ニーア音楽のあゆみ。11年に及ぶ『NieR』と音楽の歴史を振り返る

 先ごろ『NieR Replicant ver.1.22474487139...Original Soundtrack』『NieR Re[in]carnation Original Soundtrack』2つのアルバムがスクウェア・エニックスより同時発売された。前者はバージョンアップリメイク作、後者はスマホ用新作だが、円周率のような止めどない数字に目を白黒された方も多いだろう。ゲーム自体は4作しか発売されていないにも関わらず、音楽アイテムが30に迫ろうとする〈ニーア〉シリーズ。その膨大なコレクションの手引きとなるよう、特典類も含んだディスコグラフィを追いながら歴史を振り返ってみたい。

 『NieR Gestalt & Replicant Original Soundtrack』(2010.4.21発売)

 最初に発表されたのは2010年4月。その小数点作のリメイク元となる、横尾太郎ディレクションの『ニーア ゲシュタルト/レプリカント』である。「/」で区切られているのは、プレイステーション3とXbox 360という異なるプラットフォームでバージョンを変えたからであり、兄妹と父娘、それぞれ2つの視点という差異があるが合わせて1つとカウントしていいだろう。

 この時、横尾は音楽担当に岡部啓一を指名した。2人はもともと大学の先輩後輩であり、またナムコ同期入社という間柄。「全曲ボーカル入りで行きたい」というアイデアが横尾から提案されたが、いわゆるゼロ年代アニソンアプローチや声優キャラソンパレードを指すのではない。スクウェア・エニックスからの発売と言うこともあって「同社の目印とも言える、ケルティックな民族要素にも目配せした」と、岡部が語っているように、北欧〜西欧音楽を基盤としたソロボーカルやコーラス、それも日本語や英語に限らず、一聴して国籍判定不能な言語や造語を散りばめた伝統音楽の要素が強いものだ。

 楽器編成においては、アコギやピアノなどのアコースティック楽器やアイリッシュフルートをはじめとする民族楽器に悲劇的クラシカル弦を融合。スクエア作によく見られる牧歌的なムードは薄められ、陰鬱としたトーンでまとめあげた。岡部を中心に、石濱翔、西村隆文、ゲーム仕事初参加という帆足圭吾で支える〈ニーア〉の音楽世界はこうして始まった。(追加音源情報:これにゲーム同梱特典として、追加CDが2枚存在しており、ゲーム未使用曲とセリフ入りの特製メドレーが収録されている。)

 『NieR Gestalt & Replicant 15 Nightmares & Arrange Tracks』(2010.12.28発売)

 〈ニーア〉は好評を持って迎えられ、半年後にはダウンロード追加コンテンツ『15 Nightmares』を発表。打って変わって、前作BGMにトランシーなクラブアレンジを施して本編で使用。岡部指揮のもと、社内作家にアレンジを割り振ってある。これに、ピアノソロや弦楽四重奏、オルゴールなどの新録アレンジを収録したアルバムが追加発売。通常ならここで終わりを迎えるはずなのだが、〈ニーア〉はそれを許さない。

『NieR Tribute Album -echo-』(2011.09.14発売)
『Piano Collections Nier Gestalt & Replicant』(2012.03.21発売)

 なんと1年後にトリビュートアルバム、更に半年後にピアノコレクションをリリース。後者はタイトルの通りだが、前者はWorld's End GirlfriendやSchroeder-Headzといったポストロック/ポストジャズ/エレクトロニカ寄りのグループが国内を中心に12組呼ばれ、独自解釈の〈ニーア〉を聞かせるというもの。切り刻んで狂気に達する者から、スマートに自己の音楽性と融合させて着地させる者まで態度は様々だが、どれもゲーム本編が放つ気品を失っていない。唯一の国外参加となるスウェーデンのジプシーバンド「レーヴェン」は、管楽器とパーカッション類だけでまとめた音楽旅行団ノリも面白い。

 ところでココに2名、変名で参加した者がいる。横尾や岡部と同じく、かつてナムコに在籍した相原隆行と佐野信義だ。彼らと〈ニーア〉の接点は何であろうか。話は『レプリカント/ゲシュタルト』から7年遡る。

『ドラッグ オン ドラグーン オリジナルサウンドトラック VOL.1』(2003.10.22発売)
『ドラッグ オン ドラグーン オリジナルサウンドトラック VOL.2』(2003.11.22発売)
『ドラッグオンドラグーン2 オリジナルサウンドトラック』(2005.7.20発売)
『ドラッグオンドラグーン3 オリジナルサウンドトラック』(2014.1.22発売)

