真実を表現しヒーリングするJagwar Twinのサウンド

連載「音楽機材とテクノロジー」第8回:Jagwar Twin

日本でバイラルヒットとなったLAのアーティスト・Jagwar Twinインタビュー 「自分の真実」でヒーリング効果をもたらすサウンド作り

「表現」をする最低限のツールは、誰もが既に持っている

ーーJagwar Twinのサウンドに欠かせないプラグインを選ぶとしたら、どれでしょうか?

JT:僕はSoundtoysをたくさん使用するよ。多分その中でも「Decapitator」を最も使用しているよ。

ーー「Decapitator」とはどのような効果をもたらすプラグインですか?

JT:基本的にはディストーションだよ。「Punish」というボタンがあって、それを押すと「グシャアア」って凄い感じになるんだ。ドラムのバスとかにかけて、クランチーな感じにするのが好きなんだ。ボーカルにかけてもクールだね。正直にどんなトラックにかけても、クールになる。ちょっとだけかけるとかね。とてもいい感じにサチュレーションがかかるよ。Soundtoysは他にも素晴らしいプラグインをたくさん出しているよ。「Echoboy」とか「Primaltap」とかも素晴らしいよ。

ーー私は自分の声はなるべく自分でミックスしたい派なのですが、Jagwar Twinも自分の声において「これは欠かせない」みたいな機材ってありますか?

JT:そうだね。自分が好きなチェインはあるけど、エンジニアの人とか、Matt Paulingのボーカルチェインを使用することも多いかな。個人的に、自分のボーカル関連の機材としてかなり気に入ってるのは「Shure SM7」だね。シンプルだし、持ち運びもできるし、曲によるけど高価なマイクよりもこっちを使うときもある。


ーーSM7はダイナミック・マイクですけど、レコーディングやラジオで使用している人が多いイメージです。かなり良いマイクですよね。

JT:そうなんだよ! しかも安い。ずっとSM7を使っていたから、去年高価なマイクを買ったんだけど、結局SM7のほうが好みだったから高価なマイクは返却したんだ。

ーーSM7のどのようなところが好きですか?

JT:自分の声は結構ソフトというか、綺麗な声をしていると思う。強く歌おうとしても、そこまで強くならない。SM7はそんなにクリアではないんだけど、自分のソフトな声でも少しロックっぽい感じになるんだ。超クリアなマイクでソフトに歌うと、完全にR&Bっぽい感じになる。もちろん曲によってはクリアなマイクを使いたいときもあるけど。SM7は本当に何にでも使える。ベースキャビネットとかバスドラに使用しても全然いい感じになる。もし1つしかマイクを所有してはいけなかったら、確実にこのマイクだね。

ーー特殊な機材の使い方をした楽曲とか、あまり他の人がしていない方法で制作した楽曲ってどのアーティストにもあると思うのですが、Jagwar Twin的には、そのような「作り方が特殊」な楽曲ってありますか?

JT:多分ありすぎて1つだけ思い浮かべるのが難しいな。1つあげるとしたら「Happy Face」かな。あれは小さい頃から家にあったメロディカ(鍵盤ハーモニカ)を使用したんだ。しかもただレコーディングしたんじゃなくて、Matt Paulingと遊んでいるときにiPhoneのボイスレコーダーで録った音源をそのまま使用したんだ。

ーーiPhoneのマイクって実は結構いいですよね。なんか独特のコンプレッションがかかってる感じがあって。

JT:実際、僕はiPhoneのマイクをかなり使うよ。家にスタインウェイのピアノがあるんだけど、それをiPhoneでレコーディングするのが好きなんだ。他のマイクにはない、ザラザラした感じが出る。あと「Happy Face」に関してはベースも実はベースじゃなくて、ギターで弾いてピッチをオクターブ下げたんだ。しかもドラムは21 PilotsのJosh Dunが叩いた。

ーーJagwar TwinからはTwenty One Pilotsからの影響を感じます。

JT:彼らは私達の世界と世代において、かなり大きなインパクトをもたらしたアーティストだと思う。Joshのドラムもかなり独特だし。彼らの歌詞も、世界に必要なものだった。

ーーメロディカは普段からプレイしているのですか?それともランダムに使用してみたという感じだったのですか?

JT:昔から持ってはいたけど、日常的に演奏してはないかな(笑)

ーーミュージシャンって昔から家にある、たまーにプレイしてみる楽器ってありますよね。私の家にはオカリナがあって、たまに吹いてます(笑)

JT:『ゼルダの伝説 時のオカリナ』をプレイしたことある?

