『ファミリージョッキー』から『ウマ娘 プリティーダービー』まで――“ウマのゲームミュージック史”を振り返る

『ウイニングポスト』

WINNING POST

 コーエー(現・コーエーテクモゲームス)の『ウイニングポスト』(ウイポ)は、『ダービースタリオン』と肩を並べる長寿シリーズだ。第1作は1993年1月にPC-9801用ソフトとして発売され、その後さまざまなハードに移植された。ジャズピアニストであり、中山美穂のツアーサポートやアレンジャーなどで活動していた山崎洋一と、作編曲家の新井智詞が音楽を手がけ、1994年9月にサウンドウェア(アレンジサントラ)がリリースされた。オリジナルファンファーレはMac版、PC-9801版パワーアップキット、3DO版で使用されたものが収録されている。楽曲は全体的にジャズ/イージーリスニング調でまとめられており、「風にそよぐたてがみ~牧場訪問~」のフレッシュなアレンジや、「そして血統のために~名馬引退~」のピアノアレンジが印象的だ。

WINNING POST2
UNIT33

 1995年3月に『ウイニングポスト2』がスーパーファミコン用ソフトとして発売(翌年にプレイステーション、セガサターン、PC移植版が発売)では、タケカワユキヒデがメインコンポーザーを務めた。ゴダイゴのヴォーカリストであり、ソロアーティストとしても著名なタケカワは90年代に入って活動の幅を広げ、1992年発売の『ソウルブレイダー』でゲーム音楽家デビューを果たしている。『ウイニングポスト2』はタケカワにとって2作目のゲーム音楽作品にあたり、ゲームと同時期に発売された同作のサウンドウェアでは梶本芳孝のアレンジによる音楽を収録。歌心あふれる「風とたわむれる」〈事務所・GI開催週〉や「夢の始まり」〈事務所・通常週〉など、アダルトオリエンテッドなロック/ポップスを聴かせる。また、俳優の団優太と中村獅童がタッグを組んだヴォーカルユニット UNIT33が歌ったゲームのイメージソング「香水工場」(作詞:売野雅勇/作曲:楠瀬誠志郎/編曲:小西貴雄)の存在もトピックだ。楠瀬の華やかなコーラスアレンジに彩られた爽やかなポップソングである同曲は、ゲーム中の仔馬誕生イベントで流れるウェットなバラード「永遠の少年」のヴォーカルヴァージョン(作詞:売野雅勇/作編曲:小西貴雄)とカップリングでシングルカットされた。これら2曲のシンセサイザー・オペレートは橋本由香利が手がけている。その他、スーパーファミコン版『ウイニングポスト』『ウイニングポスト2』の音楽をカップリング収録した『光栄オリジナルBGM集 Vol.13』もリリースされた。

WINNING POST Series Soundtrack

 2014年8月に発売された『Winning Post 8』の豪華版パッケージ「20周年記念プレミアムBOX」に、歴代作品の楽曲をセレクト収録した2枚組サントラCDが特典として同梱された。DISC 1には山崎洋一(初代)、タケカワユキヒデ(『2』)、半井香織(『3』『4』)、高井興(『4』)、志知道彦(『4』)、本間雅明(『5』)、中村新一郎(『6』『7』『World』)、五十嵐一歩(『7』)、稲毛謙介(『World』)の楽曲、DISC 2は中村新一郎と高橋洋明による『8』の楽曲が収録されている。

『ギャロップレーサー』

 1995年3月、『ウイニングポスト2』とほぼ同時期に発売されたスーパーファミコン用ソフト『TURF HERO/ターフヒーロー』で競馬ゲームに参入したテクモ(現・コーエーテクモゲームス)は、翌年9月に〈業界初の3Dジョッキーレースゲーム〉としてアーケードと家庭用(プレイステーション用ソフト)で世に送り出した『ギャロップレーサー』のヒットで本格的に軌道に乗った。続く、1997年発表の『ギャロップレーサー2』と1998年発表の『ギャロップレーサー3』もアーケードと家庭用の双方で展開している。2000年2月に発売された『ギャロップレーサー2000』から家庭用に一本化。2001年から2006年にかけてプレイステーション2用ソフトとして『GALLOP RACER FIVE』『Gallopracer6 -Revolution-』『GALLOPRACER LUCKY7』『Gallop Racer8 -Live Horse Racing-』『Gallopracer Inbreed』の5タイトルが発売。2007年8月から2009年3月にかけてオンラインゲーム版『Gallop Racer ONLINE』が運営され、コーエーテクモゲームス発足後は、旧コーエーが1999年より展開していたジョッキーシミュレーションゲーム『GI JOCKEY/ジーワン ジョッキー』シリーズとゲームシステムを融合させた『Champion Jockey: Gallop Racer & G1 Jockey』が2011年9月に発売。スマートフォン向けゲームアプリ『Gallop Racer』が2013年12月(android版)と2014年2月(iOS版)に配信され、2015年7月まで運営された。

GALLOP RACER2000

 音楽性はテクノ/ダンスミュージックを基調にしており、他社の競馬ゲームとは一線を画している。2000年4月にリリースされた『GALLOP RACER 2000 ORIGINAL SOUND TRAX』がシリーズで唯一のサントラ作品であり、メインコンポーザーを高橋洋明と稲森崇史が務めた。R&B、ソウル、ラテン、ファンクフレーバーをふんだんに加味したスタイリッシュなサウンドで、同シリーズのプレイステーション時代の総決算といえる充実の内容だ。渋谷系サウンドな「Passions Ches France」(フランスレース)や、ゴダイゴにインスピレーションを得たというファンクロック調の「Phunky Typhoon」(香港レース)、アラブ系の音ネタを詰め込んだ「Billion Nights」(ドバイWCレース)といった変化球も楽しい。また、同サントラにはボーナストラックとしてアーケード版3作の音楽がメドレー形式で収録されており、シリーズ音楽の変遷を辿ることができる。サウンドコンポーザーは、初代が花岡拓也、高橋洋明。第2作が高橋洋明、宮崎博、宇田川昌昭、豊田亜矢子。第3作が高橋洋明、稲森崇史、袖岡隆泰によるもの。初期シリーズの音楽の要を担った高橋は後に『Winning Post 8』の音楽制作に参加し、豊田は先ごろ発売された『Winning Post 9 2021』でサウンドディレクターを務めた。

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