 〈ニーア〉には前世がある。同じ制作スタッフによって2003年からスタートした〈ドラッグオンドラグーン〉がそれで、シリーズ第三弾として企画されたものが〈ニーア〉の原型だ。

 紆余曲折を経てDODシリーズから切り離されることとなったが、物語や世界観に若干の共通性がある。その、初代『ドラッグオンドラグーン』の作曲が、当時横尾と同じキャビアに在籍していた佐野信義と、フリーで活動中だった相原隆行である。ここで、佐野と相原はドヴォルザークやチャイコフスキーら著名クラシック音楽のフレーズをDAWでエディットし組み替えるというブレイクビーツ的手法を用い、「殺し合いの歌」と評されるほどの狂気を演出した。

 ちなみに、続く『ドラッグオンドラグーン2』は、スマイルカンパニーの松本吉勇+由宇あおいによるユニット「あおい吉勇」が作曲。『ドラッグオンドラグーン3』は〈ニーア〉と同じ岡部啓一が担当し、横尾とはこちらでもコンビを組むこととなった。

『NieR:Automata Original Soundtrack』(2017.3.29発売)

 初代から7年が経過。2017年『ニーア オートマタ』が発表される。横尾と岡部は『DOD3』の後に『シノアリス』を開発しながら、続編を制作していたのだった。『ゲシュタルト & レプリカント』と音楽性は地続きで、旋律の強い哀愁ボーカル路線も守られているが、オーケストレーションの規模が大きくなり、エレクトリックなSF志向の打ち込み曲や、シンセアンビエントによる客観曲が新機軸として補完されている。そして何と言っても、前作でボーカルを務めたエミ・エヴァンスと中川奈美に、ジュニーク・ニコールと河野万里奈が参加。2人の声質によって、“力”の要素が加わった点は大きい。前作でサポートに回っていた帆足圭吾は、岡部と半々の量を担当。

 また今回初参加となる高橋邦幸はオーケストレーション曲を主に書き、世界観のスケールアップに貢献している。(追加音源情報: 早期購入で、劇中登場する8ビットアレンジ曲を集めた 『NieR:Automata Original Soundtrack HACKING TRACKS』が1枚付属。)

 『NieR: Automata Arranged & Unreleased Tracks』(2017.12.20発売)
 『Piano Collections NieR:Automata』(2018.4.25発売)

 こちらはアレンジバージョンと未収録曲による2枚組。ディスク1は、元ナムコ・遠山明孝やポストロックバンド・LITEら12組の饗宴で、飛躍が巧みなアレンジサイド。ディスク2は、上記メインサントラから漏れた造語曲を補完しており、ボーカル素材のエフェクティブな加工が聞きどころ。これに再びピアノ作を追加発表し、前作同様、合計4タイトルのカタログを揃えた。

『NieR Gestalt & Replicant Orchestral Arrangement Album』(2018.9.12発売)
『NieR:Automata Orchestral Arrangement Album』(2018.9.12発売)
『NieR Orchestral Arrangement Special Box Edition』(2018.9.12発売)

 2018年、遂にフルオーケストラアルバムを制作。2作同時発表した上、それらをまとめたボックスセットにはもう1枚ディスクが付いてくるというビッグプロジェクトとなる。ボーカルが主役であった〈ニーア〉から歌を剥ぎ取り、インストゥルメンタルのみ、若しくはコーラス程度の編成に留めるという、単にフルオケ=スケールアップ構文に甘えるだけでない、新たな魅力を得るための挑戦作。編曲陣は篠田大介、マリアム・アボンナサー、宮野幸子、山下康介ら。

『NieR Orchestral Arrangement Album - Addendum』(2020.3.25発売)

 先のオーケストラアレンジがプロジェクト集大成かと思いきや、2020年に再度オーケストラアレンジを行う。編曲陣は山下、宮野に絞り、前作と違ってボーカルを臆することなくフィーチャー。2018年盤と合わせ鏡のような存在と言える。(註:早期購入特典で追加ディスク有り) 

 この合間にも、コンサートのライブレコーディング盤や既発音源のヴァイナルが何枚も発表されており、〈ニーア〉2作品は何度もその姿を変えてリスナーを楽しませてきた。そこへ待望の新作となるのが『NieR Replicant ver.1.22474487139... Original Soundtrack』と『NieR Re[in]carnation Original Soundtrack』である。

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