煮ル果実&はるまきごはんに聞く、“異色のボカロPコラボ”実現の裏側 「ボカロ文化はもっと広まって強くなって欲しい」
12名のボカロPによる“コラボ”コンピレーションアルバム『キメラ』が、10月15日にリリースされる。
あみだくじ方式で決定したペアで制作した7曲に加え、ナユタン星人の「ダンスロボットダンス」をベースにアレンジした「ボカロPが9人集まってダンスロボットダンスアレンジメドレーしてみた」にキメラのメンバーを新たに追加して完成させたフルサイズバージョンの「ダンスロボットダンスアレンジメドレー(キメラver)」の全8曲を収録した今作。ボカロPの銘銘がボーカリストとして愛用する個性あふれるボーカロイドの歌声による化学反応も強く印象に残る作品だ。
今回、主催者である煮ル果実、はるまきごはんにインタビュー。二人の出会いから、今作の制作話、来月開催されるボカロ文化の祭典『The VOCALOID Collection(ボカコレ)』の醍醐味、ボカロシーンへの想いまでを幅広く聞いた。(小町碧音)
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「今はボーカロイドに人間と同じように感情を感じられるものがあるような気がしている」(煮ル果実)
――まずは、お二人の出会いのシーンから教えてください。
はるまきごはん:自分の2回目のワンマンライブの後、ボカロPのみんなでご飯に行ったときに、果実さんもいて。そのときは、そんなに話せなくてまだ他人行儀だったんですけど、そこから別のコミュ二ティのご飯に呼ぶようになって。
煮ル果実:好きな音楽とかを話すようになってから、仲良くなった気がする。
はるまきごはん:そうそう。果実さんは住まいが遠いこともあるので、今では、果実さんが東京に来るのをきっかけに、みんなが集まるみたいなリズムができていますね。
――それぞれの音楽を通した最初の印象はどのようなものでしたか?
はるまきごはん:果実さんは、ほかのボカロPと絶対重ならない独自性を持っている人なんだろうなと思ってました。僕も決して読みやすい返事をするようなタイプじゃないんだけど、返事が読めない系というか。割と今もそのままの印象です。
煮ル果実:はるまきさんの音楽は、僕が作る音楽とは全然違う一方で、多分僕が好きな音楽を好きだろうなという核心はあったんです。表層的には、可愛らしい世界観を作る方だとは思ってましたけど、曲を深く聴いていくと、そのなかに寂しさみたいな感情が見えてる気がしてきて。実際に出会ってみるとすごく話しやすかったです。しかも僕が思ってた通りに好きな音楽が似ていたし、何にでも幅広く興味を持つところも似ていました。
――煮ル果実さんは、はるまきごはんさんとの共通点を感じられていたんですね。
はるまきごはん:僕は、逆に全然違うものを好きなのかなって思ってた。いまだに同じものを好きだけどそれに対しての解釈の仕方とか捉え方は違うのかなって思うときはある。なので、今回の『キメラ』でもそういう部分が生きてきていて。「運命」で、果実さんは自分では思いつかないような、めっちゃいいフレーズ、楽器、歌詞、メロディーを入れてくれたんです。それって結局好きなものが理解し合えている二人だからこそ実現できたことだと思うんですよ。
――『キメラ』は何をきっかけに制作することになったんですか?