ーーもちろん! 今でも日常的にNintendo 64のゲームをやっていますよ!

JT:N64は今でも僕が唯一プレイするゲーム機だよ。『時のオカリナ』と『ムジュラの仮面』は本当に名作だ。あのゲームには世界の真実が多く隠されている。

ーー今は持っていて、昔持っていたらよかったのに、と思う機材などはありますか?

JT:うーん。機材は特にないかな。唯一「昔から持っていたら良かったのに」と思えるものは、「自身への理解」だな。実際ガレージバンドだけでも、テープレコーダーだけでも、「自分の真実」や「自分の視点」を伝えることができれば、素晴らしい作品は作れる。テックのインタビューなのにこんな答えになってしまったけど。でももちろんパソコンとかは必要かもしれない(笑)。

ーー私も個人的にはそう思います。もちろん機材はあったほうがいいけど、歳を重ねて、色々なものを経験するうちに、「表現」するのにあまり多くのものはいらないということを思うようになりました。もちろん機材はあったほうがいいけど。

JT:そうなんだよ。今まで最高峰のエンジニアとかプロデューサーたちと仕事をしてきたけど、皆そう言っている。機材はあったら最高だけど、ツールでしかない。ツールに自分を利用されてはいけない。そうやって、表現が死んでいくアーティストたちを見てきたし、自分の死が見えたときもあった。機材で何ができるのかにフォーカスしすぎて、自分のなかにあるものを見失っていたときがあった。「この機材をゲットさえすれば良くなる」とか思

っていたときもあった。「この機材を使っていないから作品がよくならない」とか、「こういうサウンドではないから、人々に気に入られない」とか思っていた時期もあった。

ーー映像ついてもお聞きしたいです。Jagwar TwinのMVは、私の作品と親近感があると思っていたのですが、ご自分でディレクションされているのですか?それとも映像チームがいるのでしょうか?

JT:例えば「Happy Face」とかは、自分が持っているリソースを使ってベストなものを作るということを象徴していると思う。この自粛期間中に、メジャーレーベルとの契約が解消になったんだ。メジャーのマネージメントもなくなって、そういう大きなチームがない状態になった。それまでは、成功するには予算と大きなチームが必要だと思っていたんだけど、自分が表現したいことを表現するのに、それらは必要ないんだ。自分とパソコンと、友達しかいなかった。だからインターネットに転がっている、自分が伝えたいストーリーを象徴する映像でMVを作った。グリーンスクリーンでただサイケな素材を使うこともできるけど、そうではなくて自分の表現したいストーリーや世界の現状を表現する必要がある。もちろん僕の視点が皆の視点なわけではないけど。「Happy Face」での成功を経て、「I Like To Party」では少し予算が増えた。まだ少ないけど、ディレクターを雇うことができるようになったし、友達にも出演してもらった。そうやって、自分が持っているツールを最大限に使うことが重要なんだ。「表現」をする最低限のツールは、誰もが既に持っている。

ーー私は昔のビデオカメラにハマっていて、最近もSonyのPC-100を買ったのですが、Jagwar Twinのビデオでも似たようなヴァイブスを感じました。そのような昔のカメラって使用していますか?

JT:うわーそれはスケボーとかのヴァイブスのカメラだね!実際に「Happy Face」とか「Down To You」では、そういうカメラ使ってるよ!親が持っていた8mmのビデオカメラで撮ったカットを少し使用している。共通点がたくさんあるね(笑)

ーーアップカミングなプロデューサーにアドバイスをするとしたら、どのようなことを伝えますか?

JT:何度も言っていることになってしまうけど、自分の真実を知って、それを伝えよう。「他の人がどうしている」とかに拘りすぎないで、自分が伝えたいことを理解しよう。「そもそもなんで音楽を作りたいのか?」を理解するのが大切かもしれない。本当に難しい質問だけど、重要な質問だ。「単に好きだからやっている」のもいいけど、誰もが世界に対してユニークな視点を持っているなか、アーティストはその視点をシェアする機会があるんだ。そうやって人々の意識を広げる機会がある。「お金のためにやっている」という人もいるかもしれないけど、正直経済的に成功しているアーティストたちこそ「自分のなかの真実」を伝えていると思うし、だからこそ多くの人が共鳴している。

ーーありがとうございます。日本で会える日を楽しみにしております!

JT:是非日本に行ってライブをしたいよ!

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