、頭が痛いと思います。
藤本:貸してほしい、販売してほしいという依頼は国内外から問い合わせがかなり来ているのですが、ここまで話した理由で販売はできないんですよ。
柳沢:大きな会社で同じようなものを作ろうとしたら、いろんな要求を満たさなければならないので、重くて使えないものにしかならないと思います。小さい会社はその逆で、体力がなくて大きなイベントに対応できないかもしれません。
――そのちょうど間にいるmplusplusは、ある意味特異であり唯一性を持っているということですね。
藤本:それは、僕らがエンタメの演出を専門にしているから成り立っていると思っています。クリエイティブチームとして色んなことをやっていて、LEDも光らせますよ、というスタンスだと絶対に成り立ちませんから。