煮ル果実:きっかけは、ナユタン星人さんの「ダンスロボットダンス」をボカロP9人のそれぞれがフレーズごとにメロディーとボーカロイドの歌声をアレンジした「ボカロPが9人集まってダンスロボットダンスアレンジメドレーしてみた」ですね。コロナ禍で空気が重たくなってるところを僕とはるまきさんで明るくしたかったので、祭りみたいなもので和ませたいねと話していたんです。そこからいろいろと進めて、Twitterで動画をいざ発表してみるとすごい反響があって。楽しかったし、またそれの延長で何かができたらいいねと話をしていて、『キメラ』に繋がっていきました。やっぱり明るさだったり、わかりやすさだったりの共通文脈が、ナユタンさんの曲にはあると思うんですよね。
――ファンの方々からの反応を見て感じたことはありましたか。
はるまきごはん:みんな、意外とボカロPに対しての印象を言語化して楽しむ機会を求めていたんだなと感じました。例えば、「はるまきごはん→夢の案内人、煮ル果実→現実的な映画監督……」と参加したボカロPにキャラクターをつけたコメントが伸びてて、1万いいねがされていたんですよ。まさかここまで反応されるとは思ってなかったので嬉しかったですし、ボカロを使って曲を作っている人じゃなくて、一人ひとりをちゃんと見てくれる時代になったんだなとすごく感じました。
――『キメラ』のラスト曲にも、「ダンスロボットダンスアレンジメドレー(キメラver)」が収録されていますね。そして、「フランケンX」「運命」の2曲は、お二人による共作です。
はるまきごはん:僕らは主催者ということもあり、固定ペアとして一緒に最初の曲と最後の曲を作ることにしました。「フランケンX」は果実さんがベースになって、僕が参加した曲で、「運命」は、その逆なんですよ。2曲それぞれには別の方向性を与えるような制作スタイルにしました。
煮ル果実:お互いの個性がほかの人たちの曲では5対5でぶつかってるとしたら、僕らの曲ではどっちかの比準が多くて。だから全然違うものになったし。
はるまきごはん:シンガーさんたちだと1曲を二人で歌うなどコラボのしやすさはありますが、ボカロPは曲を作る前提なので、普段コラボをする機会があまりないんですよね。コラボを見てみたい欲は、僕も果実さんも含めてボカロPのみんなにもなんとなくあったはずなので、今回、コンピという形で満たせたんじゃないかなと思います。
――たしかに「フランケンX」は煮ル果実さん、「運命」ははるまきごはんさんの楽曲の色が強く出ていました。また不思議なことに、今作でボーカルを務めるのはボカロPさんがそれぞれ愛用しているボーカロイドですが、例えば、煮ル果実さん中心に制作された「フランケンX」だったら、v flower。まるで煮ル果実さん自身が歌われているかのようにも聴こえたんですよね。
煮ル果実:僕個人としては、正直そういったように思ってもらえることを目指しているところはあります。ボーカロイドに感情が入るのかという問題が昔からあると思うんですけど、感じる人はちゃんと感じるんですよ。これから変わっていくかもしれないけれど、今はボーカロイドに人間と同じように感情を感じられるものがあるような気がしているんです。それが僕の思っているボーカロイドの可能性の一つなのかもしれないし。でもボーカロイドはボーカロイドで機械っぽさがあるからこそ泣けることもあるから、完全に人間にはなってほしくないですね(笑)。
――今作は、ボーカロイドがボカロPさんの個性をこんなにも際立たせてくれることに気付かせてくれるような作品にもなっていると思います。また、想像の範囲内で、コラボしたら面白かったと思うのはどんなペアですか。
煮ル果実:そもそも僕らがあみだくじに参加できなかったのは悔やまれることだよね(笑)。僕は、正直、全員とコラボしたいなと思いました。
はるまきごはん:コラボが無理ってことがないのはすごいと思う。結局どんな音楽性でも、作る人たちにひとつの音楽を作ろうという気持ちがあればやりようによっては無限に良くもできるし悪くもできると思います。もう孫の世代でも続けてもらいたい(笑)。その点で言えば、ボカロ文化は途中でなくなってほしくないんですよ。自分が属している今のボカロ文化が、じいちゃんになるとき、どんな姿をしているのかってわからないからすごい気になるじゃないですか。ボカロ文化は続いてほしいなと思う気持ちも、企画のモチベーションのひとつです。
煮ル果実:僕もはるまきさんと同じで、ボカロ文化はもっと広まって強くなって欲しいと思ってますし、それに貢献出来るような、シーンを牽引する存在の1人にいずれなりたいなと思っています。