ひろゆきの切り抜き動画は“新たなビジネスモデル”? Guild高橋将一に裏側を聞く
人気YouTuber・ヒカルのマネージャーを務め、宮迫博之、手越祐也をはじめとする多くのチャンネルをエージェントとしてサポートしている株式会社Guildのギルドマスター・高橋将一氏に、ジャーナリスト・赤石晋一郎が“YouTubeの今”を聞く、インタビューシリーズ。今回は、有名人YouTuberのバブルも落ち着いたなかで大きなバズを起こしている、“論破王”ひろゆき氏の「切り抜き動画」について、その仕組みを聞いた。切り抜き動画が量産され、日々急上昇動画としてランクインし、世間を賑わせているなかで、新たなビジネスモデルの確立が模索されているようだ。(編集部)
高橋将一(たかはし・まさかづ)
株式会社Guildの代表取締役。VAZ副社長などを経て2019年にGuildを創業。同社は日本最大のエージェント型クリエイター支援企業として、YouTubeチャンネルのサポート数は約400チャンネル、年商100億円オーバーと急成長中。YouTuberのヒカルのマネジメントを担当し、協業でアパレルブランド「ReZARD」(年商約30億円)を立ち上げ成功へ導き、プロデューサーとしても宮迫博之、手越祐也など、逆境に立たされたタレントをYouTubeで大復活させた。
「ひろゆき」というフリー素材が拡散している理由
ーー最近のYouTubeをめぐる話題として、Guild社の創設メンバーでもある、ひろゆき氏の“切り抜き動画”(ライブ配信における特定のトピックを切り抜き編集した動画)がバズを起こし続けています。こちらはどんな仕組みになっているのでしょう?
高橋:もともとは無断転載のような形で広まっていましたが、現在では切り抜き動画の投稿を許可して収益を分配する、ということを公式に行っており、月間の再生数は合計でおよそ2億5000万回に上っています。収益はYouTubeの規約上お伝えできませんが、申請があれば本人の判断でほぼほぼ動画投稿を許可しており、いわば「ひろゆき」というフリー素材が際限なく拡散される状況が生まれました。
ーー刺激の強いタイトルがつけられており、関連動画をついクリックしてしまう、という視聴者も多そうです。
高橋:ポイントとして、「本人が編集したものではない」ということが大きいと思います。あくまでもひろゆきさんのトークをそれぞれの編集者が“勝手に”切り抜いたものであり、トークの意図するところを正確に伝えるというより、視聴者の関心をあおる週刊誌的なタイトルが遠慮なくつけられる。そこで誤解が生じるをことを気にしない、というひろゆきさんのパーソナリティに依存するところもありますが、ひとつのビジネスモデルとして展開することが可能だと考えています。
ーー公式・非公式含め、有名配信者の「切り抜きチャンネル」にはかなりの再生数を獲得しているものもありますね。
高橋:そうですね。ひろゆきさんほどフリー素材になれる人はそういないと思いますが、人気YouTuberも雑談をベースにしたライブ配信をすることがあり、すべてを追いかけきれないファンも多いので、そこで切り抜き動画を公式に認めていく、というモデルは有効かもしれません。例えばVTuberというシーンでも、クリエイターの人気を広げたい、というファンが有志で切り抜き動画を作るケースが少なくない。クリエイター、ファン、その魅力を端的に伝える切り抜き動画制作者を含め、関わる人々がウィン・ウィンの関係になれる仕組みがうまく作れたらいいですね。
ーー多くのチャンネルをサポートしているなかで、ひろゆき氏の動画がこれだけバズを起こす要因をどう分析されていますか。
高橋:ひろゆきさんの動画の視聴者は、実は若い人がとても多いんです。出演したABEMAの討論番組がYouTubeにアップされ、急上昇動画になることも多く、そこから切り抜き動画への流入がある状況で、つまり若い世代にとって、ひろゆきさんはかつてのような「2ちゃんねるの創設者」というイメージではなく、「論破王」として認知されている。切り抜き動画は、単に「ネットの有名人のトーク」ではなく、「論破王のトーク」というより強いコンテンツのダイジェスト版として視聴されているということです。これは僕の個人的な考えですが、コロナ禍で多くの人が不安に陥りやすい社会情勢で、どんな問題にでもズバッと答えを出してくれるところが受けているのかな、という印象もあります。
また、ひろゆきさんが天才的だと思うのは、メタ視点で物事を考えられることです。同じレベルの知識やトーク力を持っている人はいても、これができる人はなかなかいない。
ーーと言いますと?
高橋:例えば、成功してお金を持っている人は、普通、2~3万円の儲け方を真剣に考えないと思います。けれどひろゆきさんは、コロナの持続化給付金で小金を稼ぐような抜け道を暴き、多くの人にとって身近な話題にしてしまう。倫理にかかわる問題についても、熱を込めずに「聞かれたから答えた」というトーンで淡々と、ストレートな発言をするので、「主義主張」ではなく「エンターテイメント」として楽しめる人が多いのだと思います。ネットビジネス発の“論客”としては堀江貴文さんも高い影響力を持っていますが、そのトークには熱があり、コンテンツとしてはまったく違うものになる。僕はひろゆきさんのことを“人間にものすごく興味があるロボット”だと思っています(笑)。
ーーなるほど(笑)。
高橋:実際に会ってみれば平和主義者ですし、ほとんどの人がメディアで受ける印象よりずっと常識人でいい人だと感じると思います。ただ、知的好奇心が異常に強く、その点で尖った印象を与えている、と言えるのではないかと。
公認の切り抜き動画は新たなビジネスモデルに?
ーー同じモデルで成功するタレント、クリエイターは確かに限られそうですが、発言力のある人がネットで配信を行うとき、切り抜き動画を認めることで、自然にコンテンツ化されて収益源になっていく、というケースは増えそうですか?
高橋:そうですね。何かの分野で成功を収めている人たちが、得意とするテーマに沿って話している様子が動画として切り抜かれれば、それなりの再生数は期待できると思います。そこで削除依頼を出すのではなく、公認して収益をシェアしていく、ということは十分にあり得るだろうと。
ーーオリジナルのコンテンツを作る動画クリエイターとは別に、「切り抜き」について高いセンスや技術を持った編集者も存在感を発揮していくかもしれませんね。
高橋:話題をピックアップして見出しをつける、という意味では、従来のネットカルチャーで言うと「まとめサイト」に近いかもしれません。
ーーこれまで、動画の転載があれば「権利者の申し立てにより削除」というのが一般的だったと思いますが、「公認してコンテンツ使用料を受け取る」というのは面白いですね。
高橋:MCN(マルチチャンネル ネットワーク)を通じてプラットフォームと提携し、デジタル著作権の管理をしていると、転載動画を削除したり、収益をこちらのものにしたり、ということがスムーズにできます。しかし、認めてコンテンツのリーチする範囲を広げ、利益をシェアするというのもひとつの方法だということです。ただ、例えばコンテンツホルダーが上場企業だと、コンプライアンス上のリスクもあり、管理コストの面からもなかなか難しいかもしれません。