時代遅れの良作『ダンジョンエンカウンターズ』が感じさせる“ゲームカルチャーが失ってしまったもの”

 10月14日、スクウェア・エニックスより完全新作のタイトル『DUNGEON ENCOUNTERS』(以下、『ダンジョンエンカウンターズ』)が発売となった。

 シンプル過ぎると言っても過言ではない、ミニマルなゲームデザインが目を引く同タイトル。インプレッションと評価から感じたゲームカルチャーへのメッセージを考える。

プリミティブな設計思想をもとに開発されたミニマルなDRPG

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 『ダンジョンエンカウンターズ』は、シンプルなゲームデザインを突き詰めたダンジョン探索型のRPGだ。プレイヤーは、レベルアップや装備の新調、アビリティの習得などによってキャラクターを強化し、より深いダンジョン階層の踏破を目指す。タイル状のマップには、パーティーの回復や各種ショップ、敵とのバトルなどが数字で表示され、そのパネルを踏む(あるいは、調べる)たびに、数字に対応したイベントが発生する仕組みとなっている。プリミティブ(「根源的」「原形」といった意味を指す)な設計思想に基づき、演出やビジュアル表現を抑えている点が特徴の、古き良きRPGらしいタイトルだ。

 開発は『デモンゲイズ エクストラ』などのタイトルで知られるディベロッパーのキャトルコールが、発売をスクウェア・エニックス(以下、スクエニ)がそれぞれ担当。バトルには、スクエニの代表作である『FINAL FANTASY』シリーズから、「アクティブ・タイム・バトル(ATB)」システムも採用されている。両者がこれまで積み重ねてきた経験をいかして制作された新規IPが、『ダンジョンエンカウンターズ』だと言えるだろう。

 対応ハードは、PlayStation4/Nintendo Switch/PC(Steam)で、価格は3,520円(税込)。各ストアでは、早期購入特典として、10月末(※)までの20%ディスカウントセールが実施中だ。

※PlayStation Store、My Nintendo Storeが10月28日23時59分まで、Steamが10月30日0時59分まで。

なぜ『ダンジョンエンカウンターズ』は2021年に発売された? 評価から見えてきたゲームカルチャーへの問題提起

 一見しただけでは、“時代遅れ”のようにも感じる『ダンジョンエンカウンターズ』のゲームデザイン。いったいなぜこのようなタイトルが、2021年という家庭用ゲーム機が大きな表現力を備える時代に発売されたのだろうか。その理由を考えるとき、触れておかなければならないのが、同タイトルの魅力についてだ。私は『ダンジョンエンカウンターズ』の魅力が、“原点回帰”のゲームデザインにこそあると考える。

 昨今のゲーム業界では、自由度やアクション性、マルチプレイ、演出・ビジュアル面における表現の精緻さ・派手さが新規タイトルの必須項目とされ、これらの条件をクリアした作品が多く誕生、注目されてきた。こうした“現代ゲームカルチャーの本流”に対し、『ダンジョンエンカウンターズ』のゲーム性は、真っ向から対立する。

・ほぼ一本道の代わり映えのしないマップをひたすら潜る
・アクション性は皆無
・思考力を頼りに敵・味方のステータスの数字をぶつけ合う
・完全シングルプレイ
・演出、ビジュアルにおける表現は最低限

 と、おおまかに挙げただけでも、時代に逆行する作品であることがわかるだろう。

 しかしながら、ゲームとしての面白さでは、同タイトルも負けてはいない。もちろん好き嫌いのわかれるジャンル・システムであるため、プレイヤーを選ぶのは確かだ。実際にSteamのタイトルページについたレビューでは、高評価・低評価が入り乱れていることを示す「賛否両論」という総評に分類されている。

 とはいえ、この評価は、ファッション的な成分を含む「自由度」「アクション性」「マルチプレイ」「演出・ビジュアル面における表現力」を除いた、“本質的なゲームシステムだけ”で獲得したものでもある。これだけのトレンド要素を捨てても、約65%のプレイヤーが高評価としている(Steam内/2021年10月22日時点)のだから、その面白さは折り紙付きであると言えるはずだ。

 2021年という家庭用ゲーム機が大きな表現力を備える時代に、このようなシンプルなゲームデザインを持つタイトルが発売され、一定の評価を獲得していること。この点に私は、ゲームカルチャーに対する問題提起を感じてしまう。

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