オンラインで加速する“中国ストリートダンス”の熱狂 日本との違いをAcky&ディエンメンに聞く

 「中国ではここ数年、ストリートダンスブームが続いている」という話題は以前、こちらの記事で紹介した。(参考:バトル番組をきっかけに“中国ダンスブーム”が到来 ダンサーが日本でレッスンを受けることも主流に)その火付け役となったのは、ストリートダンスのバトル番組『这!就是街舞(Street Dance of China)』だ。2018年に放送がスタートし、今年でシーズン4を迎え、現在、絶賛放送中。一対一のバトルだけでなく、テーマにあわせて作品を制作するチームバトルも盛り込まれており、個人のダンス力だけでなく、協調性や芸術性も試される大人気の番組だ。

 去年取材した番組のアーティスティック・ディレクターの方俊(ファン・ジュン)が予告していたように、今シーズンは初めて世界各地から多数のストリートダンスの強者たちを招聘している(参考:中国ストリートダンスブームを牽引するバトル番組 “ゴッドファーザー”的存在のディレクター&注目ダンサーに現状を聞く)。なかでも、日本からの参加ダンサーの数は約20人と一番多く、スキルの高さ、勢いのある表現などが評価されている。

Acky(写真:『这!就是街舞』 Weiboより)

 番組を見てみると、最年長47歳のポップダンサーAcky(アッキー)こと北村彰英に対する番組参加者からの驚喜の眼差しが印象的だ。中国の参加ダンサーをはじめ、リーダー役の中国の芸能人からも「巨匠が参加してくれるなんて!」といった感じで慕われている。ダンス歴26年、日本の老舗ダンスバトルイベント『OLD SCHOOL NIGHT』では、2000年から2017年の間に7回の優勝という歴代初の快挙を持つ。中国各地で開催されてきたダンスバトルにも参加し、講師として中国人ダンサーを指導するなど、長年、中国との縁が続く彼の存在は、中国のダンス界ではレジェンドとして慕われるほどなのだ。

 そして、番組を追っていくと、そのアッキーの隣に常に寄り添う中国人ダンサーの存在に気づく。昨年取材した、ポップダンサーの電門(ディエンメン)だ。実は、彼とアッキーとの交流は10数年にも及ぶ。ディエンメンは10数年前から、大阪を訪れてアッキーのレッスンを受けるなど、彼との交流を続けてきた。今回、数カ月にわたり共同生活を送りながら番組収録を進めている彼らに、番組や中国と日本のストリートダンスの現状など、興味深い話を聞いた。

大阪を訪れた電門(ディエンメン)(写真提供:ディエンメン)

 「“最後のチャンス”だと思ったんですよね。まだ身体は動くけれど、年齢的にこのような番組に参加するチャンスはこれで最後だろうなと。今回、番組に参加することで、日本の若いダンサーに次のチャンスを繋げられたらとも思ったんです」。番組参加の決定的な決め手は? という問いに対し、アッキーはこのように強く語った。47歳でも新たなチャレンジに挑み続けている、その姿を日本のダンサーに証明することで、次にバトンを繋げたいということなのだ。

 コロナ禍以前から徹底的に身体づくりを続けていたところ、番組から声がかかった。「私が過去に参加した日本の番組は、その日のうちに収録が終わるというものでしたが、今回は、約半年続くと聞いていました。ダンサーたちと共同生活を送り、練習、リハーサル、収録の日々が続くと」。体力勝負の約半年。身体づくりをしていたのも、何かの縁だと思った。中国のダンサーをはじめ、各国から参加しているダンサーたちとここまで長時間一緒に過ごすことは、後にも先にもこれが初めてだという。

『这!就是街舞(Street Dance of China)』 シーズン4  Ackyチーム ベトナムから参加のダンサーとも一緒に作品をつくった (写真提供:ディエンメン)

 アッキーと10数年の付き合いがあるダンサーのディエンメンにとっても、今回、海外ダンサーと過ごした日々は特別だったようだ。2018年のシーズン1、去年のシーズン3への参加経験もあるディエンメンは、番組常連ダンサー。「徹夜でレッスン、リハーサル、収録というのはこれまでと変わらないのですが、海外の巨匠たちと一緒に作品を作り上げて発表できたことが一番印象的ですね」。

『这!就是街舞(Street Dance of China)』 シーズン4 ポップダンサーたちと (写真提供:ディエンメン)

 参加ダンサーのほとんどが、各国各地で開催されるバトルに参加する、バトル出身ダンサー。各自の専門のダンスジャンル以外は踊ったことがない状態で番組に挑む。今回の番組の魅力の一つが、国を越えて、言語を越えて一つの作品を作り上げ、発表するという緊迫感と達成感を見せているところだ。作品のテーマを共有するところからはじまり、言語の問題から直接やり取りできないもどかしさを越えて、互いの意見をぶつけ合い、同じ方向を向いて作品に仕上げる。見ているこちら側にも、その焦燥感が伝わる。そして、本番にミスすることなく発表を終えたとき、見ている私たちの気持ちをぐっと掴み、感動すら覚える。

「Street Dance of China 4 EP5」

 今回、アッキーを取材するにあたり、彼に関する情報を振り返った。そのなかで、2017年に彼が自身のSNSに投稿したコメントが話題になっていたという情報を見つけた。

「踊りに遊びのない人が多いように感じています。めっちゃくちゃ技術は上手いんですけどね」

「DANCEもオンビートで踊るからこそ、自然と色んなリズムや表現、アドリブが出てくるんやと思います」

「このままDANCEって廃れていくんかなぁ〜って思う時もあります」

 あくまで一部分を抜粋したものに過ぎないが、当時、アッキーが日本のストリートダンスに懸念を抱いていたことが分かる。一方、2018年から始まった『这!就是街舞(Street Dance of China)』の中国のダンサーが楽しそうに音楽に合わせて踊っていたり、アドリブで絶妙なフリを入れる姿を見ると、アッキーが懸念している要素は中国のダンサーには当てはまらない?と思ってしまった。そのことを彼に伝えると、「私もそのことはずっと感じていました。中国のストリートダンスの歴史はまだ浅いので、日本と比べると自由度はあるのかもしれないですね。私たちは“これはダメ”とか固定観念があるんですが、中国のダンサーにはそういう部分は見られません」。

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